生き残るために軍師になったけど、軍師の才能があったようです

八咫丸

佐竹家の軍師になる

1 佐竹義重との出会い

 

「いてて、なんだなんだ?」


寝ていたはずなのだが、突如宙に浮かんだ感覚がして目が覚めたかと思えば、次の瞬間には尻から落下していた。そして予想通りの衝撃が体に響いた。


衝撃による尻の痛みと共に、眩しい陽光とひんやりとした風を肌に感じていた。


だがそんなことはどうでもよかった。


「え、ここどこ?」


そう、目を開けた俺の目の前には見知らぬ光景が広がっていたからだ。そのお陰で眠気は一瞬にして覚めたので、自分の置かれるまでにいたった状況整理を始めることにした。


まず俺は寝ていた。そしてふわっとした宙に浮いた感覚で意識がうっすら戻ったかと思えば、落下し痛みを感じた。その瞬間はベットから落ちたものだと思った。だが実際は部屋の中ではなく、外にいることからそうではなかった。しかも見覚えが全くない場所ときている。


そうなった理由として考えられるのは拉致をされたことくらいなのだが、犯人らしき人影がどこにも見えない。


あーだめだ、考えてもわからない。


一旦深呼吸をして周辺を確認することにした。目視でわかるのは人が行き来してるであろう道と一面に広がる田畑だ。ならこの道に沿って進めばこの田畑の所有者に助けを求められるかもしれない。


そうと決めた俺は道を歩き始めようと立ち上がったが、幸運な事に話し声が聞こえてきた。


拉致をした犯人が戻ってきたという可能性もある。だが、ここで反対方向に走って逃げても状況は変わらない。そのため道の脇に移動し、立ち止まって待ってみることにした。そして見えてきたのは乗馬した女性とその付き添いと思われる女性だった。


そんな光景を見て少なくとも拉致をした犯人ではないと安心をし、同時に乗馬体験か、いいなぁと呑気なことを考えてしまった。


余計な思考を振り払い、助けを求めるために自分から近づいていった。しかし次の瞬間付き添いらしき女性から脇に差してあった刀を抜かれて自分に向けられた。


「貴様何者だ!それ以上近づけばその首跳ねるぞ。名を名乗れ」


すごいなぁ、設定が凝ってる。リアルな刀だし、それなら俺も設定に合わせるべきだろう。


「これは失礼。申し遅れました。私、枢木夜一くるるぎよいちと申します。御二方の名もお聞かせ願えますか?」


最大限の礼節を持い、かつ笑顔で対応してみたがどうだろうか。反応をみてみるとしよう。


「面白き男だ。刀を向けられている状況で落ち着いて名乗り、更にはこちらの名を聞いてくるとは」


「主君、この者を斬り捨てますか?」


あれ、対応ミスったか?なんか付き添いの方が怒っている。てか斬り捨てるって、初めて言われたぞ。


「よい。それより枢木と言ったな」


「はい」


「望み通り名乗ってやろう。私の名は佐竹義重さたけよししげ。ここ常陸国の北方に位置し、太田城を居城としている佐竹家の当主だ。そして今、お前に刀を向けているのは家臣の真壁氏幹まかべうじもとだ」


「佐竹様と真壁様ですね」


やけにマニアックな武将設定だな。それに常陸国といえば日本の旧名称だ。戦国SLGでよく目にするが、そこまでくると逆になりきり過ぎていないだろうか?


「氏幹、刀を納めよ」


「はっ」


そう義重が支持すると刀を鞘に戻した。


「それにしてもお前、いや枢木よ、見た事のないような格好をしているが、もしや噂で聞く南蛮の服を着ているのか?」


本当に俺の服に対して疑問を持っているように見えるな。まるで本当に初めてみたかのように。ひとまず話は合わせておこう。


「左様でございます。南蛮の商人より購入した衣服でございます」


「ふむ、南蛮の物を買えるとなれば裕福な子息か。ではなんの目的があって常陸に来た?目的もなく来るはずがない」


この反応やはりおかしい。設定とは到底思えない。でも設定でなければなんだ?


「枢木、義重様の言葉が聞こえないのか!」


困惑している俺に対して氏幹がそう言った。今にも刀を抜きそうだったが義重が制止していた。


「よい、氏幹うじもと。少しは落ち着け。それくらいで私は怒りはしない」


仮説をたてよう。俺は本当に戦国時代にきたと。だがそうだとしても女性が当主って有り得るのかこの時代に? いやとりあえず日本人なら当然わかる質問をしよう。


「すみません、考え事をしておりました。お答えする前に一つ質問を、東京を知ってますか?」


「とうきよう?なんだそれは。南蛮の物か?」


なるほど確定だ。ここは現代ではなく、戦国時代の可能性が高い。なら俺はどこかに属しておく必要がある。ならこの縁に佐竹家にお邪魔できたりしないだろうか。幸いにもどこかの裕福な子息と思われているようだしな。


「いえ、私の大事な物です。先程失くしたことに気づきまして。それより私の目的ですが、実は佐竹家に仕官したくこの地へ参りました」


佐竹家は悪くない。なにより当主の義重は有能だったと記憶している。確か鬼義重おによししげ」の異名で恐れられ、北条氏と関東の覇権はけんを巡って争い、佐竹氏の全盛期を築き上げた名将だったからだ。


まぁ実際に目の前にいる義重は美人で、纏う雰囲気は冷たさを感じさせるが嫌な感じがしない。髪色は銀で長さは腰くらいまであるだろうか。


「義重様、どうされますか?」


真壁氏幹。佐竹義重に仕えている猛将で、その武勇から「鬼真壁おにまかべといわれてたとか。


だがこちらも実際目の前にいるのは、気の強そうな女性だ。細身ではあるが引き締まっているのが着崩した甲冑越しにわかる。義重に負けず劣らずの美人であり、髪色は金髪で後ろで結んでいる。


性別が男性ではなく女性になっていることから、俺の知る戦国時代とは違う戦国時代の可能性が高い。


「ふむ、仕官したい理由は?」


義重が俺に尋ねた。


仕えたい理由。こちらの事情をそのまま伝えても意味がわからない。上手いこと言わなければ。


「私が佐竹家に仕えたい理由は単純です。義重様を尊敬しているからでございます。統治だけでなく、その武勇、もちろん真壁様の武勇も知っております。その強さといったら一騎当千だとか」


「私まで知ってるのか。私は気に入った!私の直属の部下にしてやる!私を氏幹と呼べ」


「わかりました氏幹様」


「様はいらない!」


「わ、わかった氏幹」


思った以上に好反応だ。そんな上手くいくものか?


笑顔でバンバンと背中を強く叩いてきた。歓迎してくれているんだろうけどかなり痛い。


そんなやり取りをしていると乗馬している義重が、氏幹を拳でゴツンと殴った。


「な、なぜゲンコツを?」


氏幹が頭に手を乗せて涙を浮かべながら言った。


「勝手に話を進めるからだ。枢木は私に仕えたい言っている。だから家臣にするかどうか決めるのは私だ」


「それは……はい」


わかりやすいくらい氏幹は落ち込む。


「わかればいい。それより少し強く殴ってしまい悪かったな」


そんな氏幹を優しく義重は慰める。このやり取りを見るだけで、お互いの信頼具合がわかる。


「今の佐竹家は人材に困っておらず、兵に関しても困っていない。だが佐竹家には専門の軍師がいないのだ。だから軍師としてならば仕官を考えてもいいのだが、できるか?」


戦国時代の軍師の代表格といえば黒田孝高(官兵衛)や竹中重治(半兵衛)だろう。そんな名高い軍師に俺は足元にも及ばない。それどころかそこらの軍師にすら及ばない素人も素人だ。戦法も全く知らないのだから。SLGで得た微かな知識くらいしかない。だが生きるために軍師にならなければならないのであれば、俺は軍師になろうじゃないか。


「軍師に関しては素人にも近いですが、そんな私でよければ軍師として仕えたく思います」


「ふふ、正直だな。気に入った。案ずるな。どんなに秀でた軍師であろうと最初は素人だ。反応を見る限り知識なら多少あるのだろう?ならば日々努力を怠らず、佐竹家の名に恥じない軍師となればいい。期待しているよ」


「はっ」


こうして俺は佐竹家に仕えることになった。

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