ただの独り言

如月 七生

01 定位置

毎日同じ時間の電車に乗って、

毎日同じ先頭車両2番目のドアの左側に立つ。

横の座席に座るのは、少し音漏れしてるイヤホンを差し込んだ男の人。

だいたい邦楽ロックが流れる。

ドラムが刻むリズムが遠いところからハッキリと耳に届く。

これは嫌じゃない。


退屈な日々。

何も変わらない。

変化が欲しいけど、変化を自分で作るのは億劫。それでも誰かに連れていってほしい。

誰か?

どこへ?


別に泣きたくなるような嫌なことは身の上に起きていない。

押さえられない怒りも今のところ無い。

ただ、全力で顔をクシャクシャにした笑顔もしていない。


人任せな人生そのもの。

あーあ。


ふいにドラムにギターの音が重なる。

男がイヤホンを外していた。

けっこう音漏れてるんだけど。

視線がぶつかる。

なにか言いたげな顔。

私なにかしたっけ?

とりあえず目をそらしたかったけど、視線が強くてそらせない。


おもむろにドアが開く。

あわてて降りる私。

逃げたわけじゃないよ。

嘘。逃げた。

視線が怖かった。


明日もあのドアの左側に立とうか?

どうしよう。

悩む。

こんな変化が欲しかったのかな自分。

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