第11話 『鬼ごっこ』
タイタンを出発してから数時間
わたしとレアとタクの三人は馬車の操縦を習っていた。
ここから先もマーくん一人に任せっきりというのも気が引ける。必ずしもマーくんが操縦できるとは限らないし、覚えておいて損はないだろうとみんなで教わることになった。
マーくんがいうにはわたしは筋が良いらしい、レアも馬と相性がいいみたい。タクは、苦戦していた。器用ではないけど努力家だから必ずものにするだろう。
そのあとも特にトラブルも無く順調に進んでいた。辺りも暗くなり始めたのでそこそこの所で野宿となった。
次の日、お昼頃に村への案内の看板を見つけた。看板の端に張り紙があって『アイナ村!挑戦者求ム』と。
「挑戦者……」何だかワクワクする響きだ。
「どうします?寄ってみます?」 マーくんが手綱を握りながらみんなに聞く。
「いいんじゃないかな?ねぇタクミ?」
「なんで俺に聞く、まあいいんじゃないか?」 地図で位置を確認しながら 「アイナ村はこの辺か、かなりいいペースだし、寄り道もいいだろう」
「よーし!それじゃ!れっつらごー!」 旅の醍醐味、初めての寄り道!
アイナ村は10分ほどで着いた。結構大きい村だ。入ってすぐ目に入るのはレンガ造りの建物で住宅地だろう。そこそこの高さがある。人通りも多い。
その中に『挑戦者はこちら→』という看板を持ってる人がいる。
「勢いで来たけど何するのかな?」
「ん?君ら何も知らないで来たのか、なかなか勇気のある子たちだな」と近くで見張りをしている警備兵の様な人が話してくれた。
「毎年やってるんだよ、この催し物、しかも今日なんだよね」白い歯を見せて笑う。 「そして、何をやるかというと鬼ごっこだ!」
「鬼ごっこ…」
ルールは鬼となる人が三人居て、その人から一定時間逃げ回る。範囲はこの村全体だ。
単純なものであるが、逃げ切れた人は少ないという。
「そろそろ受け付けが終わっちゃうから、役所へどうぞ。この道真っ直ぐ行けば着くから」 急いで急いでと紙を渡される。
「申込書、とりあえず役所へ行こう」
しばらく歩いて役所に着く、役所もレンガ造りで住宅街で見たものとそう変わらないように感じる。役所という風には見えない。中はレトロで落ち着く雰囲気だが、なんだか騒々しい。
「挑戦者の方はこちらへーもうすぐ締め切りですー!」
端の方で女性職員が声を張り上げてる。あそこだ。
「はいはいー参加しますー!」
「名前と同意書にサイン。それと参加費銀貨1枚です」
書くもの書いて、荷物を預かってくれるとのことで預けて、胸当てみたいなものを渡される。
「もうすぐ始まりますので、役所から出て東へ行ってください。広場があって人も集まってるはずですので」
広場へ向かうと多くの参加者がいた。広めのお立ち台が用意されていて、周りには大きいガラスがいくつも浮いている、そこには何か映像が映されていた。
「凄い人ですね、みんな参加者ですかね? あ、誰か前に出てきましたよ」
キョロキョロと周りを見ていたが、マーくんの言葉で前に目が行く。
「あー、あー、皆さん誠にお待たせいたしました! 司会はワタクシ、マイク努めます! そろそろ開催となります!」
参加者がワーキャーと盛り上がる
「というか、なんだあの棒みたいなの、声が響いて聞こえるぞ…!?」
タクがブツブツと何か言っているが司会の声でよく聞こえない。
「今回もモニターにて実況をしちゃうぜ! 途中でトイレなんて行ったらばれちゃうぜー! 気を付けろよー! 建物の中も禁止だ! そして範囲だが結界が張ってあるからそこから出たら失格扱いになるから気を付けろよ! 出れるとは言ってないけどな!」 一息入れて 「魔法も禁止な! 使ったら即刻ばれるから! 村長の探知能力すごいんだからな! もちろんスキルもだ、それもすぐにバレるぞー! あと胸当てはしっかりつけるように、逃げ切ったときに賞品がもらえなくなっちゃうぜ、始まったら付けられなくなるから今のうちにな!」
「そして、今回の鬼はいつものこいつらだ! 頼むぜオマエラ!」
床から爆発とともに鬼のマスクを被った筋肉の大柄男が出てきた。
「こいつらの手にはその胸当てがついた対象に触れると胸当てが外れるような仕組みのグローブが付いてるんだ、つまり触れられても触れても終わりだ、見た目の割に大分早いから気を付けろよな! 村を三分割した中に一人ずつだから挟み撃ちはないぜ! そして注目の賞品は中央都市デンデにいくと良いことあるカードだ! ホントに良いことあるからな! 頑張れよ!」
エンデに行くと良いことあるカードってなんだ…名前適当過ぎでは……。
「そしてそして、最後に住民の皆さんへ! いつもの事だけど怪我したくなかったら建物の中へ入っておけよ!」
「ようし、言うこと言った気がするし、そろそろ開始だ! 男性68人女性14人の総勢82人気張って行こう! 1制限時間は2時間! さあ逃げた逃げた! 1分後に捕まえに行くぞ!」
挿絵(By みてみん)。
「…つまり、2時間逃げればいいってことだよね!」
「その通りだけどなんか…」タクが頭を抱える。
「それじゃ適当に逃げますか」気の抜けた声で喋りながら体を解してる。
「私たちなら森が逃げやすいかな?」レアも気合入ってる。
さーて、逃げ切って見せましょう!
始まって30分
すでに半数が捕まった。捕まるたびに司会が呼びあげる。声は村全体に聞こえるようになってるみたいで数を数えるだけで大丈夫だが。
「あいつら、あの図体でかなり早い……それに一番ヤバいのがあの体力だな」
四人の中で一番が体力あるタクの呼吸が早くなっている。
「地理の理は、向こうにあるし、結構厳しいかもね」
職的に体力が少ないマーくんが一番辛そうだ、膝に手を付いて肩で息をしている。
「市場は裏路地が多いけど先廻りとかされたら厳しいし、どう考えてもあそこは罠」
冷静に分析してくれてる。ありがたい。
「そうだな、住宅街も同じ意味で厳しいな……。となるとやはり森だな」 森へ目線を向ける。
「だよねぇ、わたしたち昔から森にしか行かなかったし、結局そこに落ち着くんだよね」
あと1時間半……。まだまだ先は長そうだ……。
それから30分
残り26人
流石に捕まるペースが落ちてきた。強者だらけだろう。
残り1時間
それから5分後
マーくんが「ここは任せて先に行け!」と体力切れにて確保される。
残り55分
25分後
残り17人
あと30分だ、頑張ろう。
とそこでアナウンスが入る。
「あー残り17人、今回の参加者はなかなかやりますねぇ、あっはは」
「ここからペース上がるよー、鬼さん重り外しちゃいなよ!」
「ちょ、おまっマジかよ!」
5分後
5人捕まる。残り12人その間に追いかけられたけど、鬼の足取りが軽くて俊敏になってた。あれは近付かれると厄介そうだ。
残り25分
5分後
4人捕まる。残り8人
残り20分
5分後
2人捕まる。残り6人
残り15分
5分後
2人とタクが捕まる。逃げてるとき、市場に入ってしまい予想通り先廻りされて泣く泣くタクが引き付けてくれて捕まってしまった。
残り3人 残り10分
「あと10分終わりだ! 残り3人みんな女性だ! 頑張れよ!」
5分後
生き残りの女性と出会う。薄い金髪のまるで妖精みたいな人だ、この世の者とは思えないくらい綺麗な女性だ。
残り5分
お互いの健闘を祈りつつ別れる。
さて、最後の難関だ。精一杯逃げよう。
2分後さっきの女性が捕まってしまった。
そこで鬼とばったり出会ってしまう。
あの速さ、直線では追いつかれてしまう。だがこの山道なら、逃げ切れる可能性はある。と思っていたがその考えは甘かったようだ。少しずつ追いついてきている。直線だったらもう捕まってるだろう。山に着て正解だ。このままだとじり貧だ、一つ手を打たないと。レアと目配せする。
少しペースを落とし疲れてる素ぶりをする。よし近付いてきてる。そのままもう少し引き付ける。距離が3mを切った辺りで全力で地面を蹴りあげる。直角へ左右に分かれる。
あと2分
鬼が一瞬だけ動きを止める。鬼が笑ったような気がした。時間は一瞬あれば良い。一気に突き放す。それからなるべく足音と気配を消すように立ち回る。
残り1分 レアが捕まる。
あと一人
向かってきている。距離はあるが時間までに捕まりそうだ。なるべく走り続ける。
残り15秒
距離が近い、ここだ。
思いっきり木へ飛び上がる。太い木の枝を掴み、坂上がりをするように掴んだ枝の上に乗る。そのまま木々へ移りながら逃げ回る。
残り時間僅か。
木の天辺から鬼へ向かって飛ぶ、かなりの高さだ。鬼の動きが止まる。驚愕の表情をしている。
丁度良い位置だ。
宙に居る間に汽笛のような音が鳴り響く。時間が来たようだ。
「しゅぅーーーーりょぉーーーーーう!!!! なんと!! 一人逃げ切り成功です!! 4年ぶりです!!!」
そのまま重力に従って鬼へ向かって落ちる。
そのまま鬼は受け止めてくれ、そっと下ろしてくれた。
「お前、馬鹿か? 何考えてんだ」 親に怒られたような気分になった。「俺が避けたらどうするんだよ」
「あなた、さっき笑ってたでしょ? 楽しそうにしてたから、危なくなったら助けてくれるかなって」
「ははっ、こいつは馬鹿だな!」クックッとお腹を抱えて笑っている。
「さて、戻るか、お嬢さん」
会場へ戻ると盛大に歓迎された。と同時に
「お前馬鹿か!? 危ないだろ何してんだ!?」 さっきと同じような事をタクに言われた。
「と言っても今更言ってもどうしよもないし……」 レアに呆れられてしまった。
「あっはは、相変わらずアグレシッブだねぇ。何はともあれ、おめでとう」
叱られて、呆れられて、笑われてしまう。
「クックック面白い奴らだな。そらお立ち台へ行くぞ」
「皆さんお疲れ様でした! 今回はなんとこのお嬢さん、セチアさんが逃げ切ることに成功しました! 盛大な拍手を!」
わーわーと歓声が上がる。
「そして賞品の中央都市エンデで良いことあるカード! おめでとうございます!」
手の平くらいのサイズ、黒いカードだ。
「それでは一言お願いします!」
黒い棒を渡される。これに向かってしゃべればいいのだろうか。
「ええっと、仲間がいたから何とか逃げ切ることができました! ありがとうございました!」
三人が注目される。マーくんはハンカチ片手によよよと泣いてる振りをしてる。タクは鼻の下を人差し指で擦ってへへっという感じで自慢げにしてる。彼らは何者なのだ……。
レアは注目を浴びて恥ずかしそうにしてる。レアだけは信じてたよ……。
「今回はここまでだ! また来年! それまでに逃げ足でも鍛えておけよな! アデュー!」
拍手喝采がおき、無事に鬼ごっこは終わった。一時の静寂に包まれ、すぐに大勢の人に詰め寄られる。
すごかったよとか握手してとかコツ教えてとか可愛いとか俺を鍛えてくれとか色々言われて何が何だか分からなくなり目を回していると、鬼の人が道を作ってくれた。
「筋肉さん……」
「なんだその名前は、俺の名前はロイだ。用心棒をやっている。何かあれば俺を呼べ、力になってやるよ。お前の事、気に入ったぜ」クックックと笑いつつ名刺を渡してくれた。
「ありがとう、よろしくね」と、とりあえず三人の元へと向かう。
「ここは人が多い、一先ず避難するぞ!」
そうやって飛び出したはいいけど何処へ行っても人が集まってしまう。すっかり有名人だ。
何とか宿に逃げ込んで一息つく。
「つ、つかれたぁ……」 とベッドに倒れこむ。鬼ごっこより疲れたかもしれない。こんなにも大勢の人にもみくちゃにされることなんてなかったから大変だ、でも、少し嬉しい。
宿は二人部屋で男女で別れた。久しぶりにレアと二人な気がする。
「セチアちゃん有名人だね」レアが隣のベッドへ座る。
「嬉しいけど、大変~」 ふかふかのベッドが気持ちいい、このまま寝ちゃいそう。
「少し休んだら?私も疲れたし」ふわぁと小さく欠伸をする。
「そうだねぇ、ちょっと寝ます~おやすみ~~…」
気持ちいい毛布に包まれてるからか、すぐに意識が落ちる。
数時間が立ち、ふと目が覚める。辺りはすでに夜だ。夕ご飯を食べてなかったので食堂へ向かう。書置きはきちんとしておいた。
時間は大分遅い、食堂ももうじき閉まる頃だろう。適当に食事を頼んでると、隅の席に人一倍目を引く容姿の女性が食事をしていた。
鬼ごっこ最終局面で出会った薄い金髪の綺麗な女性だった。
此方に気付くとニコリと笑って宜しければどうぞと誘われてしまう。高級な楽器のように綺麗な響きだ、聞いてて心が穏やかになる声だ、いつまでも聞いていたい。
「あの、えっとすいません失礼します……」 ドキマギしてしまう。
「セチアさん、でいいです? 私はソフィ、宜しくね。ソフィとお呼びください」
ソフィ、綺麗な名前だ。白いワンピースの様な軽装で、というか無防備じゃないかと思う。
「は、はい、わたしもセチアと呼んでください」 というと、ふふっありがとうと返してくれる。何だこの気持ちは…。
「鬼ごっこ凄かったね、おめでとう。あんなやり方、私には思いつかない」
「いえいえ、あんな野生チックなやり方はわたしだけでいいです、ソフィさんには似合いませんよ」やははと笑った。
「そう?私、木登りとか好きよ?」
ソフィが木登り…想像ができないがそれだけで絵になりそう。
「そういえばソフィは何処から来たの?」 妖精の国からでも不思議ではない。結構まじめにそう思ってる。
「私はエンデからよ、ただのしがない賞金稼ぎです」
「賞金稼ぎなんですか? わたしたちもそれを目指してエンデへ向かっているところなんです」
「あらそうなの?試験、結構大変だから頑張ってね」
「はい、がんばります!」
食堂のおばちゃんがもう占めるからごめんね、と言われてしまう。結構話していたみたいだ。
そのままお開きにしてまたねとソフィに別れを告げた。
部屋に戻り、軽くシャワーを浴びてベッドへ戻る。
今度こそちゃんと寝よう。
―――ソフィ、綺麗な人だったなぁ―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます