第06話 『温泉と賞金稼ぎと』
東方都市タイタン
何だかんだで3日くらいの道のり、あっという間のような気がした。予想以上の速さで着いたみたいで、タクは何だか悔しそうにしてる。
城門で立ち入り検査を受けて許可書を貰う、はずだったが。
「君ら、なんでそんなにボロボロなのかね? 厄介ごと持ち込んでないだろうね?」
武器、防具は手入れはしているが隠せないほどボロボロだ、武器は結構な良品らしいが鍛冶屋でメンテナンスも必要だろう、防具に至っては元々傷んでいたのが一層酷くなった。穴が開いている物すらある。連日のトラブル続きのせいで馬車も傷んでいる。
これを見てただの商人とは思えないよね。
「いやぁ色々とありまして、彼らもただの友人で護衛を……」
マルフさんが検問者に説明をしている、少し時間が掛かりそうだ。
「こんな有様じゃ、ねぇ……?」
馬車とみんなの装備を眺める。装備も衣服も酷い。早く入って鍛冶屋と服屋にでも行こう。それと宿も。
にしても検査待ちの人が増えてきた。時間かかってるからしょうがないか。
……色んな商人がいるものだ、農作物以外だと何があるのかな?後で市場でも見て回ろう。
「ごめんごめん、許可貰ってきたよー」
急ぎ足でマルフさんが戻ってくる。
「見る限り不審だからしょうがないけど、あちゃ、大分混んできてる。早く入ろう」
重々しい音を立てて扉が開く。ついにタイタンへ!
足を踏み入れて最初に感じたのは木の香りだった。
木造の建物ばかりだ、焦げ茶色の建物、赤い傘のようなものが差してある椅子、不思議な空間だ。そして不思議と落ち着く。昔から木に囲まれて育ってきたのもあるからか、いやそれだけではないか。
「なんだか、良い雰囲気の街だね」
「あぁ、すごく懐かしい感じがする」
懐かしい、それだ。それがあるから心地よく感じるのか。
「いい所だね、木のいい香りがする」
「んん。これは……ヒノキの香り……?」
「うん、良く分かったね、この辺の物にはヒノキが使われてるから、いつもいい香りがしてるよ」
柔和な笑顔をするが、すぐに目線を先へ向ける。
「さてさて、とりあえず市場へ向かうよ、荷卸しお願いね」
「あぁ、忘れてた」
完全に忘れてた。
「売り出しは明日のお昼からだから荷卸し終わり次第ゆっくりして、観光でもどうぞ」
「わかりました。それと出来れば、宿と服屋と鍛冶屋を教えて頂けると助かります」
タクがメモ用紙に何か書きながら確認を取ってる。
「いいよ、宿なら……」
――――――――
しばらくして市場へ着いた。
かなり広い通りで、すでに準備が進んでいる。みんなかなり張り切っているようだ。人の通りも多い。
「はえーすごいなぁ、いつもこんなに人が集まってるんですか?」
準備を手伝いながら辺りを見回す。
「そうだね、いつもこんな感じだよ。すごく盛り上がるし売り上げも良いんだ……」
言い終えてから、此方を見ながら指を顎に手を当てて何やら悪い顔をしている。
「な、なんでしょう…?」
「うーん……。セチアちゃんとレアちゃんのお二人さん」
不敵な笑みを浮かべて楽しそうにしている。
「明日アルバイトをする気はない?」
詳細は明日の朝に、とのことでひとまず市場の準備を終え、宿へ向かった。
今日の宿はリョカンと言われる宿で、わたしたちは特に問題はないので四人で一部屋になった。部屋はタタミ張りの作りで、布団は床に敷くらしい。仕切りをしたいならフスマを使ってくれと言われた。部屋自体はそこそこ広く、ゆったりと使うことが出来そう。
「何か靴を脱いで部屋に上がるのって慣れないねー」
タタミの上でゴロゴロ転がってみる。タタミの匂いが良い、草の匂いだろうか。
「とか言ってすっごく寛いでるじゃない」
レアもタタミの上でゴロゴロし始めた。
「あ、これ、結構良いかもしれない……」
リラックスした表情をして、口元が緩んでいる。
仲間が増えた。
………。
「はっ! ゴロゴロするのもいいけど、お風呂お風呂!」
そうだ、数日振りのお風呂だ!
お風呂は自然の物を使ってて、オンセンと言うらしい。地熱で温められらのを汲み上げて貯めて使ってる。普通のお湯と違って色んな効果があるという。
それ変わったルールでコンヨクというもの存在してて、なんと男女が一緒のお風呂に入るというのだ。はたして使う人はいるのだろうか…。疑問に思う所だが、あるということは使う人がいる、という訳だ。
これは、何とも言えない習慣だ…。
ここは男湯、女湯でちゃんと分かれているので、そこのところは安心だ。
レアと一緒にお風呂場へ入る、ちゃんと女湯だ。
服を脱いで籠に着替えと一緒に入れる。そして浴室へと向かう、最初に体を洗い、旅の汚れを落とす。一応毎日水浴びはしていたが、それでも汚れるものは汚れるのだなと、頭もしゃくしゃく洗って綺麗さっぱり。いつもより髪が艶やかだ。
そして、お風呂へ入る。
……ふぉぉぉ………。
これは、すごく、気持ち良い。
疲れがじわじわとお湯の中に溶けていくかのようだ、体の芯からじんわりと暖めてくれる。
気持ち良すぎて潰れた饅頭になったようだ、顔がすごく緩んでるのが分かる。レアも同じようになってるみたい。気持ち良いものね。
しばらく二人して腑抜けていると、近くに居た60歳半ばくらいのおばあさんがニコニコとこちらを見ていた。
「はっ、えっと……」
変な顔を見られた、ちょっと恥ずかしい。
「あぁ、ごめんなさいね、可愛らしい双子さんだと思ってつい見てしまってたの、それに孫を思い出してね」
火照ってた顔がさらに赤くなる。
「やわわ……」
変な鳴き声みたいなのしか出なかった。レアはまだ腑抜けてる。
話題を変えよう。
「えっと、お孫さんですか?」
「えぇ、同じくらいか少し年上くらいの。双子だったわ、3年前に中央の方へ行ってしまって…それから会えていないの」
少し寂しそうだ。
「……よろしければもう少しお話聞かせてもらえませんか?」
「えぇ、こんな年寄りのお話で良ければいくらでも」
最初に見た嬉しそうな笑顔に戻った。
「その前に、まずはここを出ましょうかね」
「逆上せちゃってるわよ」
おばあさんはレアを見ながら苦笑いをした。
お風呂を出て身支度をして、休憩場のようなところへ来た。服装はユカタという白ベースの青い斑点が等間隔にある服だ。上と下が一緒になってて腰に帯をまくスタイル、さらに薄手で朱色の羽織る物を着る。ついでに髪型は珍しく下ろした状態だ
タタミが敷き詰められていて、すごく広い。近くの机を囲むようにに座り、瓶のコーヒー牛乳を一杯。
んー美味しい。最高のマッチングだ。
レアはテーブルにキュ~と効果音でも出そうな突っ伏し方をしてる。
「机が、冷たくて気持ちいい……」
あらあらと微笑むおばあさん
「……お孫さんの名前は何というのですか?」
「ハイレンとエルドラと言うの、二人とも可愛くて……」
「ん?双子って」
男の子だったのかい!確かに男女は明らかにしてなかったけど、話の流れ的にてっきり女の子かと…。
「二人とも元気でよくケンカをしていたわ、仲も良かったけど。それでね、10歳くらいの時だったかしら、『正義の賞金稼ぎになっておばあちゃんに楽させてやるんだ!』なんて言って二人で修業を始めたの。」
「正義の、賞金稼ぎ……。」
何かの職だろうか……?
「えぇ、悪さをする人たちを懲らしめたり、怖い獣を退治したりする人の事よ」
「そう、なんですか」
脳裏にあの死神みたいな『奴』がチラつく。胸のざわざわする。けど今は落ち着け、そうじゃない。
「いいお孫さんじゃないですか」
「ええ、自慢の孫だよ、けれど私は、一緒に居て、顔を見るだけで十分だった、なんて我儘なんだけどねぇ」
「………」
「顔が見れないのは、辛いものね。あちらで頑張っているのは分かるのだけど、3年も顔も見てなくて、たまには帰ってきてほしいわ……」
「おばあさん……」
わたしは。
「わたし、旅人なんです。なので中央へ行くことがあると思います。もしご迷惑でなければ……」
「……ありがとう。今日知り合ったばかりの老人に親切をしてくれて……」
「いえいえ、お気になさらず。縁も気からと言いますし!」
「ふふふ、面白いお嬢さんだこと。ありがとう。では、一言だけ『顔が見たい』とだけお願いできるかしら?」
「はい、了解しました。必ずお伝えします!」
それからおばあさんと別れを告げて、レアを抱え部屋に戻る
あ、そういえばおばあさんの名前聞いてなかったなぁ……。
部屋に戻って布団を敷き、レアを寝かせる。そしてわたしも一緒に寝転ぶ。まだ顔が少し赤い。
……。
頬っぺたをむにゅーとして、そのまま少し遊ぶ。
ゴロンと仰向けになり、さっきの話を思い出す。
……賞金稼ぎ、か……。
悪者を懲らしめてお金を貰える、というのは魅力的な話ではある。
「けど、『奴』みたいなのがウジャウジャ居たらどうしよう…」
畑荒らしの獣退治とかならいいんだけどなぁ……。
考えても仕方ない。タク、マーくん、レアに聞いてみるのが良いだろう。
一人じゃ荷が重すぎる職だろう。
――――――。
――――――頭がぼんやりしてきた。
――――――疲れたなぁ。
――――――少し、寝よう。
微睡む視界の中、何かが見えた気がしたが、そのまま暗闇に落ちてしまった。
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