第1章 『四人の冒険者』
第03話 『一時の休息と村の事』
あの日から夜が明けて次の朝。
朝食を軽く済ませてから川へ向かった。村の東側を流れているラヌ川。比較的大きい川で濁りもなく綺麗。流れも穏やかで飲み水としては向いている。
それと。
「んー、綺麗なお肌です事」「ちょっと、背中触らないでっ」
……綺麗な、お肌……。
「む、また胸大きくなった?」「目線がオヤジ臭い」
……また、大きく……。
「良いではないか良いではないか~」「指の動きが卑猥っ!」
……動きが、卑猥……。
「流石にここではしないよ」「ここ以外ならするの!?」
……ここ以外なら、する……何を……。
いやいやいやいやいや、なんで正座しているんだ。いや違う断じて違う。俺は見張りをしているんだ。そうだ違うぞ。
しょうがないさ、みんな森を駆け抜けて、転んで、汗かいて、血まみれになって。水を浴びたくなるのは当たり前だろう。男の俺でさえ早く入りたいのだ。女である双子はもっと入りたいはずだ。
でも人目に付くかもしれないからなるべく人の少ない朝方、そしてテントを魔改造をして水の上にテントを底幕なしで張れるようにした。見様見真似で何となく作ったがうまく行ったようだ。テント1つ底なしになってしまったが、まあ下は草でも敷いておけば大丈夫だろう。俺たちが使えばいい。
二人がキャッキャッしている……。この状況。嬉し……いや嬉しい。堅物メガネとか言われたことがあるが別に好きで堅物な訳でもない、こういう話もする。俺も男だ。興味が無いわけがないだろう。
まあこの話は置いておいて
さて、ハイマーは焚き木用の枝を探しに行っている。今は一人だ。思考を巡らせる。
昨日の事を整理してみる。
『奴』は俺たちの村を襲った。それは理由があるとみていいだろう。
そして昔から感じていたこと、村の人間についてだ。
俺たちの家族は出稼ぎとして村から居なくなった。帰ってきた者はいない。
最近だと村長補佐の息子が帰ってきた。その前は役場の上の立場の息子。村長には娘がいるらしいが、恐らく旅にすら出てないのではないだろう。見たことが無い。
上の立場の者だけが帰ってきている。これは仕組まれてるのではないだろうか。
他の家の子らは出た当日に殺されるなりしている。何のために?
俺達17歳の『出稼ぎ』と親の『出稼ぎ』 どう違うのか。
それと、昨日言いかけたがやめたこと。
気付いてるのは俺だけだろう。
この村には苗字が無い。
俺は15年ほど前にこの村へ引っ越してきた。再婚のためだ。当時2歳くらいだったからか特に何もされなかったが、親の様子が少しおかしかったのはよく覚えている。
幼いながらも苗字の事もちゃんと考えていた。
意図的に付けてない。名乗らせないようにしてるのか。村の人から聞いたことは無い。
だから周りに合わせていた。
それが意味することは、村全体で奴隷の様な、非人道的な扱いをしていたということではないか。
職を学ばせたのも奴隷の中でも何かを育て上げたかったと。
普段からそのような扱いを受けたことは無い。むしろ優しい。良い村だ。
ただ、それも豚に高級な餌をやって美味しい肉に育て上げる。ということだったのではないだろうか?
普段の扱いが奴隷というより、そのあと。
旅に出た後の扱いが奴隷のようだと。
……。
考えれば考えるほどきな臭くなってくる。
変な汗がにじむ。
「見張りお疲れ様、いつも以上に険しい顔してどうしたんです?」
ハイマーが木々拾いから帰ってきた。
「いや気にするな、考え事だ」
「後ろがあれだし……しょうがないよね」
「あぁ、そうだな」
後ろに軽く目をやる
「あの二人仲良しだし、幾多の女性を見てきた僕から見てもなかなかの容姿だよね」
「お前、その発言は本当なのか嘘なのか……」 ハイマーの軽口はホントに助かる。気分がまぎれる。
「いやだなー僕はあの村から出たことないですよ、あ、後ろはホント。」
「…まあ否定はしない」
そこそこの見た目で乳繰り合ってる、語弊しか生まない言い方だが訂正はしない。だから背中が痒くなるというか、何とも言えない気持ちになる。勿論良い意味でだ。
「そろそろ出てくるだろう。焚き火の準備でもしておくか」
「ですね、ここらも暖かくはないですし風邪なんて引かれても困ります」
背中に装備している杖を構え、焚き木にかざして呪文を唱える。
『フレイム』
手の平サイズの火玉が杖の先に浮かび上がり、目標へ向かって飛んでいき、焚き火が一瞬で出来上がる。
「なあ、魔法ってこんな使い方していいのか?昔はちゃんと手で起こしてたよな?」
「いいんじゃないかな、先生もビール冷やすのに水魔法使ってたよ? 今は、うん。いいんじゃないかな」
少し目を伏せたような気がした。
「……イメージが一瞬で崩れ去ったぞ……。」
後ろは触れないでおいた。恐らく先生の事を考えたのだろう。
魔法、か。
詳しいことは分からないが、火、水、雷、土、風の5属性が基本で、例外として魔族のみが使える闇。回復魔法の光。
宝石類に魔力を蓄積して放つ。これが基本らしい。
魔法には魔力の変換効率というものが存在する。魔術師のみが使える杖は変換効率がかなり高いらしい。逆に宝石類は魔力さえあれば誰でも使えるが魔力効率が悪い。良いところ杖の半分。
そして回復魔法。これは冒険者ならだれもが覚える魔法の一つだ。基本的にはヒール、ハイヒールの二つ
致命傷を受けた直後ならハイヒールでギリギリ間に合う程度の回復力。失った血は戻らない。そのため血を失いすぎると傷が回復しても血が足りなくて命の危険がある。他に、死の淵からでも回復する魔法があるらしいが、使える人は少ない。
ただ、一応ポーションのようなものも少々値が張るが存在している。
「おまたせーありがとねー」
水浴びを終えた二人がテントから出てきた。白い肌が朝日で輝いて、しっとりと髪が濡れている。
「焚き火で乾かすといいよ、次は僕らが浴びてくるから」
「あぁ、じゃあ、火の番を頼む」
テントに入る。さっきまで……嫌なんでも無い。
水は冷たく気持ち良い。頭から水を被る。
んー、男二人でキャッキャしてもなんも絵にならないな、と
ふと着替えを入れたテントの軸にあるポケットの中に何かを見つけた。
「こ、これは……!!?」
「薄ピンクだ……!」
なんだか輝いて見えた、宝石でも見つけた気分だが、結構大きな声を出してしまっていた。
「――――――。――――――!」
外が騒がしい、この騒ぎなら今のは聞こえてないだろう。
「これ、どうしようか?」
「伝えるにも伝えにくいし……」
「とりあえず掴んで取ったどーとかやってみる?」
「やーーめーーーろーーー! どあほー!」
急にテントの入り口が開き、セチアが凄まじい速さでハイマーに見事なアッパーを入れる。
「……」
ぽかんとしてると横にレアがいた。
頬を赤らめて涙目だ。
スッパーンッ!
平手が飛んできた。
―――なんでだよ――!?
~~~外に出て話し合い~~~
「あれは忘れたお前が悪い」
レアを見る
「すいません……」
「いや、でもあの歓喜に溢れた雄叫びは」
「あれは一度やってみたいなーと思った次第でして、僕たちはやってはいません。無罪を主張します」
「そうだ、俺たちは見つけただけだ。触っても握っても被ってもない」
なんか変なことを口走った
「ん?」「ん?」
「いま! 被るとか言った!!」
「気のせいだ!とりあえずレアも反省してる!以後気を付けるように!」
「はい、気を付けます…」
勢いで話を終わりにした。
「そして、この先の事だが、川沿いに北上して東方都市タイタンへ向かおうと思う。川沿いならどこかに休憩所もあるだろうし迷うことも無いだろう。徒歩でざっと10日だ」
「分かった」「異議なし」「それでいいと思う」
「よし、じゃあ行くぞ」
俺たちは新たな一歩を踏み出す。
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