第02話 『村の秘密』
「お前は、狩人に向いている」
師匠は言う。
「身体能力が高い。それに身軽だしな」
目線が一瞬下に行く、一瞬だけ。
失礼なこと言われた気がする。
「そんなことは無い、大丈夫だ。それに料理が得意だったな、ジビエ料理作ったり、旅で野宿とかかなりやり易いだろう。みんなと助け合うんだ」
みんな?
みんなって誰の事?
「誰って、いつも四人で集まってる、どこへ行くのも一緒だった四人の事だ」
いつも、一緒。
そうだ
いつも一緒、四人で一緒だ。
「大丈夫か?さっき投げ飛ばしたとき変なところに頭ぶつけたか?」
大丈夫、大丈夫……?
わたしは……大丈夫……?
なんだか頭がボーッとしてきた。熱があるのだろうか?
体が動かない。それに痛い、気がする。
声がふわふわして上手く聞き取れない。視界もぐるぐる回ってきた。
立っていられなくなり、その場にしゃがみ込む。
「――――、――――――――」
背中を向けながら何か言っている。
何を、言っているの?分からないよ。
「首が、捻じれ、てる」
ハッと目を覚ます。
異様な夢を見てへんな汗をかいている、べたべたで気持ちが悪い。
夢……?
徐々に周りが見えてくる。明るい。朝はもう過ぎていそうだ。自然の香り。辺りは木々に囲まれている。
ここは……というか頭の下が柔らかい。いい匂いがする。嗅ぎ慣れた落ち着く匂い。
「……レ、ア……?」
「お姉ちゃん! 起きた!!」
涙を浮かべて顔を近づけてくる。
状況が分からず目をパチクリさせていると
「あ、起きた? セチアちゃんだけ全然起きなくて心配したんだよ、ほら血まみれだし、やけに顔色悪いし汗もすごかったからさ」
言われてから気付く。酷い有様だ。
ゆっくりと体を起こし、体に異変が無いか確認する。色々動かしてみたが少々お腹が痛い位かな。
お腹の痛み、血まみれの体、私だけ全然起きない。つまりみんなも寝てた、いや気を失っていた。
「……あれ、わたしたち…生きてる……?」
少しずつ記憶が呼び起こされる。
たしか…そうだ、あいつに、殺されて、無い……?
何故……?
「なんで、生きてるの……?」
「分からない、目が覚めたらハイマーが倒れた辺りにみんな固まってたの」
確かにあの結界に使われた薄緑色の残骸が其処らに散らかってる。
でもここは…。
「そうだ、タクは?」
わたしたちを逃がすために残ったはずだ、3人が無事ならタクミも無事なはずだ。
「タクミは、無事。周辺を探索しに行ったの」
よかった、無事なようだ。
いや、何か忘れてないか……?
「―――あっ。村を出てすぐに、散り散りになった、所。」
師匠、それに他の死体は……。
「村の……みんな……が……?」
呼吸が浅くなる。心臓が痛い。気持ち悪い。
「――うっ」
吐き気が。でもなんとか堪えた。少し胃液のようなものが上がってきて、口の中が苦い。
「セチアちゃん、大丈夫?」
レアが眉をひそめて心配をしてくれる。
袖で汗を拭いてくれた。
「だい、じょうぶ。それより、少し確認したいことがあるから、行こう」
急ぎ足であそこへ向かう。急いでるつもりだが足取りは大分重い。レアが一緒になって歩いてくれているから安心して徐々に歩くペースが戻っていく。
散り散り地点でタクミと合流した。
「セチア、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫、ありがとう」
タクミの表情が何だか曇っているように見える。もしかして……。
「タク、もしかして……見たの……?」
「……あぁ、お前も知ってたのか。」
「ん?何々なんのこと?」「僕らにも教えてください」
「……口で説明より見た方が早い。……悲惨な光景だ、心して付いてこい」
それから少し歩いて昨日の場所へと向かう。
「なんだ、これ……」「……っ……」
わたしも昨日見てはいるが滅入る光景。しかも明るいから見えなかったものまで見えそうだ。
そこでふと違和感を感じる。
「あれ、何だか昨日より死体が少ないような……」
血の量に対して少ないように感じた。
それに、師匠の姿も見えない。
「あぁ。そのことなら多分、村だ。」
村へ行くと出入り口付近の開けた所が少し盛り上がってる。小さくない、ちょっとした丘のようだ。頂上に何か置いてある。花だろうか?
それに見渡すとあちらこちらに血だまり血飛沫が点々としてる。
ただ、そこよりも。
村が焼けてなくなってる……?
「なん……で……」
三人とも呆然としている。訳が分からないと言った様子。
当たり前だ、昨日までここに暮らしていたのだから。普通にしてる方がおかしいだろう。
タクはみんなの様子を伺って、心を決めたように口を開く。 「……恐らくだが、『奴』の仕業だろう。なんでこんなことをしたのか、それは分からない。ただ、あの丘、多分人が埋まっている。なんで埋めたのか、それになんで埋めた後に村を燃やしたのか何かを隠すためか、あるいは……供養する為か」
……。
丘の上にあった花、確かに弔っている風にも見える。自然にあそこへ行ったようには見えない。
それに、わたし達もなぜか生きている。普通なら死んでいただろう。
「それにだ、あの結界は魔力を0にするものとみて間違いはないだろう。なんでそんなことをする必要がある。消したいならもっと簡単に出来ただろう」
一間置いて。
「俺は、ただこの村を襲っただけとは思えないんだ」
「もしかして、狙いは村だった……?」 マーくんが続ける。 「それに、僕らの親は3年前に四人の家族はみんな村から出て行って、いや消えて……。手紙もない、もしかしたら……」 それ以上は言わなかった。
「そうだ。俺は前から考えていた」
『この村には、何かある』
「「「 …… 」」」
みんな口を紡ぐ
「それに」一瞬考えてやめる。
「一つ疑ったらネズミ算方式で疑いが広がる。これは何かない訳がない。『奴』はこれを知っている」
「わたしは、分からない。理由があっても人を殺しても良いなんて分からないよ!」 レアが叫ぶように言う。
「だって、帰る場所も、思い出の場所も、優しかった村長だって、みんなみんな、もういないんだよっ! それなのに、もう話を聞くことも出来ないのにどうして疑うことができるの……? なんで、タクミは。ホントに私達の知ってるタクミなの……? あの村が変だというのならハイマーは? お姉ちゃんだってホントのお姉ち」
「やめてっ!」
「……」
「わたしは、レアのお姉ちゃんだよ。お願いっ……もう、二度と、そんなこと、言わないで」
涙が流していた。勝手に流れていた。止められない。溢れてきて止まらない。
「お、お姉……」 レアを静かに抱きしめる。 「わたし達は家族なんだよ、二人とは血は繋がってないけど心で繋がっている家族なんだよ、もう四人しかいないんだよ。もう、これ以上居なくなって欲しくない」
「おねぇちゃん……ごめん、ごめん」 とそこでスイッチが切れたかのように大泣きしてしまう。
泣き止むまで、ずっと頭をなでていた。
しばらくして落ち着いた頃にタクが「急に話したのが悪かった。ごめん」マーくんも「僕も同じように話しちゃったから、ごめん」
「ううん、私こそみんなを疑っちゃったから、ごめん」
仲直りできてよかった。
軽く咳払いをして 「悪いが話を戻すぞ、それでだ、俺は真実が知りたい」「わたしも、知りたい分からないことだらけだもん」「うん、私も」「僕も知りたい」
『奴』の行動には訳がある。
だけど、この心にある黒いものは何だろうか。
もしかしたらただの妄想でそこにキンキ村があったから襲ったとか、ただ殺したいからとかだったらという不安の様な物。
もしも、そうならどうする……?
心の黒い物が広がる。
その時は、私が、鬼でも悪魔にでもなってやる。
――家族の、為に。
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