ファンタジック・エンデ

三富

序章

第01話 『旅立ちの日』

17歳になって最初の春、村から冒険者を送り出す。

昔からそう決まっているそうだ。大体は出稼ぎ目的である。

勿論危険も伴っているため、帰ってくる人は少ない。帰ってきてないだけで何処かでのんびり暮らしているのかもしれない。しかし、淡い期待はしない方が良いだろう。きっとどこかで死んでしまっている。

直近だと去年、村長補佐の息子が帰ってきた。見違えるように体も出来上がっていた。努力したのだろう。


さて、次はセチア、レア、タクミ、ハイマーの番だ。それぞれで職業を決めて5歳の時から訓練を重ねてきた。


戦士、狩人、魔術師


大きく3つに分かれる職業

わたしと妹のレアは狩人、15年前に隣村から引っ越してきたのタクミは戦士、2つ隣に住んでるハイマーは魔術師。


四人でいつも一緒だった。家族同然の存在。冒険に出かける時も一緒である。




そして、四人にも冒険へ出発する時が近付いてきた。










 カタカタと何かが揺れる音で目が覚めた。

「ん、何?」

 外はもう明るい。鳥の鳴き声も聞こえる。さっきの音は?

 周りに目を配る。壁にかかってるハンガーがちょっぴり揺れている。

「地震……?」

 この村は地震がたまに起こる。そこまで気にならないが冒険当日というのは少々不安になる。

「まあ、いいか」

 背伸びをしてベッドから降りる。今日もいい天気だ。



 ショートカットでサイドポニーの深紅髪、赤い瞳が目を引く彼女、セチアは職業が狩人で双子の姉だ。



 横でまだ寝ている彼女、レアはミディアムロングの赤茶色髪で、目尻が下がり気味の赤い瞳が綺麗だ。職業が狩人で、ハッキリものを言うしっかり者の双子の妹である。



親は二人とも数年前に出稼ぎに行っている。この村の大きさだとどうしても限界がある。ということで今はいない。元気にしてるだろうか……。



 ふと外を見てみると見知った顔の男性が走っていた。


 タクミだ、メガネをしててわたし達のリーダーだ、黒髪で目つきが鋭い。いつも走っていて筋トレが好きらしい。わたしはタクと呼んでいる。職業は戦士。



 少し目で追ってると、進行方向の先で手を振っている男性がいる。



 あれは、ハイマーだ。スポーツマンみたいな風貌で爽やかさが出てる。茶髪でリーダー補佐をしてる。いつもニコニコ微笑んでるし人当たりも良い。わたしはマーくんと呼んでいる。職業は魔術師。




 あの二人は仲が良い、いやわたし達四人も仲が良い。幼い時からずっと一緒だったのだから。


 互いを互いに信頼をしきっていて、固い絆で結ばれている。だから旅に出ても四人なら何があっても大丈夫だと信じてる。






 旅立ちの日、出発は夜だ。卒業試験も兼ね備えてるという。しっかり合格して気持ちよく出発したい。



 夜までは時間がある。武器や防具の手入れ、荷物の準備等を済ませてあとは出るだけというまでに準備をしておく。






 そして、あっという間に出発の時が来た。

 出発前に荷物と装備を確認する。


 服装はいつも通りに白地のTシャツ、紺のショートパンツ、薄めの黒色のジャケットに身を包む。腰にポーチも付けた格好をしている。


 レアもわたしと同じような服装で、色は全体的に薄めでズボンがハーフパンツになっている。


 タクは灰色のYシャツに黒いズボンで動きやすそうだ。


 マーくんは紺のTシャツに茶色のカーゴパンツ、薄い黒色のジャケットを羽織ってる。





「村長、では行ってまいります」


 四人で挨拶をしてから村から出る。





 しばらく歩いた森の中で妙な気配を感じ取る。それはレアも感じていたようだ。


「なにか、いる……?」

「何かいるね、どこかまでは分からないけど……」



 わたしとレアの発言でタクミとハイマーは警戒を強める。



「なんだなんだ、村から出て早々に」

「気をつけて下さいね」

 二人は武器を構え、戦闘態勢に入った。


 と、そこへ何かが後ろから近付いてきた。聞き耳を立てていたわたしは、すぐに武器を抜いてそちらへ向かう。

 それを合図にしたかのように後ろの何か含め四方から気配が近付いてくる。


「みんな!気を付けて、何かが来る!数は4だよ!」

「分かった。各個撃破でいいな?やばいと思ったら近くの奴巻き込んで、自分含め仲間の安全優先だ、行くぞ!」


 皆散り散りになって何かへ向かう、そしてすぐに何かと対面した。



 それは木の仮面のようなものを被っていて暗くてはっきりは分からないが男のようだ、武器はナイフ2本、刃先を此方へ向け逆手持ちで構える。静かで、手強そうだ。すぐさまわたしもナイフを構える。



 わたしが狩人を学んだ師匠が言っていたことを思い出す。



『狩人は慌ててはいけない、落ち着いて周りをよく見るんだ。武器に使えそうなものは何でも使う。正面から戦うのは戦士のすることだ。私達狩人は身軽さを生かした機動力で戦うんだ。静かに忍び寄って一撃を決める。これが狩人。卑怯と思うのなら狩人には向いてない、戦士になることをすすめる』


『どうしても正面から戦わないといけないときは一瞬の隙を見逃がすな。あの手この手で隙を作るのだ。考えて戦え』



 考えて、か。



 軽く深呼吸して落ち着く

 周りは暗く、木々が生い茂ってる。相手の装備からして狩人だろう。同じようなことをしても恐らく相手のが上手であろう。

 ならば……。



 足音を消して静かに忍び寄る。相手も同じように近づいてきてる。真っ直ぐには行かずジグザグに、少し斜めに、歩幅調整しつつ様子を伺う。

 相手との距離3m程になったとき、木に視界を遮られるのと同時に、気配を消して闇に紛れる。足音も消して相手に近づく、落ちてる木の枝を拾い、相手の姿が木に重なったときに上に投げる。仮面の男の向こう側へ投げた木の枝が落ちるのと同時に対象に向かって飛び出す。

 仮面の男は木の枝が落ちた方へ顔を向ける。そして死角になってる反対側から襲う。



 獲った……!



 と、喜びもつかの間、仮面の男はすぐさま顔を戻しバックステップ。躱される。

 だが―――。


 バギンと仮面が半分に割れた。仮面の男は驚いていたようだがすぐに気付いた。わたしの持ってるナイフが倍程のの長さになっていたからだ。最初に構えたのは刃渡り30cmほどのナイフだったが、気配を消したときに腰に装備している。刃渡り50cmほどのナイフに持ち替えていた。20cmの差は大きい。獲れたと思っていたが、大きめに回避行動をとられていたようだ。


 素顔が晒されるが、確認する間も無く片手で隠される。

 でもわたしには正体が分かっていた。



「師匠……」



 呟くと指の隙間から見える瞳が笑ったように見えて、声をかけようとしたら身を翻して森へと消えていってしまった。


 これが卒業試験なのかな。


 にしても、構えですぐわかっちゃうよ。少し変えるくらいした方がいいよと笑う。

 師匠が消えていった方へ体を向ける。




 ――長い間、ありがとうございました。行ってきます――。




 散り散りになった地点へ戻ると三人の姿があった。

「みんな! 大丈夫だった?」


「大丈夫だよ」

「あぁ、大丈夫だ」

「何とか無事です」


 皆の表情を見れば分かる。試験だったんだ。さっきより良い顔している。

 短い間の出来事だったが、大きな出来事だった。心新たに冒険へ挑める。




 少し歩くと木に妙なものが刺さっていた。


「なにこれ?」薄緑の四角い何か、綺麗だ。


「んー、これは結界かな?触れないで素通りすれば多分大丈夫な……」 ガギンッ

 マーくんが話していると、急に妙な音が鳴り響く。



「「「「 !!? 」」」」


 みんな動きが固まる。


 すると近くの木に刺さってたアレが光り出した。良く見ると他にも幾つも光っていた。結界なのだからぐるっと囲んでいるのだろう。


 なにを……?


 暗い森を怪しく照らす青い光。それらは来た道を囲むように後方へと延びていく、これは。


「む、村……?」


 恐らく予想は当たっている。光同士が繋がって鳥籠のような形状になりパリンと割れる。


 少しして辺りは元の暗闇に戻る。


「な、なにが………」 慌てふためいてると。



 ―――ドサッ



 なにかが倒れる音がした。恐る恐る振り向くと、マーくんが倒れていた。


「マーくん!」

 と駆け出そうとして視界が一瞬ぼやけて立ち止まる。


「今の、何が?」


 他の二人にも目線を配らせる。レアも表情を顰めている。タクミは少しふらついてる。


「これは、魔力が消えた……?」

 頭に手を当て顔を歪めながら言う。

「今の結界のせいか……!」


 はっとしてマーくんに駆け寄る。

 魔力適性が低いわたしたちでも症状が出るのなら、適性が高いマーくんはどうなるのか。慌てて駆け寄って脈を確かめたり呼吸をしているか確認する。

 命に別状は無そうではあるが、顔色が悪い、当たり前だ、急に倒れるくらいだ。どこかで休ませてやりたい。


「魔力が無くなっても休めば徐々に回復する。今のは急に0になったから気を失ったのだろう。無事なはずだから安心しろ」

 メガネを中指で持ち上げる。

「とりあえず村へ戻るべきか?ハイマーこんな様子じゃ進むに進めないし、村の人達も心配だ」



「だね、では一度戻り……」



 と、只ならぬ気配を感じて言葉も動きも止めてしまう。





 呼吸が上手くできない。


 鼓動がうるさい。


 変な汗が滲み出る。


 喉が渇く。


 唇が渇く。


 奥歯がガチガチ鳴っている。


 大きな手で心臓を掴まれたような気持ち悪い感触。




 ―――――――死を理解した。






 ―――――――動いたら、死ぬ――――






 本能的に察していた。これはヤバい奴だ。逃げないといけない、でも動けない動かない。


















「おい、どうした?」



 その声でどれだけ救われたか、声をかけられて我に返る。わたしは恐怖で呼吸を忘れていた。ひゅうひゅうと、か細い呼吸だが空気を取り込めた。



「……なにか、来ます。しかも……かなり危険な、やつだと……」

 レアも苦しそうだ。


「逃げ……ないと、ハァ……死ぬ……」


「おい、しっかりしろ、お前らも大丈夫か。早く村へ……」


 タクミが凍ったように動きを止めた。

 理由は見なくても、分かる。



 来てしまった。『奴』が。



 どす黒い何かが、ゆっくりと歩いて此方へ向かってきている感じだ。決して速くはない。だが逃げ切れる気がしない。



「おい、双子ども、早くハイマー連れて走れ! 少しでも時間を稼ぐから早くっ!!」


「え、タク…?」


「なあに、すぐ追いかける。何のために毎日走ってると思ってやがる! このためだろうが!」 にやりと笑う。


「うん。分かったすぐに来てね!」「どうか無事で……!」


 二人でマーくんを支え走り出す。

 背丈はあるが思ったほど重くはない。これならすぐに村へ付けそうだ。





 早く、早く、早く、早く、早く。

 一歩でも早く、一秒でも早く、一瞬でも早く……!




 何分、いや何秒走ったか。何m、何km、一晩走ったような気分だ。体が重い

 動け!足!動け!動け!





 気付くと試験で散り散りになったところまで来ていた。


 まだここなの…?


 レアも限界が近そうだ、いや、とっくに越えている。


「レア、もう少し頑張ろう」

「……うん」


 一歩が重い。自分の足じゃないみたいだ。


 やっとの思いで一歩を踏み出す。




 が――。




 ―――奴だ。すぐ横に居る。


 レアに目配せをする。大丈夫、気付いてる。



 やろう、やるしかない。



 マーくんをゆっくり地面におろし、近くの木に体を預けさせる。


 ギラギラした目が闇夜に光る。果たしてあれは同じ人間の目なのか。


 二人で戦っても勝てる気がしない、けど。



「「二人なら」」




    ―――――――怖くない―――――




 思いっきり足を踏み出す。さっきまで木偶の坊みたいに動かなかったのに軽やかに動いてる、恐怖が無くなってる。それのおかげか。


 二人で左右に分かれ位置を取る、奴は片手剣のみだ。闇夜の木に紛れて気配を消す。

 たまにわざと気配を出したり音を立てたり、奴の意識を散らす。

 絶妙な位置に来てナイフを投げようとした時。



 『奴』が此方を向いた。



 殺気を感じ取ったのか、それも想定内

 そこに合わせてレアが反対側から切りかかる。同時にわたしも飛び出す。


 しかし、奴はすぐさま振り向いてレアに一発入れて後ろの岩石まで吹っ飛ばし、わたしには裏拳を入れてきた。


 脳が揺れる、飛び出した勢いと合わせて見事に吹っ飛んだ。宙に投げ出されながらもレアを確認する。気を失っているようだ。あの勢いで岩にぶつかったのだ。無事ではないだろう。


 わたしも何とか受け身を取り地面をゴロゴロ転がる。意識はある。




 ふらついて地面に手を付いた時、にちゃとした物に触れた。

 目を向けると、それは赤い。赤というより黒い赤黒いねっとりした液状のものであった。




 ――――――血。




 辺りを見渡すと凄まじい光景であった。血が。辺り一面に。


 「な―――にこれ」


 あるものは首が無く、あるものは胴体が真っ二つで、あるものは腸が零れ落ちてる。

 数もわからないほどバラバラだ。


 そして―――。


 先ほど触れた何か―――。


「師匠………?」


 首がこちらを向いていた。首だけが。

 首はありえない方向を向いている


 生気の無い虚ろな目で、最後に見た綺麗な目の面影も無い。 




「―――」




 声も何も出なかった。


 恐怖、憎悪、怒り、悲しみ、色々な感情がごちゃ混ぜになっている。





 なんで、なんで、なんで。





 あいつのせい、なのか。あいつだ。あいつ以外にいない。




 あいつだけは―――。 




 足音が聞こえた。あの気配だ。まだ追ってきている。


 もう死んでもいい、奴と道連れだ。自分の全部を出し切る。


 どうせ気配を消しても殺気でばれるであろう。

 なら正面から行くしかない。


 奴と正面だって姿を現す。


 奴は驚いた表情を見せた。余裕のある顔を崩せた。



 全力で走り出す。もう小細工は無しだ。

 ナイフを取り出す。奴の体まで最短の距離で動かす。


 奴は躱すがわずかに間に合わず、顔に傷を負う

 だが、すぐさま反撃に出る。




 ドッ




 と腹に重い一撃を受け一瞬で暗闇に落ちた。







 一矢報いたよ、みんな。ごめんね。





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