第二十三章 ベールの嵐 -7-
因縁のニーデ教会へと向かう。
あそこ、まだルウム教の所有だったのね。
コンスタンツェさんが大司教になって、取り戻したのかな。
ハンスが襲われたときのことを思い出すな。
だが、今日はこちらが襲われているわけではない。
こちらから襲いに行くのだ。
此処に来る道中で、経緯に関しては大体ノートゥーン伯から聞き出していた。
元々は、ベール市長の仕掛けた罠があったらしい。
例のクルメナッハ氏に、冒険者ギルドにたれこみをさせたという。
それが、例の高級宿の主人がベール市長とエーストライヒ公の仲介をしているというやつだ。
だが、これは事実無根であり、無関係の宿に踏み込んだギルドの諜報部を捕らえ、糾弾の駒とするつもりだったようだ。
シピはこの情報自体を怪しみ、クルメナッハ氏が消されることを予想したという。
そこから氏の動静を見張り、脱出と襲撃の情報を手に入れ、ぼくたちを動かしたとか。
そして、宿の主人から権利書を買い取り、ギルドが宿に入ったところをわざと警備隊に見せ、彼らを待ち受けたということだ。
ノートゥーン伯を捕縛させてから出てきたのも、初めからの計画だったらしい。
アルビオンの高位貴族に手を出したという事実が、一番効果があるという理由らしいが……。
今回、ノートゥーン伯は色々と酷い目に遭わされて大変だな……。
(
(カッサーノ神父と十人の部下はシピが捕縛した。残っているのは、ステラ・ディ・カプア、アルフォンソ・ファルコニエーリ、ニコラ・ベニーニの三人だな。一応、裏では名の知れた連中だ。油断はするなよ)
(分担はどうするねん。
(
やっぱりね。
あの
正直、前回結構ぎりぎりだったんだけれどな。
勝てるかどうか、微妙な気はするんだが。
(教会と全面対決を避けるために、殺すなよ。命だけは、残しておくんだぞ)
難易度上げすぎじゃないですかねえ、ノートゥーン伯。
ぼくと替わってもいいんですよ……。
ニーデ通りから、教会の敷地に入る。
魔力も気配も消しているが、流石に
外にいても、
警戒マックスだな。
まあ、いい。
ばれたのなら、堂々と行こう。
(おい、アラナン……)
ノートゥーン伯の止める手をすり抜け、無造作に扉を開けて中に入る。
予想通り、コンスタンツェさんは両手に剣を握って待ち構えていた。
完全な臨戦態勢だ。
「
細められたコンスタンツェさんの目が、冷たく輝いている。
右手の
「シピ・シャノワールを逮捕されて血迷うてはるか。教会に襲撃を掛けはるとは、ただでは済ましまへんえ」
「逮捕されたのは、グスタフ・ルエーガーと、ジョルジョ・カッサーノだ」
「これを見ろ。評議員六名による連名の逮捕状だ。クウェラ大司教コンスタンツェ・オルシーニ。無実のノートゥーン伯を部下に逮捕させた罪状で拘束する」
コンスタンツェさんの柔和な笑顔に、一層の凄みが増した。
彼女は、この一瞬で自分の計画が失敗したことを悟ったのだ。
「そういうことどすな。せやけど、あてもおとなしゅう一緒には行かへんえ。フェストで付けられなかった決着、此処で付けさせてもらいますえ」
「やるのはわしではない」
戦意旺盛なコンスタンツェさんに対し、
笑ってない目で、コンスタンツェさんがぼくを睨む。
「ほなアラナンはんでよしとしまひょ。あんさんとの決着もついとらへんさかい」
コンスタンツェさんの左手が振られる。
握られるは神殺しの
それと認識するよりはやく、ぼくは横っ飛びで避ける。
行動とともに、
それでも視認できたわけではない。
コンスタンツェさんの
だから、
それでも回避できたのは、前回の対決でコンスタンツェさんの太刀筋を見切っていたからだ。
前回のフェストでの対決のときより、余裕を持って回避できる。
うん。
彼女の左手の動きである程度何処に
クリングヴァル先生にしごかれていた時間は、無意味ではなかったな。
右手の横をすり抜け、ノートゥーン伯が突進する。
ぼくに匹敵する速度でファルコニエーリ神父に接近したノートゥーン伯は、彼が全く動きに反応できていない間に後頭部と顎に高速の連撃を叩き込み、吹き飛ばした。
咄嗟に
「ステラ!」
一対一に拘らない躊躇のなさは、流石コンスタンツェさん。
勝利こそ重要であるというその隙のなさには、学ばねばならないことも多い。
でも、今回はこちらも手数は揃っているんだ。
魔力を帯びた鞭を振るってぼくを攻撃しようとするステラ・ディ・カプアに対し、マリーが
死角から急に刺突してくるマリーの攻撃スタイルに、ステラは翻弄されているようだ。
いや、ほんと暗殺者顔負けだよあの奇襲攻撃は。
相手の目の前で影に潜り込むようにして気配と姿を消し去ることができるのは、マリーくらいなものだ。
そして、巨漢で剛力のベニーニ神父には、ジリオーラ先輩の分身がまとわりついている。
いくら
あの組み合わせ、ベニーニ神父にとっては相性最悪だよね。
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