第二十章 リンドス島攻防戦 -11-
雷撃が放たれる瞬間、回避が間に合わないのがわかった。
撃たれる前に回避しなければ、あれは避けられない。
ならば、逆に飛び込んでやる。
閃光とともに衝撃がきて、体が痺れる。
だが、一撃で
撃ち終わりで油断しているジャファルに、一気に接近する。
老人の目が、驚愕に見開かれた。
「ま──」
「もう遅い!」
恐らく、ジャファルは短距離での転移を行使しようとしたのであろう。
だが、ぼくが前進した分、離脱が遅れた。
フラガラッハの刃が、転移する前のジャファルを捉える。
だが、フラガラッハの切れ味は竜の鱗をも凌駕するのだ。
老人の目が開かれたまま、その首が宙を飛んだ。
やはり、学院の方針として
残りの二人も追い詰められ、体のあちこちが凍り付いている。
「こっちは片付いたぞ、イリヤ」
「すぐ終わりなんす。待ちなんし、主様」
ファリニシュには余裕がある。
残る二人は中等科レベルよりは幾分上のようで、恐らく
必死の形相で雷撃を放ってくるが、ファリニシュは氷の壁を作って通さない。
「ぼくがやろうか?」
からかい半分にいうと、ファリニシュは無言のまま手をひと振りした。
同時に、氷像と化した二人が地上へと落下し、激突して四散する。
「終わりなんした」
にこやかに笑うファリニシュに、思わず返事がどもり気味になる。
おう──やっぱり彼女とまともにぶつかったときに勝てるイメージが沸かないわ。
「よし、邪魔物は排除したし、大砲を壊そう」
ファリニシュと協力しながら、大砲を破壊してまわる。
三十門近くあった大砲も、氷塊に潰され、爆炎に吹き飛ばされ、もはやまともに動くものは残っていなかった。
上空から全体の戦況を確認してみると、新たにヴァルテン市民軍が突入したものの、まだ
元々の兵の数が、
大砲を潰しても、苛烈な銃撃で立ち往生しているようだ。
もっと、鉄砲による火力支援部隊を潰さないと、ヘルヴェティア軍といえど十全に動けないようだ。
「ファリニシュ、右翼の鉄砲部隊を潰せ。ぼくは左翼を攻める」
右翼にはルツェーアン市民軍が食い込んでおり、左翼はアルトドルフ、ヴァルテン市民軍が押し込んでいる。
効果的に撃ち込まれる銃撃さえ弱まれば、ヘルヴェティアの軍団の力なら勝てるはずだ。
ファリニシュが飛び去るのを見送ると、ぼくも左翼の戦場に向かう。
すでに、アルトドルフ市民軍の突撃の勢いは失われ、攻勢限界点を迎えてしまっている。
ティナリウェン先輩はまだ奮闘しているが、ベルナール先輩とトリアー先輩の姿がなかった。
負傷して、後方に下がったらしい。
それだけ銃撃を撃ち込まれたのだろう。
アルトドルフ市民軍に替わって前線に出てきているのは、ヴァルテン市民軍だ。
ノートゥーン伯、ジリオーラ先輩、マリーの三人を組み入れて左翼深くに食い込んでいるが、そこで四方から集中砲火を食らって前線が壊滅状態に陥っていた。
「あれは、誘い込まれたんだな。ノートゥーン伯が付いていながら!」
上空から!
当たりはしないが、四方八方から銃撃が飛んでくる。
回避に神経を使う分、攻撃の手が少なくなるんだ。
それでも、崩壊したヴァルテン市民軍の先鋒の撤退する時間は稼げたようだ。
替わって先頭に出てきたのは、ノートゥーン伯じゃないか。
銃口を向けられた瞬間、
上空のぼくに銃撃を集中させた分、地上のヴァルテン市民軍への射撃が明らかに薄くなっている。
その隙に、ヴァルテン市民軍は陣形の内側に躍り込み、敵の鉄砲隊に接近戦を挑んでいた。
このまま進めば、
その
ルツェーアン市民軍の先鋒部隊だ。
クリングヴァル先生もまだ健在である。
ファリニシュの支援を受けて、右翼の鉄砲部隊を抜けてきたらしい。
本陣を崩せば、敵の指揮系統も崩壊し、こちらの勝ちは決まる。
そうすれば、船に退却する敵兵を追撃すればいい。
だが、こっちもこの突撃が凌がれれば、もう次の攻撃をする余力はない。
いま本陣に迫っているふたつの部隊以外は、逆に押し込まれている。
突入した部隊が本陣を崩せなければ、孤立して全滅するだろう。
それをさせないように、ぼくが援護をしないといけない。
だが、ルツェーアン市民軍の方は本陣から出てきた一部隊に食い止められていた。
クリングヴァル先生の前にいるのは、
最精鋭が出てきた以上、ルツェーアン市民軍の方はあれ以上進むのは難しいかもしれない。
ならば、ヴァルテン市民軍の突撃部隊を援護だな。
混戦になれば、味方を巻き添えにしないためにも、爆炎魔法は避けた方がいい。
空から急降下すると、ぼくはノートゥーン伯の隣に着地した。
「アラナン、
血濡れた剣を振り上げながら、ノートゥーン伯が叫んだ。
「あれね。そこまでの道は斬り開きます。遅れないで付いてきて下さいよ」
フラガラッハを右手に、タスラムを左手に構えながら、ゲイアサルを空中に浮遊させておく。
ノートゥーン伯は刃でフラガラッハを叩き、音を鳴らした。
「任せた、アラナン。正直、もうみんな魔力が限界に近い。ジリオーラも、マルグリットもな」
「せやけど、うちはまだまだ元気やで」
「何言っているのよ。わたしだって、まだ大丈夫よ」
ジリオーラ先輩もマリーも、髪は乱れて血まみれだ。
息は弾んでいるし、魔力の輝きも鈍い。
だが、二人とも目の輝きは死んでいなかった。
「ぼくの後ろを走れよ。弾丸が飛んできても、全部斬り落としてやるから」
「頼りにしているわよ、アラナン」
「うちはまだ自分で跳ね返せるから大丈夫やで」
ジリオーラ先輩の強がりに微笑みながら、大きく息を吐く。
さあて、それじゃ一丁行ってやろうかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます