第二十章 リンドス島攻防戦 -12-
無機質な輝きも、自分に向けられたものでなければ頼もしく思えるのかもしれない。
だが、ずらりと並んだ銃口が、全てこちらを向いているというのは、やはり人を落ち着かない気持ちにさせるものだ。
撃たれる前に撃て。
情けや逡巡は、戦士の寿命を縮める。
決断は迅速に。
必ず、行動を伴えと。
鮮血を噴いて兵が倒れる間に、フラガラッハを構えて飛び込んだ。
血の
中に飛び込まれ、慌てて
返り血よりも素早く、ぼくは
立ち塞がろうとした兵は、
「オヌ
幕舎から豪奢な刺繍を施した絹の服を着た男が出てきた。
聞いていた
あれはただの老人だ。
だが、
あれを討てば、事実上セイレイス帝国軍の機能は止まるはずだ。
タスラムを構え、
高速で飛ぶ弾丸は、しかし老人の前に割って入った兵によって防がれた。
距離がある分、銃では射線を悟られてしまうか。
「任せよ!」
ノートゥーン伯が、剣を構えて
兵の間を光のようにすり抜け、
ノートゥーン伯の
剣閃の煌めきとともに
指揮官を殺された兵がいきり立ってノートゥーン伯に斬りかかるが、一瞬の
いまのノートゥーン伯は、ぼくでも勝つのが容易でない力を身に付けていそうだ。
「アラナン、
道を斬り開きながらノートゥーン伯の許まで行くと、敵兵を威嚇しながら彼が言った。
成る程、殺すよりも確実かもしれない。
幕舎の中には、数人の文官と小姓、そして一際大きな宝玉をはめた帽子をかぶった初老の男がいた。
ただ一人座るその男こそ、
「
だが、反応する兵は、すでに幕舎の中にはいなかった。
さて、どうするか。
ぼくはセイレイスの言葉はわからない。
とりあえず、
「リンドスの者か」
フラガラッハを握り直したとき、
ほう、流石に偉い人は教養がある。
「ヘルヴェティアの者です、陛下。残念ながら、貴方はいまからぼくの捕虜となっていただきます」
「余を捕虜にするだと?
ぼくの言葉に憤ったか、小姓が剣を抜いて斬りかかってくる。
刃をかわしざま、一撃で首を刎ね飛ばすと、フラガラッハの切っ先を
「申し訳ないですが、ぼくは貴国のターヒル・ジャリール・ルーカーン将軍よりも強いですし、ジャファル・イブン・ナーシル長老より魔法も使えるんですよ。抵抗するだけ、余計な血が流れるとご忠告しましょう」
剣を握ったこともなさそうな文官たちは、ひとにらみすれば震え上がって立ちすくんでいる。
それに比べれば、流石に
「この状況では抵抗するだけ無駄なようだな。よかろう、余の身体を貴様に預けよう」
「戦闘を終結させよ。貴様の目的は、それであろう。
「
「何だと──仕方ない、
この男、もう五十近い年齢に見えるが、この幕舎の中にいる者の中では一番武術の心得があるな。
だから、ぼくの力を感じ取ったのだろうか。
「
「ぼくのことをご存じだとは思いませんでした」
「
「その割にはまずい戦をされましたね、陛下」
「
話している間に、ノートゥーン伯とマリー、ジリオーラ先輩がさっきの文官と一緒に中に入ってきた。
「御意を得て光栄でございます、陛下」
ノートゥーン伯は膝を突き、
マリーとジリオーラ先輩も、ノートゥーン伯の後ろで拝礼している。
「貴様も来ておったか、アルビオンの手先が」
「陛下はわたしをご存じのようで」
「貴様はエリオット・モウブレーであろう。アングル人らしい雰囲気が身体中から出ておるわ。で、何の用だ」
「兵を船団に戻してほしいのです。そして、陛下には身代金が届くまで、城に滞在していただこうかと」
「撤兵だけでなく、身代金も要求するか? 欲をかきすぎると身を滅ぼすぞ、ノートゥーン伯爵」
「交渉は」
ノートゥーン伯は恭しく頭を下げた。
「城でリンドス騎士団総長と行っていただきます。わたしたちはただの傭兵ゆえ」
「ふん、ジュデッカに雇われたか。ベールの評議会に、ジュデッカの三倍の額を支払わなかったのが、余の失敗であったわ」
不機嫌そうに
それを聞いて、ジリオーラ先輩は顔を上げ、にこりと笑った。
「せり落とすんはジュデッカの得意分野でおますよって、堪忍してえな、陛下」
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