第十三章 皇帝を護る剣 -9-
試合前に、ファリニシュが念のため再度
痛みはもうそれほど気にならないが、若干の違和感はある。
できれば完調で戦いたかったが、贅沢は言えない。
無傷ということはない。
「
オニール学長との話し合いを、ファリニシュはすでに知っているようであった。
二人はいつも念話で情報交換しているもんな。
高等科に進んだら、ぼくも学長の許でもう少し
「使う。最初から、全力で行くよ。そうしないと、一撃で負けるからね」
「
内に収めている、か。
確かに、
ぼくのように、額ではない。
「
「主様も、
ふーん、効率が悪いってことか。
それが、
「枷を全部取り払って戦いに臨む気分はどうだ?」
ハーフェズが、からかうように声を掛けてきた。
呑気なことを。
こっちは、お前のお陰で大変なんだよ!
ま、自業自得なんだけどな。
「悪くはない。すっきりした気分だよ。自分が何処までできるのか、試したくてうずうずしている」
強がりだ。
本当は、
あれだけ毎日鍛練していたクリングヴァル先生の技を破ったのだ。
ぼくとは、技の完成度が違いすぎる。
しかも、あの年齢になってなお進化しているのだ。
だが、戦いの前に不安を言うわけにもいかない。
みなを心配させることに意味はないのだ。
ぼくが勝つと思って応援してもらった方が、よほどいい。
「
彼の友情は本物だ。
そのことは、一度たりとも疑ったことはない。
「
右拳を握り、軽くハンスの鳩尾に撃ち込んだ。
「
「そうだ。攻めの気持ちを忘れてはいけない。だが、
だが、それで後手に回っては、
攻めるにしても、見ていくにしても、気持ちで負けるなということなのだ。
メディオラ公に果敢に挑んだハンスらしい助言である。
「とりあえず、アラナン、貴方飛べるんだから、上からばんばん
割りと大雑把な作戦をマリーが提案してくる。
ま、遠距離戦も得意なぼくとしてはそれもありなんだが、恐らく全て斬り裂かれてしまうというのが問題だ。
「
「でも、通常攻撃も
「だが、
そうだ。
気にせず攻撃を続ければ、向こうも反撃はできない。
後は、我慢比べになるのか。
「
軽くマリーの肩を叩くと、当然よというように胸を反らしていた。
目を輝かして実に嬉しそうなので、ちょっと悪いことをした気分になる。
いや、逆よりよかったんだ。
試合前に深く考えるのはよそう。
「アラナン、お前の全財産、お前の勝ちに賭けているからな」
爆弾発言きた!
あ、そういやカレルに賭けさせたままだったっけ。
「賭け率は、
二十倍かよ!
まあ、クリングヴァル先生が負けたんだ。
生徒のぼくが勝つと考えるやつはいないわな。
「おれも全財産突っ込んだ。これでアラナンが勝てば、ちょっとした富豪になれる。おれの未来のためにも、頼むぜ、友達」
「ちえっ、カレルと一蓮托生なんてぞっとしないけれど、ま、任せとけよ、友達」
カレルが右手を挙げてくるので、ハイタッチでその隣を通り過ぎる。
「アラナンさん、
「うん、有難う、アルフレート」
残念だけど、アルフレートは教師には向いてない。
あれでわかるやつはいないよ!
いや、恐ろしいことにマリーも感覚派なので、二人の間では通じるらしい。
ハンスやぼくにはさっぱりである。
「──あのう」
部屋の隅にいた
「わたし……せいで迷惑……アラナン……申し訳……無理しない……」
「ああ、気にしないでいいよ、
元気付けようと言ったのだが、
逆に、憂いが濃くなったように思える。
確かに彼女はもう刀にはこだわってなさそうな気配は感じていたが──何だ?
「アラナン・ドゥリスコル選手、入場のお時間です」
だが、そこで係員が呼びに来てしまった。
僅かに引っ掛かりを感じながら、みなに手を振って控え室を出る。
薄暗い廊下を係員の先導に従って歩く。
魔導灯を点けようと思えば点けられるはずなのに、何でこう薄暗いのか。
選手の気持ちを不安で煽りたいのだろうか。
扉が近付くにつれ、ぐららららと地面が揺れているように感じる。
いや、実際揺れているのだ。
観客の熱狂と興奮が、此処まで伝わってきている。
ちょっと、恐ろしいくらいだ。
「──
ぼくの名前が呼ばれている。
さあ、行くか。
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