第十二章 聖騎士の光刃 -5-
競技場の西の控え室には、誰もいなかった。
クリングヴァル先生は午後からだし、コンスタンツェさんと
こっちの控え室を使うのは初めてだが、別に違いがあるわけではない。
中央に卓と椅子があり、部屋の隅には治療用の寝台が並んでいる。
飾り気のない家具なのは仕方がないだろう。
ダンバーさんがいれば、
敗退したので、当然市中の警戒に回っている。
さて、コンスタンツェ・オルシーニとの対決だ。
彼女の怖さは、
敵の特徴を分析し、勝利への筋道を組み立てる頭脳だ。
あの老練なダンバーさんを嵌めて勝つなんて、並みの術者では不可能だ。
だが、
ぼくは、彼女の前で
接近戦は恐らくしてこないだろう。
あの技は、恐らく通常では捉えられない。
つまり、開幕から
できるだけ、短時間で勝負は決めたい。
そして、一番怖いのが、コンスタンツェさんにまだ奥の手があるかどうかだ。
ある、と見た方が無難だろう。
あれだけ、他人の手の内を観察して対策を練る人だ。
自分の手の内は、しっかり隠しているはず。
どういう手を使われても対応できるように、全方位で神経を巡らせておく必要がある。
そして、
何とか接近して、
幸い、コンスタンツェさんは
「ドゥリスコル選手、お時間です」
係員が呼びに来る。
柔軟運動を止め、立ち上がる。
そういえば、コンスタンツェさんはこれを変な風習だと言っていたな。
だが、いきなり体を動かそうとしても、なかなか思い通りにいかないものだ。
「お待たせしました! 数多の激闘の末、勝ち残った四人の戦士が本日準決勝を戦います! 第一試合、西から現れたるは魔法学院の
長ったらしい前口上を聞いていると、恥ずかしくなってくるな。
顔を赤くしながら登場すると、観客席が地鳴りのように轟いた。
声援と足踏みの音が、ずしんと腹の底に響く。
うわ、今日は本当に超満員だな。
通路すら立ち見の客で一杯だよ。
周囲を見回すと、いつもの席でカレルとマリーが立ち上がって何かを叫んでいる。
でも、全く聞こえない。
この大歓声じゃな。
それでも、口の動きで何となくわかる。
アラナン、頑張れ、負けるな、負けたら承知しないわよ──。
おっと、コンスタンツェさんより、マリーのが怖そうだ。
「東から現れたるは、
コンスタンツェさんは、三回戦と同様の男装をしていた。
だが、タイが黄色ではなく、赤と黒のギンガムチェックになっている。
ぼくのタータンチェック・タイに対抗しているつもりだろうか。
コンスタンツェさんへの声援は、ぼくに対するものに優るとも劣らない。
男の声援は、圧倒的にコンスタンツェさんだな。
野太い声でのぼくに対する罵声も多いや。
「アラナンはん、賭けをしまへんか」
「嫌な予感しかしないので、遠慮します」
「もう、冒険心のない男は嫌われはりますえ」
いいのだ。
どうせ、ぼくの平常心をかき乱すための手段に過ぎない。
とにかく、細かく策を講じてペースを握ろうとしてくるコンスタンツェさんに、冷静に対処しなければならないのだ。
さて、審判が出てきた。
開始の合図を待つ。
すでに、圧縮魔力を解放して体内に巡らし、下地は作っている。
そこに、天地より集めた魔力を流し込む。
今回は大地と大気の魔力だけでなく、事前に炎と水の魔力も集めてある。
赤、青、黄、そして無色。
これが
「
審判の宣言が天を衝く。
同時に、圧縮していた
額の
コンスタンツェさんを見ると、あちらも
彼女の場合、背中に負っている
そうか、成る程。
急に
あの
何かの理由で付与されたのだ。
おっと、そんなことを考えている場合ではない。
コンスタンツェさんが、早速
一閃、二閃、三閃──。
って、いきなり何連打するんだ。
「
無数の光刃が、あらゆる角度からぼくに迫る。
だが、この量はちょっと辟易するな。
両の掌に
角度も速度も千差万別で、非常に合わせにくい攻撃であるが、丁寧にやれば捌けぬほどではない。
次の
そう思ったときだった。
思ったより、感知がぎりぎりだ。
もう、出現しようとしている。
咄嗟に、身を沈めた。
頭上を
危ない、こっちの方が速度が速いな。
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