第九章 魔法武闘祭 -1-
寝覚めは最悪だった。
昨日の夕食がよくなかった。
折角のハンスの残念会だったのに、変な濫入者がいたから、途中から楽しめなくなった。
頑として撥ね付けるべきだっただろうか。
いや、それだと余計に問題が
とばっちりを食らう形になったみんなには悪いが、これしかなかったんだと思いたい。
しかも、
組み合わせなんて、市長の一存で勝手に決められないからな。
結局、ファリニシュがオニール学長に連絡を取って、学長が全部調整してくれた。
アルビオンとの国際問題を片付けるには、いい機会だということだろう。
ぼくと
そして、今日の一回戦第一試合が、そのルウェリン・グリフィズとエリオット・モウブレーの試合である。
こればっかりは、見逃すわけにはいかない。
自信満々だった
今朝は早朝の鍛練をさぼってしまったなと思いつつ服を着込んでいたときに、その報せは飛び込んできた。
「主様! 一大事でござんす!」
おっと、ファリニシュさん?
珍しく息急ききって駆け込んできたね。
ぼくは外套を羽織ると、
「どうしたの、慌てて」
「慌ても致しんす! アセナ・イリグが……
──えっ?
ファリニシュの言った意味が、一瞬理解できなかった。
そして、その意味がようやく肚の中に沁み込んできたとき、全身が総毛立つのを感じた。
「
「左様でござんす。あかつきの勤めから戻りなんしたアセナ・イリグが、侍女が差し出した茶を干した後に倒れなんした。まだ眠ったまま覚めておりんせん。御老人が詰めておりんすが、快復には遠いと聞きなんした」
「その侍女と茶は」
「運んだ侍女は長年勤めている女衆でござんす。茶を用意した方が下手人でござんした。フェストの人手に合わせて雇われた新参とのこと。すでに、自害して果てておりんす」
「それにしても、
「
当然ながら、今回のフェストの警戒網の責任者の一人である。
ベールで開催する以上、本部を此処に置くギルドが目を光らせているのは当然のことだ。
その警戒を易々と掻い潜って、総責任者を狙われた。
犯人など、イフターハ・アティードの手の者に決まっている。
それにしても、よりによって
「まずい。
オニール学長は、
いま彼を失うわけにはいかないのだから、当然であろう。
必然的に、ベールは最大戦力を二人、封じられたことになる。
「ギルドはシピ・シャノワールが差配しなんす。猫様からは、フェストには出れんせんと伝えなんしと」
「え、つまり、
確かに、
だが、これはヘルヴェティアの威信を示すためのフェストだったはずだ。
誰もが優勝を疑わない。
その目玉の
「御老人からの伝言でござんす。アラナン、
その瞬間、どくんと心臓の鼓動が跳ね上がった気がした。
オニール学長がそう言ってきた。
つまり、ぼくに勝てと言ってきているのだ。
ぼくは今まで、上に立つ人がいて色々と課題をこなしてきた。
あくまで個人の問題であり、失敗してもぼくが困る程度の問題でしかなかった。
だが、今度は違う。
口の中が、急にからからに渇いてきた気がする。
「──わかったよ、ぼくのやるべきことが」
「主様なら、容易くできなんすえ」
気休めかもしれないが、ファリニシュが微笑んだ。
いつもの色香漂う笑みではない。
慈母のような笑みであった。
思わず立ち止まって、見とれてしまう。
すると、今度は悪戯っぽく笑い、ぼくの背を押しやった。
「さ、行きなんせ。みなが主様を待っておりんす」
その言葉を聞いた瞬間、猛烈に腹が空いてきた。
体を縛っていた硬さが抜け、戦闘意欲が湧いてくる。
朝食を終え、
賭けの相場がいきなり変動し、高い倍率を付けていた人たちが下がったりしている。
相場を見てみると、本命は、やはり
次いで
何だ、見る目ないな。
クリングヴァル先生が入ってないじゃないか。
もちろん、ぼくもね。
「おい、有り金ぼくに賭けておけよ」
カレルにこっそり耳打ちすると、急に目をぎらぎら輝かせてきた。
「おい、自信あるのかよ。初戦、
「問題ないさ。ぼくのカードから現金を引き出して、根こそぎ賭けておいてくれ。本選は本人の賭けは禁止なんだ」
「よし、任せとけ!」
カレルに旅券を渡すと、張り切って駆けていく。
旅券には事前に魔力を通してあるから、ぼくじゃなくても引き出せるのだ。
念のため、ハンスとアルフレートにカレルの後を追ってもらう。
一人は危ないしね。
観客席は、超満員だった。
ぼくは指定席を取っていたからよかったが、立ち見はもう人が潰れて倒れそうな状態になっている。
皮肉なことに、
その熱狂の中、
アルビオン騎士の正装で身を固めた
「西から現れたのはアルビオンが誇った若手の俊英、かのノートゥーン公爵が長子、ノートゥーン伯爵、そしてその全てを捨て去った男! 魔法学院高等科の
観客席の上段には、
そして、本選からは、実況席の頭上に設置された
この技術だけで、ヘルヴェティアが他国を圧倒できるんじゃないかと思うよ。
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