第八章 ベールに忍び寄る影 -7-
ハンスは順調に勝ち進んだ。
二回戦、三回戦と突破し、四回戦でユルゲン・コンラートと当たった。
ユルゲンの方が体格も膂力も上であり、
だが、
正々堂々としたハンスらしいいい試合だったな。
第五組のハーフェズと、第十二組の
あの二人が予選に出てくるのは、何か相手が可哀想だな。
ハーフェズは、三回戦で
第七組のレオンさんと、第十組のルイーゼさんも順調のようだ。
そして、気が付かなかったが、第三組にイシュマール・アグ・ティナリウェン先輩も出場し、勝ち上がっていた。
高等科の先輩ともなると、やっぱり強いな。
そして、同じく気付かなかったが、サルバトーレも第四組で出場し、二回戦で敗退していた。
うん、父親を見習えよ、少しは。
ん、第四組でサルバトーレに一回戦で負けているヴォルマーって名前に聞き覚えがあるな。
ぼくが初めて冒険者登録したときに絡んできたやつじゃないか?
同名かもしれないけれど、サルバトーレに負けている程度だから、同一人物かもなあ。
五回戦は準決勝だ。
此処までくると、実力者しか残っていない。
第一組は、ハンスとメディオラ公が激突する。
ロレンツォ・スフォルツァも学院の卒業生で、中等科までを修了している。
隙の少ない剣士だ。
対するハンスは近距離専門で、離れていては戦えない。
従って、間合いを奪い合う勝負となった。
先手はメディオラ公が取った。
回転のいい小さい
「慎重に立ち上がりはったなあ、ロレンツォはん。そない思いまへんか、ジリオーラのお
予選も此処までくると、
だから、色んな人と出会ったりしていた。
だが、いきなり話し掛けてきたこの女性は初めてだった。
「コンスタンツェはんも久しぶりやねんな。うちのおとんの家で会うて以来やって」
ジリオーラ先輩の知り合いらしかった。
だが、何となく火花が散っているような気がする。
年齢は先輩と同じくらいなんだろうか。
金髪を編み込んで一房にして垂らしている。
柔らかい雰囲気なんだが、細い目は笑ってない。
「そちらさんも初めまして、コンスタンツェ・オルシーニ言います。学院の生徒はんなら、あての後輩になりはるなあ。よろしゅうお頼み申します」
「これでも、ルウムの
ジリオーラ先輩がさりげなく言ったので、危うく聞き逃すところだった。
何だって。
彼女がそうなのか。
「初めまして、アラナン・ドゥリスコルです。え、
「そうですえ。あてはお
へえ、まさか、ルウム教会の人間まで学院に受け入れているとは思わなかった。
オニール学長は、何を考えているのだろう。
評議会にルウム教会の人間が入っていたり、完全に敵対行動を取っているわけではないようだ。
「うちと
「争う言いはっても、あてはお
「一回勝ってるっちゅうねん。初等科最後の試合で」
「あれはあてがお腹壊したときやおへんか」
ジリオーラ先輩と
よほど強いライバル意識だったのかな。
お陰で落ち着いて試合が見れる。
うん、まだそれほど大きく動いていないな。
細かい
長期戦になれば、どっちが有利かな。
「ハンスさんは、そろそろ突っ込みますよ。
アルフレートが確信を持って言う。
誰よりもハンスの相手を勤めてきたアルフレートだ。
癖も呼吸も把握しているんだろう。
彼の言った通り、公爵の
いい思い切りだった。
公爵の息を吸い込む機を見計らって突っ込んでいる。
僅かに公爵の反応が遅れた。
そして、ハンスが距離を潰すためには、その一瞬があれば十分だった。
ハンスの剣が振りかざされた。
冷気をまとい、白い霜が降りている。
火炎属性が強い公爵に対抗するために、氷雪属性を剣に付与したか。
いい判断だ。
「あきまへん。そら公爵の誘いですえ」
ジリオーラ先輩と話していたはずの
ぼくははっとして、
公爵は、二刀を竜の顎のように上下に構えていた。
先に上に構えた右手の剣が振り下ろされてくる。
ハンスは、ユルゲンとの試合で使った切り落としでその斬撃を弾き、公爵の頭上に剣を落とす。
だが、右手の剣は虚だった。
左手の方が実だったのだ。
振り下ろされる剣に倍する速度で切り上げられた斬撃に、ハンスは反応できなかった。
ハンスの刃が届くより先に、公爵の剣がハンスを致死判定に追い込んだのである。
「あら公爵の
うーん、負けちゃったか。
流石にロレンツォ・スフォルツァ公は練達の剣士だ。
ハンスより技の引き出しが豊富だな。
「ハンスさん……」
「あー負けちまったか……」
アルフレートとカレルの二人も、友人の敗戦にため息を吐いた。
「そんなに大きな差はないと思うんだけれどね。ハンスに足りないのは、実戦での経験かな」
「駆け引きとかそういうのに弱いですからね、ハンスさん」
剣の
この少年が言うと説得力がある。
ハンスにはまだ改良する余地がある。
それは、まだ強くなれるってことだよ。
とりあえず、ハンスはお疲れ様だね。
「ほな、あても行きますさかい。
「あかんて。
「お
オルシーニさんは、ころころと笑いながら去っていった。
でも、最後まであの人、目が笑ってなかったよ。
怖い人だ。
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