雑著
逆さに刺さった時計塔
忘れ去られた昔の話。
あるところに、大きな大きな時計塔があった。その頂点は鳥よりも高く、雲にも届く程だったという。ただ、余りに高すぎて正確な全長は誰も知らなかったそうだ。不思議なのはその塔を建てた人物を誰も知らなかったことだ。しかし、それを気にするものもまた誰一人いなかった。
それから幾度も月日は過ぎる。
時計塔の下には人々が集まって街ができた。十二時半に鳴る時鐘に住人達は耳を澄まし、その厳かな音を心に沁み入らせた。この頃霧の日に若い男の幽霊が度々塔の尖端に立っていると噂が囁かれた。
さらに時は流れる。
街はみるみる内に発展し、楼閣が建ち並ぶようになった。そしてある日、遂に時計塔よりも大きな摩天楼が建てられた。摩天楼はたちまち若者の関心を集め、時計塔に変わる新たなシンボルとして栄えることになった。しばらくは時計塔にも老人が集っていたが、ある日彼らも忽然と消えてしまった。
崩壊は早かった。
贋の神が降臨し、街には終焉の光が落ちた。初めに少女が死んだ。間も無く摩天楼も壊れた。虚飾の彩は剥がれ落ち、影は街を透明に照らした。
夜が明けてみれば、そこには巨大なクレーターのみが残った。中心には、一つだけ無傷の時計塔が逆さに刺さっている。
やがて街に鐘の音が響く。時計の針は十二時半で動くのを止めた。
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