第二回カクヨミー大賞を受賞するのは…!?

ちびまるフォイ

毒にも薬にもならない小説

恵方巻がたくさん捨てられていることに心を痛めたカクヨム運営は、

カクヨミー賞なる作品評価の賞を開設した。


『このたび、厳正にして公正なる花占いにより

 あなたがカクヨミー会員として選ばれました。


 つきましては、次回からカクヨミー賞を授与するに

 ふさわしい作品を選んできてください』



「俺が……カクヨミー会員!?」


カクヨミー賞を授与するのはすでに投稿されている作品のみ。

カクヨミー会員であることは完全に秘密にされている。

まるでエージェントだ。


カクヨミー会員に任命されてからは責任感からか

それともニート特有の持て余した時間を使いたいからか

カクヨムでジャンルをしぼらずに作品を読みまくった。


「おお、これは面白い!!」


と、自分なりに面白いのを推したところ、その年のカクヨミー大賞はその作品となった。

他のカクヨミー会員もこの作品を気に入ったらしい。

いい作品というのはみんなに好かれるんだなと思った。


カクヨミー大賞を授与された作品は、

目次の画面に『大賞受賞』という帯が斜めにつけられる。


カクヨムTOPでも帯がついているタイトルはこれだけなので、

いやがおうにも目立つ目立つ。作品はまたたくまに注目された。


>最高に面白かった!!

>納得の大賞受賞!!

>見つけたカクヨミー会員、ぐっじょぶ!!!


俺の作品ではないものの、レビューを読んでいると自分まで誇らしくなる。

この功績が認められたのか再抽選がめんどいのか、俺は次回の選考委員も続投となった。


「さて、次はどんな作品がいいかな……」


初のカクヨミー大賞が大好評だったので、

どうしても読者は第二回カクヨミー大賞への期待値は上がる。

期待外れの作品を出して「選考委員の目が曇ったな」と思われたくない。


「むむむ……なかなかいいものないなぁ……」


カクヨムに張り付く時間はどんどん増えて、

気が付けば普段アクセスしているエロサイトと同じくらいの時間になった。

つまり、24時間。


毎日ひっきりなしに新作が投下されて、

数え切れないほどの連載小説が更新されているというのに

カクヨミー大賞として選ばれるべき作品はなかなか見つからない。


というより、自分の中のハードルが高くなっている。


「やっぱり、カクヨミー大賞として選ばれるだけの作品じゃなくちゃ。

 なんかこう、読んだ後に世界が変わるようなものがいいし。

 毒にも薬にもならない空気小説は選びたくないなぁ」


いつまでたっても選べないのでカクヨミー大賞の時期が迫ってくる。

そこでカクヨミー大賞作品にふさわしい要素を分解することに。



・実話をもとにした話

・それでいて、現代の問題点を浮き彫りにする話

・かつ、ハッピーエンドで面白い



「……やっぱこれだよな」


実話をもとにした問題提起小説なら、読み終わった読者が

「ああ、こういう人がいたんだ。しっかりしなきゃ」と自分を顧みる。


そんな薬になる小説を選んだカクヨミー会員は超有能、となる。


やっとこさ求められる条件をしぼったところで、カクヨミー選考期間は残りわずか。

慌ててカクヨムの投稿作品を読みまくるも、条件に該当する作品はない。


「ちくしょう! なんでみんな異世界なんだ!! 催眠かけられてんのか!?」


このまま「受賞者なし」などという肩透かしもいいところの結論を出せば

「カクヨミー会員超無能」となじられてしまう。


「待てよ……これ、俺が書いた方が早いんじゃないか!?」


惑星直列と皆既月食が同時におきたそのとき、俺の頭にそのアイデアが下りてきた。


誰がカクヨミー会員になっているかはお互いに知らない。

俺が投稿した作品を俺が自薦しても、それを知る人間はいない。


なんのストレスを抱えているのか知らないが、

批判エッセイだけは人気になっていた俺の手腕が生かされる時が来た。


社会批判をしつつ、現代の人物を掘り下げる小説を書き終えた。


「……まずいな、普通につまんないぞ、これ」


カクヨミー大賞としてふさわしい作品にするために脚本家を雇った。

展開が劇的でドラマチックにリメイクされた。


「……あれ? でも、これ登場人物の服装がクソだせぇな」


カクヨミー大賞となれば当然アニメ化の話とかも来るだろう。

映像化したときに、主人公の服装がステテコのままだとさまにならない。


今度は美術をやとって、小説内のキャラたちの服装をオシャレに変えた。


「おおお!! なんてファッショナブルな小説なんだ!!

 これで完璧……いや、完璧か?」


こうなるともうちょっと凝りたくなるのはアマチュア小説家のさが。

今度は演出家を雇って、小説に最新鋭のVFXと3DとCGを追加した。


「なんて迫力だ!! 読んでいるだけで映像が立体的に飛び出してくるようだ!!」


ここでやっと時間切れ。

ギリギリに間に合ったので、カクヨミー大賞に自分の小説を推した。

誰が読んでも納得の受賞になるはずだ。


他のカクヨミー会員も投票を済ませた。

大賞発表のときになり、息が詰まりそうになる。


「俺の小説来い……俺の小説来い……」


「それでは! 大賞を発表します! 大賞は――」





「今年度カクヨミー大賞は、『俺の小説』です!!!」


会場全体から拍手が巻き起こった。


「現代の問題点を鋭く指摘しながらも、

 エンターテイメント性にあふれ、衣装デザインも優れていて

 それでいて凝った表現がカクヨミー会員の高評価となりました!」


すべての努力が報われた気がした。

やっぱり俺の見立ては間違っていなかった。


「それでは、この作品の作者は登壇してください!!」



そして、俺と脚本家と演出家と服装デザインが登壇した。


「バカ野郎!! 俺が原案なんだから作者は俺だろ!!」

「脚本書かなかったら、受賞もできてないクソ小説だろ!!」

「クソださい服のまま受賞なんてできるもんですか!! 私が作者よ!」

「CGがなかったら評価さなかった! 僕が作者だ!!!」




その後、この第二回カクヨミー大賞の血の惨劇を描いた小説は

第三回カクヨミー大賞の作品として輝いた。


実在の事件をもとに、社会批判を混ぜつつ、ハッピーエンドで終わった。

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