第二ー十四話:第五試合(後編)
霧の渦が空に向かって渦巻く中、ゆらゆらと熱気でその場が揺れる。
(暑い……)
いくら“
『大丈夫?』
「何とか……」
ファイアが心配そうに尋ねるが、ルイナは大丈夫だと告げる。
『僕も知らないわけじゃないけど、やっぱり彼に勝つには――』
「ウォーティとは契約はしない」
おそらく、ファイアが言おうとしていたのは、自分との契約解除をして、ウォーティと契約しろということだろう。
『でもっ……!』
「とにかく、ウォーティとは契約しない。契約解除すれば、ファイアもそれだけの精霊だった、ということになる」
ファイアはまだ何か言いたそうだが、ルイナもルイナで、
「だから私は、ファイアが本気も出さないうちから、そう思われるのだけは嫌。だって――」
『ルイナさん……』
「だから、もう少しだけ協力してくれないかな?」
それを聞いて、ファイアは俯く。
『そんなこと言われたら、もうウォーティに代われなんて、言えないじゃないですか』
仕方ないなぁ、とファイアは言う。
『もう少しだけ、付き合わさせていただきますよ、我が主』
ファイアの言葉に、ルイナは笑みを浮かべる。
「ん、お願い。貴方も、ね」
自身の愛機を一瞥して言えば、了解の意なのか、
「さて、先輩をもう一度、驚かせるとしますか」
☆★☆
水属性の魔法――球状の水が次々と銀へ向かって放たれる。
確か、ルイナの方に水属性の精霊がいたはずだ。
(契約したのか……?)
そう球状の水を躱しながらも推測する
「とにかく、この状況をどうにかしないと、な」
暑いのは仕方がない。
ルイナを見つけなければ、勝負にすらならない。別にツイン側のリーダーが逃げ出した、とバラしてもいいのだが、ツイン側が――特にルイシアが認めないだろう。
それに、仕掛けてきたのはルイナである。そんな彼女が逃げ出すわけがない。
(つまり、この霧の渦と陽炎状態を利用して、どこかに隠れているはずだ)
おそらく火の精霊も一緒のルイナだ。簡単には見つけられないだろう。
(なら――)
「“日照りの大地――ドラウト・グラウンド”!」
フィールドが日照りにてもなったかのように、ルイナが使った“陽炎”に現在の季節と相まって、ジリジリと音を立てる。
『どうしよう。これじゃ“
ウォーティが蒸発しちゃう、と慌てた様子で伝えに来た。
確かに、このままではウォーティの魔法は蒸発するだろう。
「……」
どうするべきかをルイナは考える。
驚かせるとは言ったが、今使うような手ではない。
「はぁ、二人とも」
溜め息を吐き、二人を呼べば、ファイアとウォーティはルイナに目を向ける。
「火と水、剣と魔法の応酬戦。やるよ」
『……分かった。ルイナさんがそう決めたなら』
『持久戦ですか。彼が相手の時点で、決まっていたようなものですが』
ルイナの言葉に、それぞれが返す。
そこから、“霧の渦”が消えるか消えないかを見計らい、ルイナとファイア、ウォーティはそれぞれ魔法を発動する。
「なっ――」
銀が驚くのも無理はない。
上からは火の玉や水の球、下からは間欠泉のように噴き出す炎と水。それが間を置くことなく、銀に襲いかかってくるのだから。
(そう簡単には、誘き出されてはくれないか)
相手には精霊がいる。しかも、火の精霊だ。火炎や熱気などは相殺されるだろう。
(だが、反応があったということは――)
何らかの影響か、何かがあったはずだ。
銀は自分に放たれる魔法を、何とか魔法と武器の交互を扱うことにより、仕掛けてきたであろうルイナへ応戦する。
(キリがない)
そう思いながら、ルイナの攻撃を避ける。
(それでも、このペースだと魔力の尽きが早いはずだ)
いくら魔力が無尽蔵に近いルイナとはいえ、ハイペースで魔力を使っていれば、いつか底を尽きるに決まってる。
『ルイナさん、これじゃキリがないよ』
だが、ルイナとともに攻撃を仕掛けていたファイアもそう思ったらしい。
「分かってる。でも――」
抗戦してくる銀を見ながら、ルイナは言う。
「あの人に、まともな方法が通じるわけがない」
だから、この方法を選んだ。
ルイナはそう告げる。
(まあ、まともな方法が通じないからこそ、ファイアたちの力まで借りてるわけだけど……)
つぅ、と汗が流れる。
「やっぱり、強いなぁ」
ルイナはそう呟いた。
互いにまだ手を抜いている上に、ウォーティの水分身もおり、攻撃し続けてくることを利用して気配から位置を特定し、ここまで臨機応変に対応されては、ルイナとしても目眩ましと連続攻撃した意味がない。
実際、ファイアの火の玉こと“
「さて、次はどんな手を使ってくるつもりだ?」
「っ、」
それは、完全に嘗められてるとしか、思えなかった。
銀がどれだけ強くなったのかは、対戦相手として戦っているルイナに完全には分からない。だが、それは銀も同じであり、手を抜いているため、ルイナの実力を把握しきれてはいなかった。
「ファイア」
『は、はい!』
「上級を発動する」
『え』
小声でファイアに告げれば、驚いたような声を上げられる。
今はウォーティと彼女が再び作ったルイナの水分身が銀の相手をしているが、彼はよく見ているのか、槍状の武器を横に薙ぎ、分身を一瞬で消し去る。
「ウォーティにも約束しちゃったでしょ。すぐに終わらせる、って」
長くは持たない、と言ったウォーティにそう約束した。だから、ルイナは早急に終わらせることを決めたのだ。
『ですが、上級を発動するということは――』
「うん、『本気を出さない』という目的からは外れるね」
ファイアの言葉に、ルイナは頷く。
上級魔法を発動するということは、当初の目的から外れ、少しばかり本気になったと示すことになる。
「でも、私にはファイアたちがいるから」
ルイナは愛機を前に構え、上級魔法の詠唱を始める。
そんな彼女を見て、
『全く、ルイナさんといい、ルキノさんといい……』
こういう所はそっくりなんだから、と溜め息を吐くファイアだった。
☆★☆
「
相変わらず、
「せめて、状況が分かれば、ねぇ」
「状況って言っても、消えかけてる霧の渦とこの熱気だけだもんな」
「ルイシアはどう……って聞いても一緒か」
誰に聞いたって、感想なんて一緒だろう。
「この霧の渦は、間違いなくルイナの仕業。熱気は二人によるもの」
「……淡々と解説するなよ」
目を一度も逸らすことなく言うルイシアに、頼人が突っ込む。
(ルイナに限っては大丈夫だろうが……)
相手は実力者である銀だ。仮に負けたとしても、ルイナを責めるつもりはないが、ツインが悪い目で見られるのは間違いないだろう。
「ルイナは勝つよ」
ルイシアがそう呟く。
「あいつが負けないっていうのは理解してるが、相手は銀先輩だぞ?」
「ルイナは勝つよ。先輩がどう対応するかにもよるけど、今のあの子と精霊たちには――」
勝てない。
このままルイナたちが上級魔法を使わなければ、銀に勝機はあっただろう。だが、ルイナたちが上級魔法を使えば、果たして銀に勝機はあるんだろうか? という疑問が湧く。
そのことを思案し始めようとする時だった。
消えかかっていた“霧の渦”の中から、炎が噴き出したのは――
☆★☆
完全とはいかなくとも、“
「まだ、防ぐ手立てがあったんですか」
信じられないものを見るかのようなルイナに対し、銀の着ていた服の一部が見事なまでにボロボロである。
「俺としては、今の魔法と姿について聞きたいんだが?」
互いに睨み合う。
銀の言う通り、ルイナの姿はファイアとの契約状態から微妙に変わっている。
というのも、その姿はポニーテールになっていた部分の髪がやや伸び、頬に紋様のような赤いラインが浮かび上がっている。
「私が言うと思います?」
「……」
銀は黙り込む。彼女を知る人物なら、彼女が素直に答えるわけがないことぐらい理解できる。
「まあ、聞かれるであろうことは予想してましたから、別に良いんですが」
良いのか、とは突っ込まない。
「あえて一つだけ言うのであれば、火属性が火属性に効きにくいように、火属性の精霊に火属性の魔法が効きにくいのは、当たり前じゃないですか、ってことぐらいですかね」
どれだけ攻撃しようが防御しようが、威力は確実に下がる。別の言い方をすれば、ノーダメージだ。
炎に対して火をぶつけて相殺してくるとか、威力を無視したようなこともされたが、基本的にファイアと契約中のルイナには効かない。仮にルイナがウォーティと契約しており、ダメージを与えるのが目的で攻撃しても半減されるか効かない上に、火傷などの状態異常にしたとしても、治癒魔法も扱えるウォーティにとって、火傷もすぐに治せるので、結果的には無意味である。
結論から言えば、有り得ない数の精霊と契約しているルイナだが、もちろん実力はあるし弱点もある。だが、精霊と本人の実力から弱点となる部分は限られてくる、というわけだ。
「なぁ、ルイシア」
「何?」
「あれ、本当に本人か?」
そこでルイシアはようやく頼人の方へ目を向ける。
赤い髪に赤い眼。伸びた髪と頬の紋様のような赤いライン以外は相も変わらず、ファイアと契約状態のルイナである。
「本人でしょ?」
美波が何言ってるの、と首を傾げながら言う。
「でもなぁ……」
「あるよなぁ、違和感が」
頼人に同意するかのように、玖蘭もそう言う。どうやら彼も感じていたらしい。
だが、ここまで来れば、ルイナと長いこと一緒にいたルイシアの判断が気になるところだが、と三人はルイシアに目を向ける。
「あれは――……」
☆★☆
互いに火属性の魔法を放つ。
「先輩の攻撃、やっぱり嫌い!」
それを聞いた銀の手が一時的に止まる。
「
『地味にショック受けながら、動揺しているせいで、正論なのに意味をなしてませんよ、っと』
銀の言い分に、後ろからウォーティがぼそりと告げる。それに気づいたらしい銀が、相棒を横に振るが、ウォーティはひらりと躱す。それに舌打ちした銀はルイナに叫ぶ。
「おい、
それを聞いたウォーティとファイアが口を開く。
『悪いけど、ルイナちゃんには無理よ』
『いくら契約してるとはいえ、物事には限度があるしね。そもそも、精霊は人より上位に位置づけられた存在だと聞いた。そんな僕たちと心を合わせられたとしても、精霊を束縛したりはできないからね』
「もし仮に、下手に手を出せば、精霊との契約はおろか、視認することすら怪しくなります」
それに、幼かったルイナの面倒を見ていたこともある二人である。そもそもルイナが二人に何か言える立場ではなかったりする。
「それに、この子たちと契約しなかったら、私、本来の力で戦うことになるんですよ?」
それがどういうことなのか、先輩は分かりますよね、とルイナに言われ、銀は顔を逸らす。
『貴方だから一応言っておきますが、精霊契約で抑えているだけで、精霊一人でもルイナちゃんの側からいなくなった場合は覚悟しておいてください』
ウォーティが小声で銀にそう告げる。
これは、ルイナが信用していて、彼女を止められるような実力者でない限り、ウォーティは話すつもりはなかった。もちろん、銀はそんなこと知らないが。
『ルカさんには言ってあるのでご安心を』
ルカを一瞥した銀に、ウォーティが笑顔で告げる。
なお、ツイン側で知っているのはルイシアのみである。
「……そうか」
理解したらしい銀に小さく笑みを浮かべて、そっと距離を取るウォーティ。
『
そして、隙ありとばかりに銀の背中に向けて、攻撃を放つ。
「テメェ……」
一方で攻撃された銀は、ウォーティに恨めしそうな目を向ける。
「まだ試合は終わってませんよ、先輩。“炎刀
「――ッツ!!」
炎を纏った刀の形に変化していたルイナの愛機が横に振るわれ、勢いよく炎の渦が銀に襲いかかる。
『ルイナさん、大丈夫?』
「大丈夫……」
肩で息をするルイナに、ファイアが心配そうな目を向ける。
ルイナだって、上級魔法を一、二発発動しただけで、くたばるような年齢でもなければ、魔力の持ち主でもない。
(極端な制御は体に負担が掛かるのは分かってたけど……)
みんなの――仲間のためなら、それぐらいどうってことはない。
銀に放った炎の渦を見ていれば、次の瞬間、炎の渦は吹き飛ばされる。
「はぁ、ギリギリだったか」
当たり前だが、銀は防いでいたらしい。
「火属性に、火属性が効かないって言ったのはお前だよな?」
確かにルイナはそう言った。
「はい、言いましたよ。でも、方法次第ではどうにでもなりますから」
刀の形のまま上に振り上げられた愛機を中心に、ルイナの周りには青白い炎が複数――銀が出したものよりも倍の数の青白い炎がゆらゆらと揺れている。
「おい、ちょっと待て」
嫌な予感しかしない。というか、あれを全て避けなければいけないのか。
銀が顔を引きつらせ、制止の声を上げるが――
「嫌です」
即答だった。
そして、愛機が振り下ろされ、青白い炎は銀へと放たれた。
☆★☆
「えげつないというか、容赦ないと言うか……」
「……まあ、平常運転だと思えば……ねえ?」
見ていた頼人の言葉に、ルイシアがやや間を空けながらも、玖蘭たちに同意を求めるように尋ねるが返事はない。
「あれが平常運転って……」
頼人は頼人で、ルイシアの言葉にやや引き気味である。
「おい、ルイナ! お前、少しやりすぎだ!」
審判をしていたルカがルイナに向かって叫べば、ルイナはルカに目を向ける。
「大丈夫。死なないから」
「そういう問題じゃねーよ!」
死ぬとか死なないとかの問題ではない。致死レベルの魔法を放ったことが問題なのだ。
(まさか、制御できてない……?)
ファイアも隣にいるルイナである。制御できていないのなら、ファイアが気づくはずだ。
『ルイナさん、大丈夫?』
「……今ので、負けを認めてほしいなぁ」
心配そうなファイアに、ルイナはそう呟く。
(あと、五分……)
「これ以上の魔力使用はヤバい」
ルイナが常人と比べて魔力が多いことは何度も言ったが、だからといって、デメリットが無いわけでもない。
魔法使用による魔力消費と精霊契約による魔力消費は今までの流れから行けば説明したと思う。
だが、それ以外で行けば、魔力を完全に底が尽きるまで使い切る(上級魔法の多量使用)、慣れない魔法の長期使用(これも上級魔法限定)、上級魔法の極端な威力などの制御など……とまあ、明らかに何らかの障害が出てもおかしくはない。
ルイナとしては、『魔術師バトル』出場の件もあるため、魔法が扱えなくなるどころか出場すら危ぶまれては困る。だから、魔力の使いすぎを防ぐために時間を決めた。
「っ、」
(早く、決着を――)
着々と近づくタイムリミットに、焦りが生じ始めるルイナに、ファイアは心配そうにしながらも、銀がいる方へ目を向けるのだった。
☆★☆
「っつ、あいつら……」
青白い炎を受けながら、その場を覆う煙の中から、銀は何とか立ち上がる。
生きているのが不思議なぐらい、本人も首を傾げたほどである。
「
ありそうで無さそうな可能性だが、頭を振って、それはないな、と除外する。
「……」
銀は少しばかり思案する。
『先輩、負けてもらえませんか?』
先程、炎が噴き出す音を利用してか、ルイナは銀にそう尋ねていた。
銀としては二人での勝負だったら、負けてもいいかと思ったのだが、これは本部とツインの問題であり、下手に負けを認めたらどうなるかなど予想できる。それに、自身のプライドもある。
『無理にとは言いません』
滅多に無い後輩からの頼みである。出来ることなら、叶えてやりたい。
(だが、無理だ)
銀の中で葛藤が生まれていた。
「先、輩……」
そう呟きながら、立っていたことに驚くルイナに、銀は目を向ける。ルイナが殺すつもりで攻撃をしてきてないことぐらい銀は理解している。
『ルイナちゃんのためを思うなら、倒れておいてよ』
そう告げながら移動したらしいウォーティが、ルイナの隣から銀を睨む。
互いにもう魔力も体力も限界である。
ファイアとともに彼を攻撃するルイナは、次第に銀を追いつめていたのだろうが、逆に銀もルイナを追いつめていたらしい。
「……一つ、聞かせろ」
そんなルイナに、銀は尋ねる。
「どうして、そこまでして勝とうとする」
「どうして、と言われても……」
どう答えるべきか、ルイナは内心で思案する。
試合前の条件を守ってもらうため、というのもあるのだが、戦う理由はそれだけではない。ルイナとしては、ツインにいる面々を本部に戻してあげたい、という想いもある。そのためには――……
「私は、自分と同じような理由や理不尽な理由で、誰かがツインに送られてくるのは嫌です」
ルイナは答える。
「本部の人たちが気に入らないからと、次々とツインに人を送ってくるせいで、ツインの受容人数がギリギリになってること、先輩は知りませんよね?」
ルイナは銀に目を向ける。だが、その視線は、どこか悲しそうなものだ。
「態度が生意気だから、とか口答えしたからだとか、そんな理由なだけで送られてきた人たちを、私はツインに異動してから何人も見てきました」
心当たりがあるのか、本部側の観客席に座っていた一部の者たちは顔を逸らす。
「だから、私は先程も言いましたが、自分と同じような理由や理不尽な理由で、誰かがツインに送られてくるのは嫌なんです」
それを聞き、ルイナを送った張本人である銀は内心驚いていた。
態度が生意気だから、口答えしたから、ツインに送られた奴がいた。ルイナをツインに送った自分が言えたことではないが、それだけで? と銀は思ってしまったのだ。
それと同時に彼女がどう思っているのかを知り、無意識に両手を握りしめ、拳を作り上げていたが、自身を落ち着かせるためにそっと息を吐くと、そうかと返す。
「互いに、魔力も体力も少ないからな。次の一撃で最後にしないか?」
「良いですよ」
自身が持つ、最高にして最強の一技。
それを放つために、ルイナは口を開く。
「契約解除」
『ルイナさん!?』
『ちょっ、何してんの!?』
唐突に契約解除されて驚くファイアとウォーティに、大丈夫、とルイナは返す。
「どうせ最後の攻撃になるのなら、
苦笑するルイナだがファイアとウォーティの表情は変わらない。
「それで良いのか?」
「私は構いませんよ」
ルイナの確認を終えると、銀も分かったと頷き、それぞれ戦闘態勢に入る。
お互いが求める、勝利のために。
「“
「ファイア、ウォーティ。飛ばされないように捕まってて」
すぐさま対応に入るルイナの言葉に返事はしなかったが、二人はルイナの肩へと移動する。
(さて、と)
吹き荒れる嵐の中、軽く息を吐き、杖の状態になった愛機に魔力を流す。
(卑怯かもしれませんが、少しだけ
心の中で謝罪する。いくら使用許可が出ているからと、本来なら
「『精霊の加護を――我に勝利を
悪意や邪心を感じさせないように、淡々と唱えていく。
「『我が願うは勝利の剣』」
上に向かって掲げられたルイナの愛機が光を纏い、形を変える。
「まさか、ルイナ――」
気づいたらしいルイシアが目を見開き、その場で固まる。
「おいおい、マジかよ」
見ていた茶髪の男も冷や汗を流す。
(こんな隠し玉、銀でも防ぎきれるかどうかは難しいぞ?)
自分では確実に無理だ。防ぎきれる自信がない。
光の粒子を放ちながら、剣の姿に変化した愛機に目を向けるルイナ。
(やっぱり、今の魔力残量じゃ、顕現するまでは無理だったか)
思わず舌打ちしたくはなったが、文句は言ってられない。
『ルイナさん』
「大丈夫。でも、今は一発が限界」
心配そうなファイアに、ルイナは笑みを浮かべるが、やはりどこか辛そうである。
「二人とも、カウントしてて。残り二分!」
『は、はい!』
銀の“紅き嵐”が襲い来るも、慌ててウォーティがカウントに入る。
そのままルイナは愛機に意識を集中する。
「『風には風を――断ち切れ』」
ルイナがそのまま愛機を振り下ろせば、光の粒子が散らばり、
「っ、」
『ルイナさん!』
余波が術者でもあるルイナを襲い、手から赤い滴がフィールドへと落ちる。そのことにファイアが叫ぶが、風音に掻き消され、ウォーティも目を逸らしてカウントに集中する。
「大丈夫。それより……」
そう言って微笑むルイナだが、黄金の風は“紅き嵐”と押し合いをしていた。
『押されるなんて……ルイナさん、まさか追加攻撃しようだなんて、考えてませんよね?』
「余裕があればやりたいけど、そんな魔力ない。ファイアたちが見えなくなるのも嫌だし」
ファイアは念押しで制止するが、ルイナはしない、無理だと答える。
「……」
一方で、銀は自身の“紅き嵐”とルイナの黄金の風を見ていた。
(やっぱりというべきか否か、精霊だけじゃなかったか)
あの光の粒子を放つ剣がどんなものかは分からないが、ルイナの反応から見ると、そう簡単に、何度も使えるものではないのだろう。
そして、黄金の風が“紅き嵐”を散り舞わせ、ルイナの一撃である黄金の風が銀へと向かい――当たろうとしていた。
「やっぱり、お前は強いよ、柊」
そう呟き、そっと目を閉じる銀だった。
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