第二ー二話:第一試合(前編)


「よし、じゃあ行ってくる」


 ツイン側からは、条件のぬしでもある古月ふるつき美波みなみ


「まあ、何とか勝ってくるよ」


 対する本部側からは、美波をツインに送った張本人、リヴァリーだった。

 二人がそれぞれフィールドに立つと、審判であるルカの背後にあったモニターへと映し出される。


「久しぶりだね、古月ふるつきさん」

「本当にお久しぶりですね。センパイ」


 話しかけてきたリヴァリーに、美波は不機嫌そうに返す。


「相変わらずだね」

「それはこちらの言葉です。気持ち悪いぐらい愛想のいい笑顔ですね」


 美波の言葉に、リヴァリーは苦笑いする。


「いや~、君の毒舌も久々に聞くと、懐かしく思えるね」

「私は全っ然、懐かしくなんかありませんが?」


 美波は笑顔を浮かべて返す。

 その笑顔が若干引きつっていたのは、気のせいではない。


「そっか。それじゃあ――始めようか」


 そして、そんなリヴァリーの言葉で試合は始まった。


   ☆★☆   


「なあ、ルイナ」

「ん?」


 頼人よりとが話し掛ける。


「古月を最初に行かせたのは何でだ?」

「ああ……別に意味はないよ。本人が行く気でいたから、行かせただけだし」


 ルイナはそう答える。


『行ってくる』


 そう言われたのなら、特に作戦などが無い限りは止める理由なんて無い。


(だから、私は彼女を行かせた)


 勝っても負けても構わない。

 彼女が負けたのなら、その分、自分たちが取り返せばいいのだから。

 それに、ルイナが彼女を五人目として選んだのは、美波本人が本部の人間に対し、恨みを持つことを知っていたからだった。

 もちろん、試合前に言っていたある目的・・・・も、関係していないわけではない。


「これが、試合であることを忘れてないといいけど」


 そんな心配をするルイナを余所に、彼女の横では、ルイシアが美波の対戦相手であるリヴァリーのデータを見ていた。


   ☆★☆   


『リヴァリー・アッシュ』


 古月美波をツインに送った人物。

 基本的に温厚な性格。

 古月美波を協会の協会ツインに送った理由は――……


   ☆★☆   


「……」


 ルイシアは無言だった。


(温厚な性格の割には、古月さんを送るような真似をして、どういうつもりだったのかしらね)


 そう思いながら、目の前で繰り広げられている試合に目を向ける。


『古月美波を協会の協会ツインに送った理由――それは、少し頭を冷やさせるため。』


(それが、思っていた以上に長引いてしまった、と)


 リヴァリーとしては、美波の頭が冷えた頃合いが判断できれば呼び戻すつもりだったのだろうけど、本部の人間である彼には仕事などのやることが多く、こうなることまで呼び戻すことが出来なかったのだろう。


「ルイシア、ちょっと頼んでいいかな?」

「何?」


 ルイナに声を掛けられ、ルイシアは目を向ける。


「少し調べてほしいことがある」

「調べてほしいこと?」


 ルイシアは首を傾げた。


「古月さんの――古月美波さんの過去を調べて」

「はぁっ!?」


 話を聞いていたのか、頼人が叫ぶ。


「ちょっ、それはマズいだろ」

「ああ。本人の許可無く、そいつの過去を知るのはどうかと思うぞ?」


 慌てた頼人に同意し、玖蘭くらんは冷静に言う。


「まあ、それは分かってるんだけど……」


 それでも、とルイナはフィールドに目を向けた。


   ☆★☆   


 美波の剣とリヴァリーの剣が、時折甲高い音を立てながら交差する。


「相っ変わらず、嫌みな人ですね」


 憎々しげに美波が言えば、


「僕はずっと、戦闘方法は変えてないよ」


 リヴァリーは平然と返す。


「ああ、確かにあんたは戦闘方法を変えてない。でもな――」


 美波は言う。


「私は本部の奴らが許せないんだよ!」


 二人の剣が再度ぶつかる。

 そして、リヴァリーは美波のを見て、自身の目を見開いた。

 彼女のそのには――憎しみに溢れており、それが見て分かってしまうほどで。


「何で……」


 リヴァリーは声をらした。

 だが、美波がそこまで怒る理由を知らないリヴァリーは、ただ応戦するしかなかった。


(何で――何で、彼女はこんなにも本部を憎む?)


 そう思いながら――

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