第六話:全員集合!持ちかけバトル前夜


 美波みなみが加わり、ツイン側は五人となった。

 報告を終えたルイナは一人、歩いていた。


(大丈夫。必ず勝てるから)


 美波をチームに加えたルイナは、必ず勝つことを祈っていた。


「よ、ルイナ」

「兄さん? どうしたの」


 そこで声を掛けられ、ルイナは首を傾げる。

 声の主はルカだった。


「どうしたの、って、それはこっちの台詞だ」


 苦笑いし、周囲を見てみろ、とルカは言う。

 そう言われ、ルイナは周囲を見渡す。


「あ……」

「無意識にこんな所まで来たって、寝ぼけてるなんてレベルじゃねーぞ」


 ルカが心配するように言うと、ルイナがむっ、として言い返す。


「失礼な。寝ぼけてないよ」

「まあ、今の時間で寝る奴は少ないよな」


 現時刻、夜の九時である。

 基本的に、魔術師協会は本部だろうがツインだろうが、この時間はほとんどの者が起きている。

 寝ているとすれば、十二歳以下の者たちだけだ。


「んー、でも何で本部に来ちゃったんだろ?」


 ルイナは唸り、思案する。

 そう、ルイナが今いるのは本部であり、ルイナが通ってきたのは、頼人よりとがツインに来る際に使った通路ではなく、ツインの別の場所から本部に繋がっている通路である。


「まあ、いいや。一つ情報をやる」

「情報?」


 訝るルイナに頷き、ルカは言う。


「お前が仕掛けた『持ちかけバトル』の審判、俺がやることになった」

「それ、私に言って良かったの?」


 ルイナとルカは兄妹だ。

 本部の上層部なら、それを知っているはずであり、もしルカがルイナに審判をすることを告げたり、告げようとするような素振りすれば、本番は別の人に代わる可能性もあるはずだ。


「まあ、マズいだろうな」


 あっさりとルカは認め、ルイナは驚いた。


「それでも、俺はルイナ、お前たちが勝つと信じてる。だから俺は、判定を厳しくする」

「兄さん……」


 ルカの言葉に、ルイナは何とも言えない表情になった。

 いくら兄妹であるとはいえ、今二人が在籍しているのは、本部とツインだ。


「それに、これは前哨戦なんだろ? なら、あまり手の内を見せるようなことはするなよ」


 ルカはポンポン、とルイナの頭を撫でる。


「あ、そうそう。伝言があった」

「伝言?」


 情報の次は伝言か、とルイナは思った。


「あいつ――ぎんの奴が、負けるつもりはないだと」


 ルイナは今まで以上に、目を見開いた。

 銀髪の男――銀からの伝言だった。


 負けるつもりはない。


「それって、あいつも、出るってこと……?」


 固まったルイナに、ルカはルイナの前で軽く手を振る。

 正気に戻ったのか、ルイナはルカを見る。


「さあな。だが、さすがに知っていても、出場者は教えられない」

「分かってる。こっちも教えるつもりはないから」


 そう言うと、ルイナはルカに背中を向ける。


「私は、そろそろ戻るよ。兄さんも関係してると思われたら、厄介だし」


 じゃあね、と告げ、ルイナは本部から出て行った。


   ☆★☆   


 翌日。


古月ふるつきさん」

「何?」


 ルイナが声を掛ければ、鬱陶しそうに美波が返事をする。


「ちょっといいかな?」


 そう言われ、美波は溜め息混じりに立ち上がった。





「というわけで、ルイシアが本部の出場者メンバー特定したので、誰が相手するか決めたいと思います」

「あんまり張り切って決めるような対戦相手じゃないけど?」


 別室に移り、開口一番、ルイナは説明を始めた。

 そんなルイナに対戦相手を見て、まだ余裕でいられる? とルイシアは尋ねる。

 全員で画面を見て、固まる。


「あの、ルイシアさん? これ、マジ?」

「嘘いてどうするの。一応、何度も調べたけど、変わらなかったから、多分間違いない」


 頼人の問いに、ルイシアは頷く。


「またか」

「またなのね」

「やったんだな」


 ルイシアの返事を聞き、ルイナ、美波、玖蘭くらんの順に呆れる。

 頼人は知らないが、ルイシアはハッキングなどが得意だったりする。そのため、大体のアクセス先は本部であり、ツインに情報が出回るのも、ほとんどルイシアがネタ元である。


「うへぇ、それぞれを送った奴が相手とか、本部むこうの悪意しか感じ取れないんですけど」


 ルイナが本気で嫌そうな顔をする。


「それで、これだけじゃないんでしょ?」

「ん?」

「私を呼んだ理由」


 美波に言われ、ああ、とルイナは頷く。


「古月さんを呼んだ理由は……本部である事・・・を行ってもらうためなの」

「ある事?」


 首を傾げる頼人、玖蘭、美波の三人に対し、ルイシアはルイナに尋ねる。

 それに対し、ルイナの返答は――


「――――――」


 それを聞いたルイシアが、珍しく厳しい口調で言う。


「なら、なおさら古月さんじゃなくてもいいじゃない。そんなスパイみたいなこと、させる必要ないでしょ」


 ルイシアの言う通り、美波にさせる必要はない。


「別に、急いでるわけでもないから、構わないんだけど、何事にも準備は必要でしょ?」

「ルイナ……」


 そう言うルイナに、ルイシアは悲しそうな顔をする。


「まあ、何だ。今はどこかの誰かさんが仕掛けてきた『持ちかけバトル』に集中しようぜ」

「うっ……」


 ルイナを見ながら言う玖蘭に図星を指され、ルイナは落ち込む。


「それもそうね」

「だな」

「その方がいいかも」


 そんなルイナを気にすることなく、三人は頷く。


「み、味方がいない」


 再度、ルイナが肩を落としたのは言うまでもない。


 そして、『持ちかけバトル』の開始時間は、少しずつ近付いていく。


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