魔術師と配達人 Zero First~未来へと続く、最初の物語 【第一部ーⅠ】
夕闇 夜桜
第一章:これが最初の物語
プロローグ
配達人と魔術師。
手紙等を届ける配達業務を担う配達人と、それを補佐し、危険地帯での護衛を担当する魔術師のことである。
さて、そんな配達人と魔術師には、それぞれ職場及び所属がある。
配達専門組織の一角にある、『配達できる所ならどこまでも』と言ってもいい手紙配達の専門部署であるレターズと、彼らのサポート役――配達人たちの補佐(兼護衛)役である魔術師の養成やバックアップ、様々な情報管理から派遣を行う魔術師協会のことだ。
基本的には、配達人と魔術師という二人一組の組み合わせが主だが、必ずしもそうとは限らず、もちろん例外もある。
そして、これはその例外にして、とある配達人と魔術師姉妹の物語である。
☆★☆
空を見上げ、そっと息を吐く。
与えられた配達業務を終え、そのままレターズへ向かっていれば、そのレターズと魔術師協会双方から通信連絡で新たに舞い込んできた仕事をするために、とある少年が教えられた目的地へ向かっていた。
少年の名はクウリといい、レターズ所属の配達人にして、魔法と魔術も使えるため、単独での配達業務も可能としている、どちらかといえば珍しい配達人である。
「確かこの辺りなんだけど……」
教えられた場所を確認しつつ、クウリは周囲を見渡すのだが、どこを見ても砂砂砂と変わらない景色である。
「……」
はっきり言って、気が遠くなりそうだった。
クウリは改めて内容を確認する。
『魔術師協会に来るはずの者たちがまだ来ていない。人数は二名』
一番近いようだから、君が捜して連れてくるように――……。
はぁ、と溜め息を吐くと、クウリはとりあえず、歩くことにする。
何もしないよりはマシだったから。
☆★☆
数時間後。
「いやー! へんしつしゃー!」
「おじさんこないでー!」
「僕はまだ十三歳だ!」
そう言いながら、クウリは目の前を走る二人の少女を追いかけていた。
では、何故そうなったのか。
それは数時間前に遡る。
砂漠同然なこの地帯を歩いていたクウリは、ふと蠢く何かを見つけた。
「まさかとは思うが……」
近づいて理解する。
あれは人だ。しかも、二人。
連絡と同じである。
そっと影に近づけば、向こうは近づくクウリに気づいたのか、彼を見て逃げ出した。
それを慌ててクウリは追い掛ける。聞きたいことがあるんだ、と言いながら。
それでも、二つの影――少女たちは止まらない。逆に逃げないといけないと思っているからなのか、先程よりも彼女たちのスピードが上がったことで、二人を追いかけていたクウリからしてみれば、彼女たちの足が少しばかり速くなったような気もした。
だが、二人にとって、それが良くなかったらしい。一人の少女が転んだことで、もう一人の少女が慌てながらも早く、と急かす。
転んだ少女には悪いが、これはクウリにしてみれば
そっと近づけば――
「いやー! へんしつしゃー!」
「おじさんこないでー!」
大声で叫ばれた上に、その言葉で思わず固まる。
「僕はまだ十三歳だ!」
まさか、十代前半で『おじさん』と言われるのは予想外である。
思わず反論したクウリだが、少女たちはそこにはおらず、再び鬼ごっこが始まった。
“不審者には付いていかない”。
きっと、二人の両親がそう教えたんだろう。
だが、このままでは埒が明かないので、仕方ない、と思いつつ、クウリは魔法を使い、二人を捕らえることにした。
「“
とりあえず、捕らえてはみたが、はなせー、と暴れる少女に溜め息を吐きつつ、クウリは「これで納得してもらえるかは分からんが」と前置きしつつ、本部から送られてきた連絡指示が表示された文面を先程転んでしまった方の少女に見せる。
「じ、よめない……」
転んだ方の少女は、困ったかのように眉を寄せながらもそう言った。
そんな少女に、暴れていた少女は疲れてきたのか、暴れるのは
「いっちゃダメでしょ?」
「え、ダメだったの?」
転んだ方の少女は戸惑ったように、クウリと睨む少女を交互に見る。
そんな少女を見て、クウリは溜め息を吐き、睨んでいた少女も溜め息を吐いた。
「このひとがわるいひとだったら、どうしたの?」
そう聞かれ、それは、と少女は俯く。
それを見て、警戒心はそのままに、少女はクウリに目を向ける。
「さっき、ききたいことがあるっていってたけど、なんですか?」
冷静になったのか、大人しくなった少女はクウリに尋ねる。
「ああ。君たちは、魔術師協会に向かっていたんだよね?」
「……そうだけど」
少しばかり間があったが、大体予想通りだった。
クウリは、鞄の中からレターズの所属だと示すものを提示する。
彼の場合、戦闘も一人で行うため、身に着けていて落としたり、破損させるわけにはいかないため、失うことのないポケットの中や鞄の中にしまっていた。
「僕はクウリ。レターズ所属の配達人だ。今回は魔術師協会からの依頼により、二人を魔術師協会に連れてくるように要請……頼まれた」
二人の少女は互いに顔を見合わせた。
ちゃんと名乗ったのだから、少しは信じてもらえたか? とやや期待を持ちつつ、クウリは二人の返答を待つ。
「わたしは、マナ。こっちはいもうとのナツ」
マナと名乗った少女は、隣にいた少女――ナツを示しながら、纏めて自己紹介をした(なお、転んだ方の少女はナツである)。
マナの言い方から判断するのなら、二人は姉妹なのだろう。
それに頷いて、クウリは二人の拘束を解けば、二人の名前を覚えるためなのか、一~二回復唱する。
反対に、二人はそんな事をせず、クウリのことを見上げていた。
「それじゃ、魔術師協会に向かいますか」
こうして、三人による魔術師協会までの旅は始まった。
そして、思いの
ただ、この件が
☆★☆
十一年後。
はぁ、と溜め息を吐く。
何故自分はこの場に居るのだと、クウリは問いたくなった。
現在、クウリが居るのは法廷だ。
この場に居る理由を問われれば、十年前――いや、十一年前の出来事が原因である。
『人を荷物扱いするのかしないのか』
この法律の改正は、レターズや魔術師協会としては、とんでもないとばっちりである。
レターズと魔術師協会の言い分としては、クウリは協会が
そんな下手をすれば強行手段に出かねない二つを抑えたのは、審議に掛けられている張本人のクウリだった。
「自分は大丈夫ですから」
そう告げて。
(あの二人、どうしているのやら)
クウリが思い浮かべるのは、あの時別れたままの、自分が魔術師協会へと連れてきた二人の少女。
現在の年齢を考えれば、年頃の娘となっているのだろう。
(せめて、一目だけでもいいから、二人の成長した姿が見たかったなぁ)
何となくそう思った。
あの二人は、クウリから見ても顔立ちは良かった方だから、可愛くなっていたり、美人になっていることだろう。
そんなことを思案していたためか、クウリは気づかなかった。
この法廷の傍聴席に、二人のうちの一人が居たことに――
「な、何だ!?」
その声を聞き、クウリは正気に戻る。
周囲を見れば、何やら煙みたいなものがどこからか出ている。
傍聴席の人々は火事か何かだと思ったのか、慌てて避難を始め、担当の検事や弁護士も避難を始め出す。
「え? ちょっ……」
どうやら放置されたらしい。
依頼人兼この件の重要人物を放置するのはどうなんだ? とも思ったが、それと同時に、あの人たちにとって、金さえ入れば自分|(たち)の件などその程度であり、どうでもいいことなんだ、とクウリは思ってしまった。
そう思っていた矢先、腕が急に引かれた。
クウリの動揺なんか関係ないとばかりに、ぐいぐいと腕が引っ張られ、足も動き出す。
「え、ちょっ……」
「すみません。少し黙っててください」
戸惑いながら声を出せば、若い女の声が返ってきた。
煙で姿は分かりにくいが、声だけで自身の腕を引いているのが女なのだと、クウリは理解した。
何とか外に出て、息を吐けば、彼女の姿を確認する。
女が身に纏うのは魔術師協会の魔術師たちが着ている制服であり、彼女が魔術師協会の魔術師であることは容易に想像できた。
そんな彼女と目が合えば、にっこり微笑まれる。
「お久しぶりです。クウリさん」
何言ってんだ? と言いたげに、クウリは固まった。
「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
自分の名前を知っているのなら、どこかで会ったのだろう。
「はい。だいぶ前ですが」
女は頷くが、クウリにはその記憶がない。
「悪いが、どこで会ったのか教えてもらえないか? 全く分からないんだが」
そんなクウリの言葉に、女は噴き出し、言う。
「やだ、姉さんの言った通りだ」
クウリは姉さん? と首を傾げる。
そもそも、クウリは目の前の女を知らないし、会う云々以前に見た覚えもない。
未だに目の前の女は笑っていたが、疲れたー、という彼女にクウリも苦笑いした。
「本当に分かりませんか?」
女は首を傾げ、改めて尋ねる。
だが、クウリは分からなかった。
先程の発言にあった姉ということは、彼女は妹なのだろう。
「あー……本当に分からないんだ。まあ仕方ないけどさ」
彼女は寂しそうな顔をするが、すぐに表情を変えた。
「じゃあ、行きますか」
「は? どこに?」
クウリが尋ねれば、彼女は言う。
「魔術師協会に、です!」
クウリは目の前の少女に連れられ、考えていた。
姉に妹。
魔術師協会。
そのキーワードで出てくるのは、魔術師協会まで共に旅をしたあの姉妹である。
だが、あの時の姉妹――マナとナツ、目の前の彼女がナツだとして、何故この場所にいるのかという疑問が出てくる。
「あ、姉さん!」
人影が見え、少女がそこに駆け寄っていくので、それにクウリも付いていく。
そこにいたのは、藍色のロングヘアーの少女だった。
少女はクウリを一瞥し、駆け寄ってきた少女に近づく。
「その様子だと、どうやら分からなかったみたいね」
「あはは……でも、次は姉さんだよ」
苦笑いし、少女は言う。
「そうねぇ……まあとりあえず、協会に戻ろうか」
そう言われ、二人の少女は歩き出す。
「ちょ、ちょっと待て」
そんなクウリのストップに、後から来た少女は何? と言いたそうな目を向ける。
「俺は戻れない」
「何言ってるんですか。こっちは貴方を連れてくるように言われてるんです。黙って付いてきてください」
クウリの言葉に、後から来た少女はそう返す。
「でも……」
「私たちを協会に連れてきたくせに、今更気にするんですね」
その言葉が、クウリの中の
「……ああ、やっぱりそうか」
クウリは納得したように呟いた。
「マナとナツか」
「やっと気づいてくれたー!」
クウリの腕を引いていた少女――ナツは嬉しそうに言う。
一方で、後から来た少女――マナはふん、と顔を背けていた。
「仕方ねぇだろ」
ノーヒントで難問にチャレンジするようなものだ、とクウリは思う。
「それでも、ちゃんと気づいてくれたから良かったよー」
ね、姉さん、とナツはマナの顔を見る。
そんな姉妹を見て、クウリは笑みを浮かべた。
(良かった。二人に会えて)
小さく笑みを浮かべるクウリに気づいたマナは、再度顔を背け、歩き出す。
その背中をナツが「待ってよ~」と追い掛け、そんな二人を見ながら、クウリも二人の後を追う。
――出来ることならずっと……
そう思いながら。
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