6
「……はぁ……はぁ……」
暫らくの間、マツリは息を切らして絶句していた。
薄暗く汚れた水路の丸い空洞。そこに息を切らして屈んだメグが、そしてニコニコしているリョウが居て、マツリはただ目を丸くするしかなかった。
「……ゆっくりしてらんねぇ。行くぞ」
息を整えたメグが立ち上がってマツリに靴とパーカーを放り投げ、歩きだす。
「あれーっ、感動の再会の挨拶もなしー?」
リョウは笑ってメグを追いかけた。
「マツリ! 早く来い!」
メグはリョウをシカトしてマツリを呼ぶ。マツリは目を丸くしたまま急いでぶかぶかな靴を履き、メグとリョウを追って駆け出した。まだ足の裏がビリビリしていた。
「大変だったんだよー」
リョウがへらっと笑った。
「小型の爆発物調合してさー。職員っぽい人からパスカードパクるために張ったりさー?」
それをさらりとやってのけてしまう二人に少々疑問を覚えつつも、マツリは二人が苦労をして迎えに来てくれたのだと理解した。
「でも、本当に無事でよかった!」
にこりと笑うリョウの笑顔と金髪が、暗闇でも輝いて見えた。
「……うん。ありがとう、リョウ」
マツリもつられて微笑み、頷いた。
「マツリ」
メグが振り向かないまま声をかける。一刻も早く遠ざかりたいのだろう。小走りで追いつくのがやっとだった。
「あいつ、誰だ?」
「え……?」
「俺の後ろから来たやつ」
「ドリー……」
そういえば、なぜドリーはあの場所に来たのだろう。どこからともなく来て、そして……。
「化け物……、あの男を食ってたな」
「あ、違うの、ドリーは……」
一瞬、メグの表情が曇ったように見えて、マツリは慌てて駆け寄った。
「ドリーは記憶とか、知識を喰べる化け物が頭にいて……」
「……は?」
メグは立ち止まって、マツリをじっと見た。
「新種のブラックカルテで……知りたいと思った事を、根こそぎ食べちゃうんだって、言ってたよ」
「なんで知ってんだよお前」
「本人に聞いた」
呆れる。あの場所で友達作ってたのか、こいつ。
「……じゃあ、あの時喰ったのは」
「多分、あの時メグの正体を知りたがってたから、侵入者の存在の記憶だと思う」
「……そりゃ、助かったな」
メグは少しだけほっとたような顔をして、再び歩き出した。リョウは何の事だかわからず、首を傾げながら黙って二人についていく。
「あいつ以外に、俺は誰にも見られてねぇからな。カメラがある所は布を被って顔が映らねぇようにしたつもりだ。あいつが俺という侵入者の事を根こそぎ忘れたってんなら、好都合このうえねぇや」
「……うん」
マツリは頷きつつ、ドリーのことを気にしていた。
あの時、後ろのほうで誰かの――おそらく河口の、倒れる音がした。それからドリーが自分を呼んだ気がした。
――ドリーはどうなったんだろう。河口さんは怪我をしていないだろうか?
「とりあえずは此処から逃げるぞ。足がつかねぇように身を隠す」
どうすればいいのか皆目見当もつかなかったけれど、メグがまっすぐ前を向いて迷いなくそう言うので、マツリはコクリと頷いた。
「うん……」
そんな二人を見て、リョウはにっこりと笑って「うんうん」と頷いた。
「しかし……、あまりにも上手くいったな」
あっさりと。国光らしくない。
「……今日は、時雨さんも、松田さんも、いなかったから」
「…………」
メグは考え込んだのか、何も答えず、まっすぐ前を睨んで歩みを速めた。マツリは頭を傾いだが、ふとあることに気づいた。
「……あれ。ねぇ、椎名先生は?」
椎名がいない理由を聞かされながら、マツリ達は相当長いこと歩いて自分たちの街へと戻ってきた。
その頃には日が暮れて、もうどっぷりと夜は更けていた。
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