カフェテリアスペースにて。金髪の男はコーヒーを片手に、恐ろしいものでも見るような顔で固まった。

「久しぶりですね」

「……松田……さん」

 驚いた顔のまま、男の名を呼ぶ。その男、松田がくすっと笑って椎名の横の席に座ると、椎名は小さくため息を吐いた。

「……やっぱりあんたが絡んでたんですか」

「えぇ。ブラックカルテ関連の実験用システムの開発は、僕が責任者ですからね、一応」

 椎名は警戒した眼で松田を小さく睨んだ。

「その後どうですか、浅葱アサギ君」

 松田が微笑んで言うと、椎名はぴくりと肩を揺らした。そして低い声で唸る。

「……その名前で呼ぶな」

「あ……ごめんなさい。つい」

 椎名はぎゅうっと拳を握りしめ、顔を歪めた。

「で、どうですか?」

「……変わりはありませんよ。あなたの手術ですからね。崩れたりとか……起こり得ませんよ」

「それは分かりませんよ。僕は整形外科は専門じゃなかったし」

 松田は笑った。椎名もふっと笑った。自虐的に。

「……あれは、トラウマになって当然な事件だった」

 松田が悲しげな笑みを浮かべ、俯く。

「今でも、すべてが怖いですか」

「……俺にとっては、あなたが一番怖いよ」

 椎名が苦々しい顔で告げると、松田は「ふふ」と笑った。

「何が可笑しいんですか」

 椎名はむっとして松田を睨んだ。

「いや、僕ね、妹が居るんですよ」

 松田は可笑しそうに笑った。

「その子は小さい頃から、何にも恐れなくてね。君にあの子の肝をちょっと分けてあげたいです」

「……妹とは、初耳ですね」

 椎名もふっと微笑んだ。あんまり松田が嬉しそうに話すから。しかし彼はどういう訳か、すぐに悲しげに目を伏せてしまった。

「さ、そろそろサンプルのはいに変化が出ますね。行きましょう」

「……はい」

 松田のその物憂げな顔が、しばらくの間、椎名の頭から離れなかった。

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