3
手を繋いで、眠りにつきたい。
優しいおでこにふれたい。
さらさらの髪にふれたい。
愛しいって、伝えたい。
「メグ……」
「……!」
河口は立ち上がった。マツリが目を開けたのだ。
「…………。此処は」
意識を取り戻し、腕にくっついている点滴の針と自分のベッドを見て、マツリは少し考え込んだ。たしか、またあの記憶を掘り下げる機械に結ばれていたはずだったのに。
「今、……メグと言ったか?」
河口が眉間にしわを寄せてそう呟くと、マツリははっと起き上がり、彼を見つめた。
「あ……あの、私」
「……脱水症状一歩手前だったそうだ」
「え?」
「数値はほぼ無反応のくせに、分かりにくい奴だな」
ため息を交えて、「ほら」と水を手渡す。
「あ、ありがとうございます。あの……」
「河口だ」
「河口さん」
「……はー」
ため息。
――なんっつうまっすぐな目で見るか、この女。
本当に調子が狂う。
「……信じらんねぇな。こんなんが二人もいんのか」
「へ?」
「いや」
「あっ……! か、河口さん!! 今! ……何時ですか!?」
マツリは慌てた、部屋には時計がなく時間が読めなかったからだ。
「あ? あぁ……。今四時半くらいかな」
「……四時半」
「?」
マツリは少しだけ考えて、心配そうに河口を見上げる。
「……もう一度」
「?」
「あの検査。今日やりますか……?」
じっと見つめられ、河口はたじろいだ。
「や、だってお前。お前の記憶は……」
――
つい本音を漏らしそうになって、止めた。マツリはそんな風に黙った河口に首を傾げる。
「河口さん」
「あ?」
「今までの検査で、その……私のことを
河口はきゅっと、無意識に唇を噛んだ。
「私……異常ですか?」
そして、何も言えなかった。
正直、「異常だ」と思っていた。だが、マツリのことをどうしてもブラックカルテだとは思えなかった。
なにか別の。もっとなにか別の異常を、彼女は抱えている。
それは、これまでのブラックカルテから感じられる
「…………」
時雨に続くこの回答に、心臓がぎゅっと軋んで、マツリは俯いてしまった。
「今日は松田さんが居ない」
「え?」
河口の言葉に顔を上げる。
「何かあれば、俺を呼べ。今日は
ガタンと椅子を鳴らし、河口は立ち上がった。マツリはそんな河口を不思議そうに見つめた。
「……なんだよ」
その視線に眉を寄せる。
「……や。思ってたより、優しいから」
「は!?」
――あ、やっぱ怖いかも。
「いえ、ありがとうございます……」
「……よく寝ておけ。明日また検査の続きだ」
それだけ言って、河口は出ていった。そんな彼を見て、「なんだかあの人、メグに似てる」と、マツリはぼんやり思った。
窓を見ると、月が夕空に白く浮んでいた。
――メグは本当に来るんだろうか。
変な
「……苦しい」
呟く。電気もついていない部屋の中。沈む太陽を見送って、どんどん暗闇を迎えていく。月はまだ輝かない。星はまだ浮ばない。
強烈に、メグに会いたいと思った。
だけど、来てほしくないとも思った。
だって、どうせ、捨て身で来る。
楓が死んだ日も、敵わないと分かっていながらメグは楓に向かっていった。
血が出ても、化け物に向かっていった。
――私は、それが怖い。
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