5
――あと三日で、約束の日が来る。
「……そう、出るか」
保険医は呟いた。夏休みの保健室。新聞のこすれる音が鳴る。
「なぁ、メグ」
「…………んだよ」
ソファでだらしなく横になったまま、メグが顔を上げる。
椎名の所にいるほうが、マツリの情報を最速でキャッチできると思っているのだろう。彼は夏休みにもかかわらず、わざわざ制服を着て学校へ来ていた。
「毎日学校に来るようになったもんだなぁ……」
椎名は茶化すように、感心してみせた。
「別にいいだろ」
小さな舌打ちで返す。
「高橋さんもこの間、
「部活で学校に来てるんだろ。俺は、会わねぇよ」
「………そうか」
メグはいづみに会うのを避けていた。顔を合わせるのが怖かったからだ。椎名はそれを悟って小さく息をついた。
「それはそうと。マツリ、うまいこと使われてるぜ」
椎名の言葉に、メグは怪訝な顔をしてソファから起き上がる。
「なんだ?」
新聞がメグに渡される。しばしの沈黙。眉間に刻まれるしわ。
「おもしろいだろ」
「おもしろくねぇ」
メグはあからさまに嫌悪した。
「なにが行方不明だ、くそったれ」
その記事に書かれていたのは、見事な嘘だった。――
「父親なら、マツリを助けようとするってか……」
「そう、いうつもりなんだろうね」
沈黙。
「アイツが……」
メグがぽつりと呟いた。
「ん……?」
「いや、なんでもねぇ……」
言葉を切ったメグの横顔を見て、椎名はふっと息をついた。
「まったく、腐りかけた世界だ」
***
「なーにこれ」
校庭脇にある水飲み場の
「ね」
「……ッ」
少女は呼吸を整えるだけで、言葉にならないようだった。
「あーんまり無茶しちゃダメだよ。いづみ」
「……っなに……?」
いづみがようやっと顔を上げる。随分前に陸上部の部活は終わっていたが、彼女はまだ着替えも済ませていなかった。どうやらずっと自主トレをしていたようだ。
「マツリ、行方不明になったらしいよー」
「……えぇ!?」
いづみは思わず大声で驚いた。
「ま、嘘だろうけどね」
リョウが携帯に映し出された新聞記事をいづみに見せると、いづみは眉間にしわを寄せて黙り込んだ。
「そろそろ冷えるよ、着替えてきなよぉ」
リョウがそう言うと、いづみは無言でブンブン頭を振る。
「今、走るのやめたら……、私、きっと正気でいられない……!」
まだ走るつもりですか。リョウはいっそ
「あのさ。なにがあったの……とか。聞かない方が良さそうだよね?」
いづみは答えなかった。だからリョウも、それ以上何も聞かなかった。
「でもこれ、おかしいよね」
リョウが再び記事を見る。
「マツリを餌に……何か探してる。みたいな」
「…………」
いづみはタオルを顔に押し当てた。心当たりがある。マツリのお父さんだ。
あの場所の記憶に脳を支配され、いづみは無意識に奥歯を噛みしめた。
トラウマとも呼べる抗えぬ恐怖や、目を逸らして逃げてしまった
「……うーん」
黙って縮こまってしまった彼女を見て、リョウはあることを心に決めた。
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