3
月曜日が来ると、いつもの日常がそこにあった。
「マツリおはよー!」
校門にて、いづみがマツリの背中を見つけて駆け寄る。
「あ、おはよう。今日は
マツリは物珍しげにいづみを見た。同じ時間帯に校門で会うなんて、実はかなり珍しいことなのだ。
「……なんか、マツリちょっと違うー」
「え?」
「うーん。なんか、変わった?」
突然、覗き込むようにしていづみがマツリの顔をじっと見つめた。
「……うん、少し、変わったかな」
マツリは肯定すると、柔らかく笑った。
「うん。良い方に変わったね」
そんなマツリの穏やかな笑顔に安心し、いづみも顔を
「明日体育水泳だよ、早いよねー。めっちゃ嫌」
「うん」
二人が
「あれ、マツリじゃん」
声を掛けられ振り向くと、そこにいたのはリョウだった。
「リョウ。おはよう」
マツリが駆け寄る。
「おはよー。……あれから謝った?」
「え」
「ほら、前なんか言ってたでしょー」
「あ……。うん。その件は、ちゃんと」
「良かった。あれから見なかったから、どうなったかなって思ってたんだ」
ふふっと笑った彼女の可愛い顔に、金に近い茶髪が透けていて綺麗だった。美人だ。
「マツリ」
マツリの後ろにいたいづみが恐る恐る声をかける。マツリはいづみにリョウを紹介しようと向き直った。
「あ、いづみ。この子……」
「知ってる」
「え……?」
「ん?」
言葉を遮ったいづみにマツリは首を傾げ、リョウも不思議そうな顔をした。
「や……私、いづみ。高橋 いづみ。マツリのクラスメイトです」
「はじめましてっ! 私、
いづみは堅い表情で「はじめまして」と返した。
「もしかして昼休み一緒にご飯食べてる友達?」
「……う、うん」
マツリがどもる。だって消えない。いづみの警戒心が、全然消えない。
「じゃ、今度、昼飯一緒に食べよっ。じゃあね!」
そう言ってリョウが鮮やかに去った時、マツリはなんとなくほっとした。そしていづみを見つめる。
「……いづみ?」
「マツリ。リョウと友達なの?」
いづみがリョウを見送りながら問う。
「うん」
即答だ。
「はぁ……」
「なにかあるの?」
「いーえ。マツリの周りってはぐれものが集まってくるね」
「……はぐれ……?」
「長谷川 寥っていったら超有名人だよー。中学の時すっごい不良だったって話。私の中学でも話題になったくらいだもん」
「……へぇ」
意外だ。そうは見えない。
「で、この学校入ったけど、メグに次ぐ授業欠席率」
「……あ、それは知ってる」
「不良だよー怖くないのー?」
それメグの時にも言われたな。とマツリは思い返す。
「うん。普通。あ、でも、怖い物がないって感じはするかな」
「うーん、掴み所がない子らしいからね」
「いい子だよ」
「……ま、マツリが言うんだから、……いや、どうなんだろ」
メグの前例があるからな。といづみは思い直した。まぁ、メグも案外普通の男の子だったけれど。
「じゃ。今度ちゃんと紹介してよ」
「うん」
マツリは微笑んで頷いた。
***
昼休み。いつもの非常階段で、マツリとリョウといづみは一緒に昼食を取ることになった。
「えっ、まじでっ!」
「そうそう」
「うっわー。許せないなぁそれー」
「サボってると結構いろいろ知れちゃうよ」
「や、そこはちゃんと授業出なよ」
たったの数分で、いづみとリョウはすっかり馴染んでしまった。マツリの心配など
いづみは初めどんな印象を持っていたとしても、自分の目と耳と手で感じたものからきちんと物事を判断する。流されたりしない、間違っていることは違うと言える、けれど柔軟に意見を変えることを
「でも、サボっててもメグのことはあんまり知らなかったよね」
マツリが問う。同じサボリ魔同士なのに、不思議だった。
「うーん。噂は聞いたことあったけど。私、屋上は基本行かないからねー。焼けるじゃん」
「え、じゃあどこにいるの?」
いづみが小首を傾げると、リョウはにんまりと笑った。
「体育館裏」
「……あそこ」
「そ」
マツリが納得した。なるほど。確かにあそこにはめったに人は来ないだろう。
「メグってマツリの彼氏なんだっけ?」
リョウのその言葉で一瞬空気が固まった。いづみもちらりとマツリを見る。正解を知らないからだ。
「……それはない」
マツリがストローを
「え、そうなの? じゃあどういう関係?」
マツリは黙りこんだ。そんなマツリを二人がじっと見る。
「なんだろ、秘密の共有者……?」
「はあ?」
二人の声が綺麗にダブった。
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