正常化された便利さだから
シンエンさま
正常化された便利さだから
あっという間だった。
明日になった。
夜は目を開く度
一瞬だった。
通勤か通学か
明日になったら、便利な自転車に乗ろう。
ありふれたコンビニで便利な飯を食い、
ありふれた生き様を地下鉄で過ごす。
なぜなら、便利だから。
気が付くと、列車を逃した、
気が付くと、列車を待たなければならなかった。
なぜなら、人が多かったから、
人が多かったのは、
交通が便利だから。
飯か飲み物か
明日になったら、飯を食おう。
ありふれた店で買った物で飯を作り、
ありふれた生き様を台所で過ごす。
なぜなら、便利だから。
気が付けば、ジュースを先に飲んだ。
気が付けば、ジュースで飯を食う気分がなくなった。
なぜなら、ジュースの期限が切れそうだった。
飯が食えなくなったのは、
ジュースが便利だからだ。
平凡な道を歩み、平凡な日常、
僕の目は、面倒という物を見ることが、
なぜか、難しかった。
普通のことで、普通の人生が続くと、
「普通」に見えて、「普通」じゃなかった。
誰かが面倒を見てくれた。
誰かが飯を便利にするために時間をかけた。
機械を作り、機械の研究に執念を入れた人の時間を
僕は金で買っただけだった。
そして、今という「便利」な時代に、
あの知識の成果を、僕は呑んだ。
誰かが面倒を見てくれた。
誰かが攻略を作るために時間をかけた。
作品を読み、次代の作者がよりインパクトある物を生み出すために、
自分の時間を犠牲にして、
僕は金で買っただけだった。
そして、今という「便利」な時代に、
あの知識の成果を、僕は呑んだ。
だが、考えよう。
同じ事をして成功する人間もいれば、
失敗した人間もいるんだ。
同じ事をして苦労はちゃんと気づかれたわけじゃ
決してないんだ。
そんな抑えられた苦情が、
なぜか受け側が「失敗」と読み取った。
なぜなら、身を囲む物は
正常化された便利さだから。
たとえば、
「もっと簡潔に書け」という発言に、
「僕は長く面倒な文章を読む我慢力を失った」が隠されている。
たとえば、
「このから揚げが美味しくない」という発言に、
「僕はから揚げを上手く作る方法と苦労を知らない」が隠されている。
そんな便利な「簡潔文章」に慣れたから、
書く能力の弱い作者の力になってあげることができなくなった。
そんな便利な「旨い唐揚げ」に慣れたから、
「ありがとう」より先に「旨いを作るのは当然じゃないか」って
思ってしまう。
そうそう、この時代が便利だから、それが当然だって、
そうそう、この時代が便利だから、それが標準化されるんだって、
そう思ってしまうのか。
この時代は、
便利に見えて、
束縛が隠されている。
時間が多くなったって、
心が小さくなった。
まるで鳥の翼を束縛する糸を切り、
だが足を束縛するかのような物なんだ。
読解力が上がっても、
我慢力は上がることが一度もなく
下がっていってしまったんじゃないか。
この時代は、
便利に見えて、
束縛が隠されている。
束縛するのは、
人がより心より優しい人間になることだ。
優しさを、愛を学ぶのは、
「わざと難しい事にぶつける」を学ぶのと
同じことなんだ。
自分と関係ない人間か、自分の嫌いな人間に
優しくする事には、その人を愛することには、
やる事が多いんだ、面倒だと思ってしまうことも多いんだ。
だが、
それが面倒なのに、笑顔で過ごして、
その真ん中に立って成果を出すまで
一緒に我慢する事こそが、
愛の証拠になるんだ、優しさの証拠になるんだ。
この時代は、
便利に見えて、
束縛が隠されている。
「何々が面倒だから、なぜやらないといけないの」って
「何々が面倒だから、別のより簡単な方法に変えよう」って
大事な人に、大事なことにだけでなく、
普通の人にも、嫌いな人にも
普通の事にも、嫌いな事にも
「面倒だからやってみる」という薬がある。
そんな事が言えるのなら、
この便利な時代から抜け出して、
次代の新しい世界が
作れるだろう。
正常化された便利から、
決して後悔することのない
「面倒だからやってみる」世界に
この世界はなればよいのだ。
正常化された便利さだから シンエンさま @shinennsama
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