Episode47 ~愚か者~
予選は2つのグループに分かれてトーナメント形式で行う。
5組で分けると必ず一組は不戦勝になるので、その枠はそのグループの1番成績が高いペアが割り振られる。
トーナメントというが、10組のペアを5組ずつ分けるので、僅か3戦すれば本戦出場の権利を得れる事になる。
必然的に総合成績1位、2位の人のペアが別グループになり、カイは何とかアンリと同じグループになることは無かった。
トーナメント初戦、2戦目をカイ達は突破。そして不戦勝で決勝枠となったペアが立ちふさがった──。
『各ペアはステージに立って下さい』
何処からともなく聞こえてくる講師の声を聞いて、カイとノアは壇上に上がった。
100メルトという素朴なステージの先には、不戦勝枠で実質これが初戦になるペア。しかし侮るなかれ。その枠を勝ち取れるということは、総合成績2位以上のペアという事だ。
右側に佇む女性がその総合成績2位のエリーシャ・ストランタ。
腰まで伸びる黒色の艶やかな長髪は、シルエットだけならアンリを想起させるが、まとう雰囲気は全くの別物だ。
まるで獣のような鋭い瞳で睨まれ、隣のノアが一瞬萎縮するのが分かった。
ストランタ家とリーネット家は犬猿の仲だ。
どちらも魔術を開拓した最古参だが、歴史的にストランタ家はリーネット家より成果をあげれず『二番手』というレッテルを貼られ続けている。
しかも総合成績ではいつもアンリに一位を譲る形になっており、レッテル通りになってしまっているのは可哀想ではある。
あの小さな肩にはストランタ家の歴史が乗っかってるいるのだ。
彼女にとって、この大会で優勝する意味が大きいのは言うまでもない。
その隣にいる逆立った髪の少年は、ガン・ドライク。こちらは総合成績が高いわけではないが、別の意味で有名な生徒だ。
彼は拳術の使い手で、魔術を拳に宿して戦う戦闘スタイルを持つ。その威力、速度ともに強力で模擬戦無敗の実力者だった。
だった──というのは、最近その無敗記録が破られたからだ。破ったのは今まさに隣にいるエリーシャ本人。お互いに実力を認め合ってペアを組んだというのが結成理由らしい。
いうまでもなく強敵。まだアンリのペアと当たらなかったのは幸運だったが、ここで敗退したら意味がない。
「ノア。俺がエリーシャを倒す。お前はガンの牽制を頼む」
カイの指示に隣のノアが力強く頷いた。
──作戦は当たって単純。相手の弱点を突くことだ。
魔術のエリーシャは近距離戦が弱く、逆にガンは遠距離戦に弱い。
カイとて、戦闘経験が少ないノアにガンの相手はさせたくないのが本音ではある。
しかし今の自分がガンに勝てるかと言われれば、情けないが勝てる気がしないのだ。相手は百戦錬磨の実力者、対しカイは得意分野の生成術が使えない状態。
圧倒的にこちらが不利なのは言うまでもないし、ならば速球でエリーシャを倒し、後からノアの加勢に行くほうが現実的だ。
『それではルールの再確認を。
勝利条件は敵チームを全員倒すこと。選手全員には講師から
『えー、退場した選手は速やかに武舞台から降り、その際の魔術的な介入は禁止とします。それでは各選手10秒の準備時間をもって開始としてます』
決闘の際には始まる前に10秒の準備期間を用いるのがルールだ。
この時間に魔術のストックを用意したり、精神統一をしたりする。この10秒間でどれほどストックを貯めれるかが、魔術の決闘では重要視される。
正面に佇むエリーシャ&ガン、隣のノアも呪文を紡いでいるなか、カイは腰にさげた剣を抜いた。
──普通の魔術師はこの時間を死ぬほど大事にするだろうが、あいにく自分はただ剣を抜き、簡単な
カイは確かな重みを感じる長剣を握りしめ、エリーシャを見据えて正面に構える。
最速最短距離でエリーシャに近づく。数発の
彼女を場外させて、二対一に持ち込めれば──勝機はある。
「それでは魔術決戦トーナメント予選Aグループ決勝戦……初め!」
その合図と同時にカイは地を蹴った。
エリーシャを一直線上に駆ける。接近まであと4秒。
──3秒。
エリーシャが腕を持ち上げる。関係ない。
──2秒。
彼女の手のひらがカイを捉える。関係ない。
──1秒。
身体を仰け反り剣を振り上げ、今まさに振りかぶらんとした瞬間だった。
「《
エリーシャの声が響いた。ストックしておいた魔術を起動したのだ。だが対象はカイではなく、《地面》だった。
エリーシャの手のひらに生成された何かを地面に叩きつけると、怒涛の煙幕がカイを飲み込んだ。煙幕は隣にいたガンを飲み込み、後ろからノアの悲鳴が聞こえた。
これではノアが牽制できない。だが──!
なおも関係ないと、カイは更に速度を上げた。見えないのは相手も同じこと。例え見えなくても敵の位置は記憶している。
──場外は無理かもしれない。だが、そのアーマー体力半分は持っていく!
カイが数瞬前にエリーシャが居た位置に、剣を振りかぶる。
しかし。
ガイイン! と、カイの渾身の一撃は何者かに寄って阻まれた。
刀身を拳で受けとめるその姿。不敵な笑みを浮かべたその顔は、ガンだった。
──こいつ見えるのか!?
咄嗟に距離を取ろうと地面を蹴ったと同時。左脇腹から凄まじい衝撃が襲った。
蹴られた。と頭で判断する頃には身体は宙に浮いていた。
カイは瞬時に右手に持っていた剣を左手に移動させ、空いた手を目一杯地面に伸ばした。
手のひらに地面の感覚がしたと同時に身体をひねる。そのまま両足を地面に擦り付けながら着地すると、即座に辺りを見渡した。
「クソ……! ノアは……!?」
しかし辺りは暗闇。何とか場外は避けられたが、この状態でガンが自由に移動できるのは不味すぎる。
カイが魔力を集中させ、暗視の魔術を唱えようとした──その時。
「《
再びエリーシャの声が武舞台に響く。
そして煙幕が晴れると同時に衝撃的なことが起きた。
武舞台の端から端まで灼熱の障壁が屹立していた。それはまるで武舞台を二分割するように伸びていて、離れているカイでも凄まじい温度だと分かる。
「これは……まさか……」
「オメェらはあいつの策に溺れたってわけだ」
声がした右斜め前方に顔を向けると、そこには障壁を満足そうに見上げるガンの姿。そこでやっとカイは今の状況が理解できた。
ガンがこちら側にいるということは、あの障壁の反対側にはノアとエリーシャが相対しているという事だろう。カイ達は今考えうる限り最悪な展開に陥ってしまったのだ、と。
「最初からこれが狙いだったのか……」
「いや? オレはあいつの考えること分かんねぇからよ。ただ暗視の魔術かけとけって言われただけだぜ。ま、オレはオメェと戦いたかったから結果オーライってやつだ」
なるほど、とカイは立ち上がるながら思う。
──つまる所、自分も心の何処かで踊らされていたのだ。エリーシャ・ストランタの『二番手』というレッテルに。
アンリより劣ると考えるのではなく、アンリと同等の実力者であると認識するべきだった。さっきの作戦などアンリには通用しないと断言できる。だからこそ、彼女には通じると思ってしまっていた。
アンリと側で戦う機会が多かった所為で、勝手にエリーシャの実力を推し量り決めつけていた。それが間違いだったのだ。
事実こうして、相手の策に溺れてしまっているのだから。
「これは……俺の失態だ」
「早くやろうぜ?
「戦いを楽しむつもりはない。さっさとカタをつけて、ノアの援護に行かせて貰う」
カイが剣を構える。対し、ガンが拳を構える。
「「ハアアアアア──ッ!」」
武舞台の片側で、眩い閃光と共に剣と拳が衝突した──。
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