花咲かぬ国7

 英雄達の統率者。その言葉に、セイルは自分の持つ能力の事を思う。

 英雄達、そして英雄王……統率者。

 それらの言葉の意味するものを、セイルは知っている。

 だが、それは。


「……精霊は一体何を知っている」

「貴方から感じる魔力の流れを。貴方と一心同体であるソレからは、世界に繋がる力を感じます」


 間違いない。精霊は、カオスゲートの存在を感知している。

 恐らくはシングラティオにも露見していなかったであろうカオスゲートを……この大陸に来てからはほとんど触れてもいなかったものをだ。

 それが精霊が精霊たる理由なのか……それとも。


「おいおい、そろそろいいんじゃねえか?」

「何?」

「お前じゃねえよ、セイル。そこの精霊に言ってんだよ」


 突然のシングラティオの言葉に、精霊は僅かに揺らぐだけ。

 だが、シングラティオは気にした様子もない。


「もうバレてんだよ、精霊王ノージェング。よく分からねえがセイルの秘密を探ったんだろ? そんな事が出来るのがテメエ以外にいるわけねえだろ」

「そう、ですか」


 その言葉と同時に、精霊の姿が爆散する。

 いや、違う。爆発したように感じたのは解放された魔力。

 散ったのではなく、巨大に膨れ上がっただけ。

 一瞬の衝撃の後、セイル達の頭上には今までいたモノとは全く違う……巨大な精霊が浮かんでいた。


「これ、は!」

「え、なんです……ひえええ!?」


 起きたコトリがカサカサとウルザの背後に隠れ、そのウルザも巨大精霊のあまりの存在感に気おされている。

 そして、それはアミルも同様だ。目の前の巨大精霊には……それだけの力が感じられた。


「名乗りましょう。私は精霊の英雄にして精霊王、ノージェング。人間の英雄セイル、私は貴方に求めます」

「何を、だ。俺が貴方に出せるものなど、早々あるとは思えないが」

「力を見せなさい。人間が、このグレートウォールより解放された世界で生きていけるという証を示しなさい。侮りがたき1つの種族であると刻みなさい。あの長き時には意味があったのだと、無駄ではなかったのだと……そうあるべきものだったのだと証明しなさい。それが出来るのであれば」


 そこでノージェングは言葉を止め、セイルを見下ろす。

 全てを覗き込まれているかのような視線を、セイルは正面から真っすぐ受け止める。


「……出来るので、あれば。私は、再び信じてみましょう。生に希望はあるのだと。私達も、この世界で新たな何かを見つけ出せるのだと」

「俺達が力を示す事で、それが出来ると?」

「出来ないと思っていた人間にできたのです。私達精霊が出来ずにどうします」


 それは、一種の見下しではあるのかもしれない。

 ……だがそれも、グレートウォールの庇護の下で腐っていた人間には順当な評価ではあるのだろう。


「蟲人に、勝てばいいんだな」

「その通りです」

「いいだろう」

「セイル様!?」


 あっさりと受けたセイルに、アミルが驚きの声をあげる。

 当然だ。シングラティオを戦力にいれたとしても……この場にいるのはセイル、アミル、ウルザ、コトリを合わせ5人。ナンナは当然戦力外だ。

 そんな状態でどうやって蟲人の国を相手取れというのだろうか?


「国1つを相手にする必要はないさ」

「え?」

「……来てるんだろう? この国の外に」

「ええ。今は偵察隊が。そして、蟲人の英雄を含む追撃隊がこの国に向かって来ています」


 なるほど、つまり……それを迎撃すれば、全てが解決する。

 何も全滅させる必要はない。

 セイルが蟲人の英雄を倒せば、それで黒の月神の影響はある程度どうにかなるはずだ。

 勿論、全員に念入りに黒の月神の影響があるというならばその限りではないが……。


「俺が蟲人の英雄を倒せばいい。つまりはそういうことだ」

「だとしても!」

「そうよ。暗殺するにも難しいわ。真正面からどうしようっていうの?」

「ど、どうするんですかセイル様!?」


 アミルもウルザも、コトリもどちらかというと否定的な態度だ。

 当然だ。たった5人で1つの種族の軍隊に立ち向かう。

 正気の沙汰ではない。数は常に力であり、それを覆す事は難しい。

 たとえその種族の英雄がいようと、変わらない事実だ。


 だが、セイルには他の英雄にはないものがある。

 恐らくはこの世界においてセイルのみが持つ、唯一無二の能力。

 圧倒的不利をも覆す可能性を秘めた、これまでのセイルを支えて来たもの。

 志藤 健を殺し、セイルを生かしてきたもの。


「……忘れたか。俺にはカオスゲートが……ガチャが、ある」


 レアガチャではない。そんなに強い能力ではない。

 ノーマルガチャ。かつての世界では、誰もがその存在を半分以上忘れているもの。

 だが、セイルは忘れはしない。

 このガチャが、全てを繋いできた。

 だからこそ今……この大陸で初めての、そして恐らくはこの大陸で最後の連続ガチャの決意を固める。


「見ていろノージェング、シングラティオ。これが人間の英雄の持つ力……絆を繋ぐ力だ!」

「あ、ま、待ってくださいセイル様!」

「……なんだアミル。今盛り上がったところなんだが」

「その、あの。手加減してくださいね? 国庫が……」

「世界の命運の前では些細なことだ」

「セイル様ぁ!?」


 完全にリミッターの振り切れたセイルの手が、10連ガチャを開始する……!

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