オーバーワールド
小山 飯喰
episode1.ウイッシュ=願い
_OVER WORLD 世界の支配者_
時は常に生命が静まる夜にして、象徴である月明りさえも黒き鈍重な雲に覆われ見えず、辺り一体を蝕む常闇と芯まで凍る冷気がところ狭しと存在する広大な世界。
そこにあるのは楽園か?…否、そこにあるのは絶望、抗えない絶対的な死、数多の異形を従える大魔王が住む生命不可侵な地。
そこはヘルヘイム、そこはナザリック。
嘗て1500人と言う人数の冒険者プレイヤー達を葬ると言う伝説を打ち立てた土地。
但し、今そこにあるのは崩れ堕ちた大墳墓と、冒険者プレイヤー達を新たな世界へ誘う扉のみである。
「と、こんな感じで行きたいんですが?」
モモンガが答える。
「う~ん、良いんじゃないですかね?」
とは言うものの疑問系なのでそこら辺は良くわからないのだろう。人間種の者が苦笑した声をだす。
「わかりましたぁ、ではこれをどうぞ」
サッと差し渡されたのは、虹色に光輝く細かい装飾が成されたチケットだ。
「これは?」
「あっ、説明を見てもらえればわかると思うので…そろそろ時間ですね。ではまた後日伺います。」
「あっ、はい」
ピコンと笑顔のマークをしたエモーションが浮かび上がると姿がかききえる。
「ふぅ、それにしても凄い事になったのぅ…」
このギルドで最高齢の死獣天朱雀がぼやく。
「…本当ですね。まさか私たちがプレイヤーとしてではなく運営する側としてプレイする事になるとは…」
「世界を一つ作るとなると…なんと言うか感慨深いですね…てか、ユグドラシル史上後にも先にも恐らく最大のイベントになるって言ってましたがプレイヤーに任せて良いものなのでしょうか?」
「…いや、頭の可笑しいと有名なユグドラシルの運営だぞ?」
「ふぅ、そうじゃよあの運営じゃぞ?」
「…ですよねー」
ふとモモンガが虹色のチケットを見て呟く。
「創造主の証?…」
その言葉にピクッと反応したヘロヘロがモモンガに説明を要求する。
「創造主の証…ですか?何か書いてあります?…できればテキストを読み上げて欲しいのですが」
「あぁ…すみません今読み上げます…えー『使用者とそのギルドに世界を創造する権利を与えるか世界級≪ワールド≫アイテム…枯れたユグドラシルは一つの苗を生み出した。新たな驚異をその世界内に納めるために。或いは…己の死期を察してか…一人の超越者に苗を託した』…だそうです、なんと言うかタブラさんが好きそうな設定ですね…ん?」
「ふぅ、そうじゃな…む、どうした?ギルド長…」
モモンガから返答は無い。
「モモンガさん?」
「…あっ、すみません今少しばかりヤバイものを手にいれてしまって」
「ふぅ、…それは一体どのような?儂らは20の効能を知っているからに少しのことでは動揺せぬぞ?」
「そうですよ…いや、もしかして先程運営の方が述べていた創世≪ジェネシス≫アイテムですか?」
モモンガは少し気の抜けた声で返す。
「はぃ…いや、これ本当にゲームバランスの崩壊を招きかねないですよ…創世級≪ジェネシス≫アイテムは奪われては駄目のようです」
そう自嘲気味に言いモモンガは手に入れた創世級≪ジェネシス≫アイテムを見せる。「ゴクッ」と唾を飲み込む音が辺りから聞こえる。それは自分か否かモモンガは気にする余裕も無かった。…モモンガが取り出したのは未だ小さい苗である。何処か見窄らしいその苗はゲームの中だと言うのに、凄まじく莫大な力を体全身に感じた。
「…では先程と同じ様にテキストを読み上げます。『ユグドラシルの苗、とある超越者にユグドラシルの木自信が託した希望≪ゼツボウ≫その苗はやがてユグドラシルとなりうるのだろうか?それは超越者自らの手にかかっているだろう。成長した苗は幼木になる頃から葉をつけ始める。ユグドラシルの幼木の分れ枝は素材として扱う事も可能だが、ユグドラシルの後継者以外に扱うことは不可能であろう』…だそうです」
沈黙、それのみが今この場を支配している。
幾ら死の支配者とて、こうなることは…沈黙の支配者になると言うことは承知であろう…なぜなら、
「成長したら世界級≪ワールド≫アイテムが取り放題ですね…はは…」
「ふぅ、…まぁーた運営がヤラカシおってからに」
…そう、彼らは世界級≪ワールド≫アイテムの強大さ、バランス崩壊っぷりを理解しているからこそこのように狼狽えているのである。
「…ま、まぁ、とりあえず今いるメンバー達に報告しておきましょうか」
__時刻11時32分円卓ラウンドテーブルにて。
「_と言う訳でそのアイテムが此方ですね」
モモンガが先程の創世級≪ジェネシス≫アイテムを公にした刹那、辺りに沈黙が降りる。
…息を飲んだのは誰であろうか?…このギルドは世界級≪ワールド≫アイテムの強大さを知っているがそれでも尚、現実味のあるその苗を今この場にいる17人全てが凝視しているのは何故だろうか?
それは単純明快、その苗が、失われた過去だからである。
(ブループラネットさん大歓喜)
今、ギルドメンバーの心の声が一致した瞬間である。
「クックックッ…遂に我らが一つの世界を支配する時が来たようだな!」
ウルベルト・アレイン・オードルが高笑いを上げながら自らの願望叶ったり!と言った声を上げる。
それに続き彼を持ち上げる様に煽てたのが世界支配推薦組の一人ばりあぶる・たりすまんである。
「これで念願の魔王になれるんじゃないですか?」
「そうだな!魔王ウルベルト…クックックッ!良いなぁそれ」
「急に冷静になりましたね…まぁ、自分はその側近として働かせて貰いますよ」
「側近…なるほど…なぁ…うんまぁ、出来れば同じ立場として行かせて貰いたいが…たりすまんさんがそう言うのなら仕方あるまい!」
二人で盛り上っているがそこでモモンガが申し訳なさそうなそれでいて弱弱しい声を発する。
「あのぅ…大変申し訳ないのですが私は向こうの世界で魔王として君臨することになっているのですが?」
「…へっ?…ふむ…ふむ…いやモモンガさんに魔王と言うのは柄で無いから魔王は俺で充分だろう」
「…はい?」
「ふむ…つまり、だな…モモンガさんには魔王を支配する最上位者、大魔王として君臨して欲しいのですよ」
再び、沈黙。
だが次に出てきたのはモモンガの恥ずかしさ、嬉しさ、驚きの混じった間の抜けた声と、今この場にいるギルドメンバー16人全ての賛同の声であった。
残りの24人のメンバーも今この場に居なくとも間違いなく…いや、喜々として頷くであろう。
モモンガが「あっ!」と言った声を出して何かを…自信の目標を宣言する。
「成る程…大魔王として君臨するの成らば魔法だけじゃかっこつきませんね…うん。少しばかり接近戦闘でも嗜むとしましょうか」
モモンガはそう叫んだ後、自信の名前が記された旗に今しがた宣言した目標を書く。
「…っと、こう言う風に目標を書いて見ませんか?」
「モモンガさんナイスです!」
「おっ!確かに目標は有った方がやり易そうですからね」
そう言い皆、各々目標を宣言し始めた。
始めに、ウルベルト・アレイン・オードルが。
「で、あれば俺は魔法の鍛練を積み重ね暴力的に特化した新世界の絶対者として」
次にばりあぶる・たりすまんが
「私はウルベルトさんの側近として…ならば何時もの事ですがサポーターに徹しましょうかね?」
ヘロヘロが
「俺は皆さんが軍事関係に特化するならばアインズ・ウール・ゴウンらしさを残した世界作りに尽力しましょうかねぇ」
源次郎が
「俺は器用な事は余り得意じゃねぇからな…何時も通り格闘の腕を磨いておこう」
あまのまひとつが
「う~ん…まぁ、鍛冶の特殊成功率を引き上げる実を食べながらひたすら打ち込みたいなぁ」
ウィッシュⅢが
「私は夜空に煌めく星々の兄弟になりたいですね…いや何ですかその視線、ほら、せっかく私たちが世界を支配する…いや、一から創りあげるんですから目標はでっかく行きたいじゃないですか」
武人建御雷が
「…ごほん、俺は何時も通り『打倒!たっち・みー』を視野に入れながら、そんなたっち・みーよりも強くなるであろう存在…そうだ『モモンガ…貴様を何時か必ず打つ!』を目標にプレイしていく」
エンシェント・ワンが
「ん~特にこれと言った目標を無いですが…これまで通り皆でワイワイガヤガヤ出来れば良いんじゃないですか?…まさか1500人撃退よりもたぎるイベントが待ち受けてたとは誰も知らなかった訳ですしね」
獣王メコン川が
「広大な川を!大いなる恵みを!新たな世界に創造したいぞぉ!」
弐式炎雷が
「暗殺術を極限まで磨いて、冒険者プレイヤー達を恐怖のドン底まで叩き込みたいですねー」
ガーネットが
「忠実なる友愛の僕!真なるガーネットを彼方に見据えて!これまで一層、皆さんに仕えよう!」
チグリス・ユーフラテスが
「吾輩も広大な川を!文明発展の神秘を!新たな世界に創造したい!」
ぬーぼーが
「ガルガンチュアに鬼強化を施した後、新世界に解き放ちたい」
テンパランスが
「…何時ものように…俺は…理性を…保ち…くぅ~ダッシャアア!新たな世界!興奮するぜぇ!…ふぅ…秩序を守りたいな」
死獣天朱雀が
「ふぅ…わしは古き良き日本の和をせめてゲームの中だけでも再現したいのぅ」
ミルクが
「我が神聖な牛を、新・世・界にて!飼い慣らしたい!…いや、牛をね?ほら、自分テイマーじゃないすか?…自分の可愛い可愛い、カウたんをめちゃくちゃ強力にしたいんですよ」
と、言った感じに随分と個性的な目標をその旗に記した者も居たが、それがナザリックなのである。
「…よしっ、今居るメンバー17人はとりあえず書き終わりましたね…では早速ですが、役割を決めちゃいましょうかね」
「はい!俺とチグリスとブルー・プラネットとあいらぶ!ガイアとはたけぬしは自然を制作したいぞ!」
「了解です…よし、次はダンジョン系統に行きましょうかね…あっとそう言えば、前々から関わりの有ったギルドも参加するそうですよ、…大丈夫でしたかね?」
「まぁ、参加する所に寄るよなぁ…」
「私たちのギルド含めて4つ、系339人ですね」
「ほぅ…悪の集会所は確定として…他にどのような?」
「ヨルムンガルドとワールドピースフルですね」
「あぁ、あの人達ですか、皆良い人だし俺は全然構わないな、皆は?」
「モモンガさんが決めた事ですし俺は従いますよ」
「うん、悪の集会所のギルド長、影とはリアルな方の友人だからオッケーだよ…彼おん、人柄良いし、他のメンバーも良いって言うんじゃないかな?」
「ウルベルトさん、ガーネットさん、エンシェント・ワンさん、皆さん、…ありがとうございます…さて、賛同も得た事ですし、再開しましょうか、それで…」
そこで、ウルベルトから待ったがかかる。
「…ギルド4つ各々でダンジョンを作る事は出来ないのか?」
「う~ん、出来ると思いますよ」
「ならば、それぞれダンジョンを作り、ギルド長が魔王として君臨、それで、そのダンジョンをクリアしなければ、ナザリックへの扉が開かない!と、言う速急シナリオを考えて見たのだが?」
「おおっ、それ中々良いですね…ですが、その発想だとウルベルトさん魔王として君臨出来ませんよ?」
「…いっ、いやほら、俺だけナザリックからの魔王枠として…ね?」
「う~ん…面白そうですし、次のギルド長会議の時に提案しておきます…」
「おおっ、ありがとうございますモモンガさん」
「…話を戻して、ダンジョン系統ですが…やはり、これは向こうに行ってから他のギルドと連携して決めましょうか他に皆さんから何かありますか?」
モモンガが円卓ラウンドテーブルを見渡しながら言う。
何も無いことを確認したモモンガは、パンと手を鳴らし、「さて」と立ちあがり、「創造主の証を使用して見ますか…」とひと言。
それだけで、場の雰囲気は有頂天に達する。
テンパランス何て、最早言葉になっていない程の狂いっぷりだ。
「それでは…」
モモンガがチケットを使用する。
途端に、ギルドメンバー全員に_100LVプレイヤー全員に懐かしき画面が表れる。
「こっ、これは…ステータス配分画面?」
「…ですね…あっ!レベルが…下がっている!?下級悪魔≪レッサーデーモン≫まで種族が…」
「えっ!?ちょっ、マジか!」
「みっ、皆さん落ち着いて!ほら、よく見て下さい!職種≪クラス≫レベルの所!」
「ん?何か追加されて…ジェネシス?…確か日本語で…えーっと…創世?『無から有を創造する事が出来る絶大な力。ジェネシスの職業≪クラス≫レベルが上昇する度に産み出せる物のデータ量が増大する。』ね…おっ、スキルに創造が追加されたな。…魔法じゃなくてスキルなのは戦士職への配慮か?…いや、単にレベルダウン時でも活用出来るようにと言うことか…」
「運営の力をてに入れたぞー!」
「いや、運営の力をてに入れたのは良いんだが、レベルが一桁台に堕ちたぞ」
皆は叫ぶがモモンガだけ場違いなすっとんきょうな声を上げた。
「…皆さん…ザ・ユグドラシルと言う職種≪クラス≫はありませんか?」
「ザ・ユグドラシル?…追加されたのはジェネシスのみだが?…まさかモモンガさん…そんなザ・チート見たいな職業≪クラス≫を会得したので?」
「そっ、そのまさかです…ね…あぁ、ユグドラシルの後継者とはそう言うことでしたか…」
「取り合えず職業≪クラス≫テキストを読みあげては?」
「…あっ、そうですね…『ザ・ユグドラシル。世界の根本的、力、ユグドラシルの力を行使出来る。現世と別世の交わることなき次元と次元を結び付ける事が可能となる。』だ、そうですね…これで新世界への扉を開くのではないのでしょうか?」
「…あっ、そうかも知れないですね」
「あっ!魔法を覚えました超位魔法、『天地開闢』ですね…効果はっと…ふむ…あーっと、正しく、今仰ってた内容ですね…ですがまぁ、新世界に行くのは、ギルドメンバーが比較的揃いやすい日曜の午後にしましょうか」
「だな」
「…と、言う事は今日はもう解散か?」
「…まぁ、そこは各自で判断と、言う事で…ですがすみません自分は明日は早いんで自分はもう落ちます」
「あっ、お疲れ様ですモモンガさん」
「はい、お疲れ様です、皆さんもお疲れ様です」
モモンガがlogoutしました
彼らのユグドラシルライフはまだまだ終わらない。
きっと、それは最終日にも変わらない…かは解らないが、それでも一人の悲運な運命≪ロンリー≫は避けられる筈である。
オーバーワールド 小山 飯喰 @11111111111
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