透子と壁

星野フレム

その壁は人ならざる者

 それは何年か前、私がまだ幽霊を信じていた頃。あれはまだ、それらが見えていた頃の話。私がいつもの様に道を歩いていると、ふと影ができて、何なんだろうなと見てみると。

「――!」

 そこには大きな壁があった。でもその壁は、私にしか見えないらしく、私がずっとそこで止まっていると、私を知っている女子高生が、「なにあれ?」と言って指さした。私は堪らなくなって、その場から逃げようとした。けれど、体が壁にぶつかって動けない。

「なにあれー超受けるー!」

 ゲラゲラと笑い出した奴らは、私を一瞥してから言った。

「ばーか」

 耐え難い言葉を受けて赤面すると、その場を塞いでいた壁がなくなり、私はようやく家路についた。


 あれなんだったんだろう。そう思いながら、夕飯を食べていると、目の前に壁が現れた。

「!?」

 ギョッとして私はその場から逃げてしまった。

「どういうこと? ついてくるとか……」

 咄嗟に自分の部屋に逃げ込んで、暫く震えていると、母が心配して、私の部屋の前から話しかけた。

「透子? どうしたの? 何かあったの?」

「なんでもない……なんでもないよお母さん」

「そう? ご飯ここに置いていくから、ちゃんと食べてね」

 暫く経って扉を開けると、そこには空の夕飯があった。

「?」

 不思議そうに部屋の外を見る私の頭上に大きな牙があった。

「ひっ!」

 私は驚いて首を引っ込めると、勢い良くあの壁の口が閉じた。壁には目が一つあり、私をじっと見てニタ―っと笑うと、そのまま姿を消した。あれから見なくなったが、お寺に行って聴いたところ、霊力を食べる者だと教えられた。その日から私は、何も見なくなり、感じなくなった。


 あんな怖い思いをしないで済むと思うと、今が本当に愛おしい。

 後に解ったことだが、私に見えていたのは幽霊ではなく、妖怪だったそうだ。


 ~終わり~

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透子と壁 星野フレム @flemstory

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