紫煙のうなり
紅蛇
踊る、金色の豹。
サンシャイン通りから、パルコ側の通りを進むと、ニコニコ本社がある。大きな画面が建物にくっ付いていて、広告が絶えず流れ続けている。その横の道を進むと、雑司が谷
五時頃から、ロマンス通りの居酒屋に向かう足が増えていく。メインの通りでは人が絶えず流れ続け、ガチャガチャした音が、パチンコ屋の自動ドアが開かれるたびに、辺りを賑わした。そして裏道を通れば、怪しいお店が立ち並び、恥ずかしげもなく可愛くもない女性の写真付き看板が輝やいている。
「よかったら、どうですか」メニューを持つ、ダウンジャケットの店員が話しかける。分かりにくい会釈をして、通り過ぎると、舌打ちの音が聞こえてきた。
バカね、私を居酒屋を誘うなんて。まぁ、格好のせいかもしれないけど。
大きめのダッフルコートはブラックで、首元に大きく開いた空間を、ビビットピンクに近い赤のスヌードで覆った。寒いのは、苦手だから、首なんてぜったい見せられない。細身の体型に合うスキニーパンツは、大きめの服と合うと思っている。足元には豹マークが輝く、
鞄は
鞄はあまり好きじゃないけど、財布は気に入っている。黒いレザーのベースとV字のデニム生地に惚れて、買ったものだから。
鈍い金色のチェーンを肩から下げ、メイクは朝よりも、老けさせるためにスモーキーに。今日はいつもとは違った色にしたくて、リップをプラムに塗ってみた。マニキュアと同じ色だけど、マットに。今年のトレンドらしい。
背の高い黒服と、目を合った。
無視。
ロサ会館の某レンタル店方面の入り口まで辿り着き、少し息を整え、スマホを取り出した。ゲームセンターからの弾けた騒音と、冷たい空気で耳が痛い。学校の子から「ゴツいね」と言われたケースは冷え、画面にはうっすらと靄がかかっている。
目的地まで、到着。時刻は十九時二十六分。あとは、連絡を待つのみ。
キムさんから教えてもらったスマホゲームでもしようかと、林檎マークの画面を表示させる。ナンバーは四桁。本当は指紋だけにしたかったんだけど、キムさんに危ないと言われてしまった。(そもそも、指紋だけは無理らしい)彼曰く「睡眠薬でも飲まされたら、貴女の指、使われるから。危ない。考えられない」だそう。
気持ちはわかるけど、私がそんな初歩的ミスをするとでも、思っているの。
素早くパスワードを入力し、アプリを開く。長ったらしい英語名のゲーム。意味のわからないストーリーをスキップさせて、戦闘開始。昨日寝る前にチュートリアルを終わらせたから、今日は何も教えてくれない。説明を読まずにぽちぽち押していたせいか、やり方が全然わからない。適当にキャラを押してみるけど、何も始まらない。つまらない。すぐにホームボタンを押し、消すことにする。
すると、画面いっぱいに通話画面が表示された。左側に赤い『拒否』と、右側に緑色の『応答』ボタン。迷わず、右を押し、スマホを耳に当てる。
「あー、もしもし。貴女、いまどこ?」
少し中国語訛りの、男性の声。
「ロサ会館の前」
「いつもの場所に」
「……わかった」
そうして、一分も過ぎないうちに、電話が切られた。相変わらず、電話しているときは口数が少なくなる人。少し、意味のわからないイラつきを覚えながら、鼻を啜る。無断に置かれた錆だらけの自転車に
通りは私が来た時よりも、
また、鼻を啜り、一つ奥の道へと体を向ける。メインの通りに比べて、人数も、明かりも目立たなくなっている。少し、危ない香りが、排気口から漂う油の匂いと混ざり合い、キムさんと観た香港映画に紛れ込んだかと、錯覚してしまう。
水色の看板をしたスナックを抜けると、薄汚れた雑居ビルが現れる。キムさんとの合言葉、いつもの場所だ。表面上では、色鮮やかな看板で隠しているけど、飲食店から溢れ出る埃で、黒く汚れが付着している。きったない。
コートが壁に当たらないよう注意しながら、階段を降りていく。裸の電球のチカチカが、金色の豹マークと踊っている。一歩ずつ、慎重に下り、緑青色の扉にたどり着く。右手に力を預け、押し進む。
「いらっしゃい」
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