時界牢園

星野フレム

序章 止まる時間

 晴天の空。時刻は昼の一時三十分。

季節は、鳥も鳴けば花も咲き誇る、まさに春そのもの。

そして、ここはとある花見客の多い広場。沢山いる人々の中で、一風変わった人々というわけではないが、四人の若者がいる。その四人の若者の会話が弾んでいる。

 そこには男性が二名と、女性が二名。酒を飲みながら話し込んでいた。

一人は小柄な男性で、青に近い着物姿に、髪をブラウンに染めていて、若干髪が長い。

もう一人は大柄な男性で、そう着飾っていないカジュアルな服装をしていて、黒髪の短髪。

そして、大人しそうにしている女性が一人。長い黒髪をポニーテールにし、スーツを着ている。

もう一人の女性は、フワフワしたボブヘアーでフェミニンな服装をしている。

雰囲気はお嬢様のような感じをしていた。小柄な男性が、満足げな顔で言う。

「いやぁ、今日は本当に晴れてて、いい日和だよね。お酒が進むよぉ。んー、美味しい!」

 すると、それを横目で心配そうに大柄な男性が言葉を放つ。

「おいおい、河野。そんなに飲んだら、立てなくなるぞ?

大体、酒に弱いお前を連れ出すのも反対だったってのに……」

 そんな心配の言葉をよそに、河野と呼ばれた青年は次々と酒やつまみを口にする。

心配する大柄な男性をチラッと横目で見つつ、河野が言い放った。

「高谷はいつも心配してるけど、今日は僕より飲んでるんじゃないかな?」

 若干挑発の掛かった言葉を聴いて、少しカンにさわったのか。

少し声を荒げ、高谷と呼ばれた青年は、言い放った。

「俺はいいんだよ! 酒には強いからな。……ああっ!

なんとか言ってやれよ、獅子目。お前、お目付け役だろ?」

獅子目と呼ばれたスーツの女性は、ポニーテールを少し揺らして答える。

「孝明様は、今日を首が長くなるほど、楽しみにしておられました。

羽目を外したい時もあるのです。どうか良しなに」

 落ち着いた態度で丁寧に答える獅子目。

そこにもう一人のフェミニンな服を着た女性が酔った口で絡む。

「硬いわよぉ! 陽子ちゃん。もっと飲みなさーい。孝明の執筆関係ばかりに関わってちゃ美人が勿体無いから、私がここに誘ったんだからぁ」

 かなり酔った状態の女性のお酒の勧めに、困りながら獅子目は応対する。

それを見ていた高谷は、「はぁ」と一息つくと、呆れながら河野に話を振ろうとする。

「やれやれ。久野島が一番酔ってるな。河野。河野?」

 話しかける高谷だったが、河野はずっと周りを見ていた。そして一言。

「ねぇ、気づいた? 周りが止まってるよ……」

 河野達四人以外の空間が、動きを止めてしまったかのように静止していた。

河野の言葉を聞いて、高谷は周りを見渡した。

「止まってる? どこが……、って! なんだこりゃ!」

 獅子目が周りを見渡しながら、確認するように言う。

「周り全てが、私達以外止まっていますね。物まで静止している……」

 酔いが醒めたのか、久野島が狐につままれたような顔で周りを見る。

「何? これどうなってるの? 私達、ただの広場に居ただけよね?

それになんか暗いし。……あれ何? なんか、気持ち悪い……!」

 久野島の見る目線の先に、全身が目だらけの小柄な何かが、道を歩いているのを見つける。

久野島の言葉に、河野はまさかと声を上げた。

「……嘘だろ。僕の小説じゃあるまいし。あれ、百目童子だよ」

 ホラー小説を書いている河野は、自分のイメージ通りの妖怪というものが、目の前に居るのを確認して、興味と恐怖の目線を見せる。そして同じく、高谷も異形の者の姿を見て、凍りつくようになって言葉を放つ。

「マジだ。何なんだ? 一体……」

 すると、暗くなった景色に炎が一つ、また一つと灯り始める。それをいち早く見た獅子目が、全員に呼びかけるように言う。

「見てください。

炎が、……孝明様の書かれている小説と同じなら、鬼火が道を作っています」

 その様子を見て、まるで導かれているような気がした久野島が言葉を放つ。

「来いって事? はは、まさかね……。ねぇ、帰ろうよ」

 先程まで、興味と恐怖を持って百目童子を見ていた河野が、好奇心を持ちながら鬼火の灯る方向を見て言った。

「僕は興味深いな。あの先、何があるんだろう」

「駄目です。孝明様にもしもの事があっては困ります。楓さんの言うように帰りましょう」

 獅子目が河野の身を案じて、制止の声を掛ける。ずっと周りの様子を見ていた高谷が、全員に呼びかける。その顔からは、既に冷静な様子は無い。

「待て、道がないぞ! ここと、鬼火の道しかない! どうなってんだ!」

 叫ぶように言い放つ高谷の言葉に、久野島が絶望に近い形相で言う。

「やだ……、マジで勘弁」

 同じく獅子目も、どうにもならないという表情で言葉を放つ。

「……これではどうにも」

 誰もが絶望の顔を見せ始めた頃、河野が言った。

「行こう」

 鬼火の先に行こうという河野の言葉に、高谷は正すように言う。

「何言ってるんだ!

こんなとこに居たら、確かに危ないかも知れねぇが、動かなきゃ誰かが……」

「来ると思うかい? 僕は行くよ。行こう、獅子目」

 半ば強引に話を進めて、鬼火の道へと踏み出す河野。

獅子目は、自分の仕えている者の言葉を信じ、答える。

「……わかりました。皆さん、お先に行きます」

 そんな獅子目に驚いた表情で久野島が止めに掛かる。

「ちょ! ちょっと、陽子ちゃん本気なの? やめときなさいって!」

「おい、百目童子がこっち見てるぞ! なっ、走ってくる!」

 血相を変えた高谷が、百目童子が自分達を見つけて近寄ろうとしているのを知らせる。

河野は自分の小説に書いたことを思い出し、全員に逃げるように促す。

「僕の小説通りなら……。

百目童子は、目に付いた者の眼球を取って自分の物にする! 逃げよう!」

 一行は鬼火の続く道へと走って行くのであった。

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