第3話

「『第四世界』にする!」

「なんじゃと!?」


 慌ただしく狼狽えるジジイ。


「そんなに驚くことか?」

「命の危険があるのじゃぞ!? 技術も四つの世界で一番未熟じゃし、とてもじゃないが前の『第一世界』でぬくぬく生きてきた主に生き抜くことが出来るとは思えん。もし、再度転生を期待してるようならそれは止めい! 一度しか転生は行えんからのう。 それでも『第四世界』にすると言うのか!?」


 本気で心配してくれているのだろう。言葉から優しさが伝わってきた。優しいジジイだ。

 ……だが、ジジイ覚えておけ。それは余計なお世話って言うんだ!


「心配は嬉しいが、俺はもう決めたんだ」


 すると、覚悟が通じたのか爺さんはやれやれと嘆息した。


「そうか、分かった。 じゃが、せめてすぐにここに来ないよう転生体だけでも強化させてもらうぞ? 異論反論は認めんからの。 と言っても種族が人間だと身体能力最高値の近接型か魔力最高値の遠距離型のどっちかしか選べんからの。 主はどっちが良いか?」


 ちょ、まっ、長い言葉長い!?説明になった瞬間のこの饒舌。何かむかつくぞ。


「あー、それなんだが爺さん。 ちょっと良いか?」

「異論反論は認めんと言った筈じゃが」

「いや、そうじゃなくてさ。 俺の記憶見たなら分かると思うけど、転生体に生前の俺の特技を受け継がせることって可能かな?」


 先刻、世界のことを聞く際に特技を使おうとしたのだが、おそらく死んでしまったからだろう。心を読むことが出来なかった。あの特技は使うのに代償があるものの何かと便利だ。是非受け継がせられるものなら異世界でも使わせてもらいたいものなのだが。

 

「あぁ、心眼のことか。 なら受け継ぐも何も、あれは元々人間に備わってる機能じゃし、主は感覚でそれを使いこなしとったから、転生体でも何の不自由もなく使えると思うぞ。 大方儂に使えなくてそう質問したのだろうから言っとくが、神にそんなものが通じるわけ無かろうに。 あえて心を読まれんようにしとるだけじゃから別に今も主はその特技とやらを使うことが出来る筈じゃよ」


 あの特技は片桐天音という個体が独自の進化を遂げて覚えたのだと思っていたが話を聞くところによるとどうやら潜在的能力ってやつらしい。

 正式名称は心眼と、どこか中二臭さを醸し出していたが、何にせよ使えるのであれば問題ない。……正式名称知ったからには俺も心眼で統一させてもらおうかな。


 か、勘違いするなよ、別に名称が思ったより格好よくて心がくすぐられたとかそんな理由じゃないんだからね!


「なら俺は遠距離型にするよ。 特技…じゃなくて心眼。 それが使えるなら近接での一対一ならまず負けないだろうし、何より魔法を使ってみたいからな」

「そうじゃな。 心眼を使える主なら近接は心配要らんじゃろう。 一応、上げれるだけ身体能力は強化しておくがな。  ところで主は、汎用か特化どっちが好きかのう? 実は魔法には『火』『水』『風』『土』の四大エレメントを操れる汎用魔法と四大エレメントは操れないものの他の力を操ることが出来る個人魔法があってのぅ。 大体の者が使えるのが汎用魔法、ごく少数しか使えないのが個人魔法じゃ。 じゃが、英雄と呼ばれる者は殆どが個人魔法使いなんじゃよ。 その分、当たり外れの差が大きいのがネックだがのう。 故に魔法使いの底辺に居るのも個人魔法使いなんじゃ。 と、説明が終わったところで改めて聞こう。 主は汎用か特化どっちが好きかのう?」

「特化かな」


 考えるまでもない。そう即答する。

 特化は当たり外れがあり、天才になるか落ちこぼれになるか分からない。だから万が一のことを考えるなら汎用と答えるべきなのだろう。


 だが、それは保険をかける代わりに天才になるチャンスを自ら逃すことを意味する。


 リスクが合ってこその賭けだ。外れたら落ちこぼれ?上等だ。心眼が使えるのだから、そうなったら近接を極めれば良い話だ。問題はない。元々自分は恵まれ過ぎてるのだから。


「ほ、本当にそれで良いんじゃな? あとから変えろって言われてももう変えられんぞ?」

「しつこいぞ、ジジイ。 俺は一度決めたことは死んでも曲げん。 考え直すのはめんどくさいからな」

「理由がとんでもないが、分かったわい。 じゃあ転生情報を書き込むからの」


 爺さんはげんなりしてそう言うと、魔法だろうか。空中に文字を書き出し始めた。


「それは魔法か?」

「少し違うがまぁ似たようなもんじゃな」

「へぇ」


 まぁ神にもいろいろあるのだろう。一応容姿は衰えてるものの男だし。男なら隠しておきたい秘密の一つや二つあって当然だ。俺にもあるのだから……ってうわぁぁあ!!?聖書(仮名)をベッドのしたに隠したまんま死んじゃったよ!うぅ……今ならこの世に未練があって残る幽霊の気持ちがわかる気がする。


「……じゃあ書き込み始めるかのう」


 爺さんは慣れて来たのか、一瞬、空を見上げ懺悔する俺にギョッとしたものの、すぐに無機質な声で言葉を紡ぎはじめた。


「種族は人間で遠距離型の個人魔法使い。 で、身体能力は上げれる限界まであげて、と。 ふむ、記憶を継承させる年齢は十歳にしておくか。 幼児プレイは可哀想じゃし、丁度十歳は入学試験の年じゃ。 入学してから記憶を戻すよりも入学する前から戻しておいた方が友達も作れそうだしな。 ……家柄は……平民だと殺される可能性が高いからのう。 貴族にしておくか。 国は一番安全率が高いセントレア王国で出来るだけ首都に近い貴族にしよう。 一応反乱が起きた場合のために性別は女にしておくかの。 反乱時でも女なら性奴隷にするなりして生かしておいてもらえるから安全対策もバッチリじゃ」


 何故理由まで言ってるのか分からないが、うん。今なんかさりげなく凄いこと言ったよね。特に性別の辺りとか。すぐに止めさせなければ取り返しの付かないことになってしまう気がする。


「おいジジ--」


 しかし、それ以上話すことは出来なかった。転生が始まったのか、口が光の粒子となって消えてしまっているのだ。これでは話しようがない。


 仕方なく強引に止めさせようとしてジジイに近づこうとするが、距離が縮まらない。そこで既に足がないことに気づいた。同様に腕もない。と次の瞬間には視界が真っ白に包まれた。


「片桐天音よ。 次回の人生では走馬灯の見れないことの無いようしっかり頑張るんじゃぞ。くれぐれも早々にここに来ないように」


 もう耳はない。なのに、その声ははっきりと聞こえた。


「武運を祈る。 どうか良*人生を送っ*くれ。 それが主を*した*の***」

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