フルムーンの約束

紅音

第1話

 人里離れた深き森。そこには“人喰い飛竜”が住んでいるとされ、人々は近づくことは愚か、ハンターを雇っては度々狩るように依頼していた。

 今回で五度目の依頼。ハンターが森に赴いてから、3日ほどが経ち帰ってくるならば早くて今日だろうと村人たちは待っていた。

 予想通り、帰ってきたハンターは顔を真っ青にしており、聞かずとも失敗したことが分かる。

 集まっていた村人たちはため息をこぼしながら解散していった。


 ハンターの帰還を物陰からこっそり見ていたリイナは、村人たちが散り散りになるのを見計らい、村の外へ抜け出した。


「やった…!今回はちゃんとハンターが帰ってきてから出てきたから、大丈夫!」

 踏み固められた細い土の道ではなく、脇の雑木林を進みながら、リイナはガッツポーズをとる。

 木々に紛れる深緑のマントを羽織り、長い髪を両耳の下で結わえ、背中には小さなリュックを背負っている齢14の少女、リイナは昔から憧れているのもがあった。


「今日こそは見つけるんだ…!ドラゴンテイマーさん!」

 小さなころ母親にもらった絵本に出てきた、悪い敵を次々に倒していくドラゴンとそれを従えているテイマー。その魅力に憑りつかれて9年。今年で記念すべき10年目を迎えようとしている。

 村から離れた、“ゼシカの森”に人食い飛竜がいるというのは物心つく前から耳にタコができるほど聞かされてきた。リイナも人を食べる竜にはさすがに恐怖を抱いていた。

 しかし、2度目に狩りを試みたハンターが、とある言葉を漏らしたのだ。

「あれには従えている者がいた」

 その話を聞いたリイナの頭の中には恐怖よりも大きな好奇心が芽生えてしまったのだ。それからというもの、密かに森の探索準備を進めており、本日で2度目の挑戦だった。

 一度目は、狩りの帰りのハンターと出くわし、森に着く前に阻まれてしまった。


 今回、誰にもばれていないしハンターも帰還済み。つまり、森に入ってしまえば誰も来ない。


「よし…!」 

 リイナはフードを被り直すと、森に向かって歩き始めた。 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る