後篇

第6話

 足場に広がる苔が充分な水分を蓄え、広場を霞で包み込む。

 陽の煌めきが角度を変えて、広場の壁際とせまい坑道の奥を夕色に染める頃、光に向かって駆ける足音が二つ、賑やかな声とともに広場へ飛び込んできた。


「ようやく地上だー!」

「おひさま! 彩の輪! おてんとさまー!」

「おいこら! ポート、チセ、はしゃぎ過ぎだ!」


 先へ行く二人に向かって、カディンは坑道の奥から声を飛ばした。足を止め、左手で立てる槍の穂先が射し込む夕陽を反射する。


 ポートは勢いをつけて振り返り、肩掛け鞄を振り回しながら声を張りあげた。


「師匠が悪いんすよ! こんな奥深くまでもぐるから」

「お前らが付いてくるっつったんじゃねえか」

「どうでも良いけどおひさまあったかああああい」


 全身で輪彩リザネの恩恵に声をあげるチトセにつられて、ポートも感極まって騒ぎ始める。


 その様子に思わず笑みがこぼれたカディンの背中を、あとから到着したクラヴィウスが軽くたたいた。続くシーザーも彼の足元に擦り寄り、その場に伏せる。


「いいんじゃないの? あれだけ地下深くに潜っていれば、お天道さまも恋しくなるでしょ」

「まあ、だから俺は一人で行ってくっから待ってろっつったんだよ。俺だけなら食糧も要らねえし」


 カディンは屈んで右の手袋を外し、シーザーの雪のように白い毛並みを大雑把に整えてやる。しかし、気持ちよさそうに撫でられていたラシオーラは、ふと広場の片隅を見つめると、カディンの手をすり抜けてそちらへ駆けて行ってしまった。


「あんたの一挙一動を見逃したくないんでしょ。ねぇ、さま?」

「それなあもう……慣れねえなあ」


 からかって笑うクラヴィウスに、カディンは手袋を留め直しながら深くこうべを垂れた。


 キュレイス山の地下奥深くに延びる【珪蝕蛇の路チルタミルグラシア】での用事を済ませたカディンとその一行は、廃坑の広場に大きく穿たれた穴から射し込む夕陽を目の当たりにして、ようやく地上まで戻ってきた実感を胸におのおの安堵していた。この広場から外までは、もう一刻も掛からないはずである。


 カディンとクラヴィウスが閑談に興じていると、広場の中心でポートと共にいたチトセが小さく声をあげた。


「お、女のひとが倒れてる」


 声に振り向いたカディンとクラヴィウスは、お互い視線を交わし、広場の中心へと赴く。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや。構わず先に行ってくれ」


 ふと煌めくものがカディンの目の端に留まり、彼は足を止めた。振り返るクラヴィウスを先に行かせて、彼は煌めくものへ近寄る。

 足元には、七色に光る鉱石の塊が数個、地面にめり込むようにして並んでいた。


「これは……」


 カディンはそれを睨んで小首を傾げる。

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