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読まれる前に……
書籍化する際、一部の一話あたりの部分に、コレットの婚活事情のお話を入れております。
書籍化されたものを買われた方は何も問題はないと思いますが、買われてない方は『コレットは婚活をしていた』という事実を理解したうえでお楽しみください。
書籍を買われていなくても話は理解できると思います。
よろしくお願いいたします。
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季節は春。
ステラ皇女殿下暗殺事件から半年が経ったある日のこと。
コレットは街にある甘味処で、頬を染める青年を相手に無理やり笑顔を作っていた。
「コレットさん、ご趣味は?」
「……えっと、家庭菜園、ですかね?」
「そうなんですね。僕も花を育てるのが好きなんです! もしかしたら、僕らとても気が合うのかもしれませんね!」
「あはは……そうですねー」
頬を引き攣らせ同意をすると、彼は本当に嬉しそうに笑った。そんな彼の表情に胸が締め付けられる――申し訳なさすぎて……
彼はルイスという、青年実業家だ。ルイスは贔屓にしている八百屋の店主、ビルから紹介された男性だった。
コレットは以前、結婚相手ならぬ恋愛相手の紹介を肉屋のハリドに頼んだことがある。その噂が回りに回って、懇意にしているビルが善意でルイスを紹介してくれたのだ。どこで見かけたのか、ルイスもコレットのことを知っていたらしく、喜び勇んで駆けつけてくれたらしい。
しかし、その善意がありがたかったのも数ヶ月前までの話。今のコレットはあまり男性と接点を持ちたくなかった。
こうやってデートをするなんてもってのほかだ。
なぜなら、最近男性とこうやって会っていると、必ずといって良いほどに
「偶然だね。コレット」
後ろから投げかけられた機嫌の良い声に、コレットは笑顔を顔に貼り付けたまま、ぎこちなく振り返る。
そこには
表情こそ笑ってはいるけれど、目の奥はまるで鋭い刃のようにコレットを突き刺していた。まるで責めるかのように。
コレットは思わず身震いをした。
「ヴィ、ヴィクトル……」
「こんなところで何をしてるのかな? まさか、デートなわけないよね? 俺という婚約者がいるのに、コレットはそんなことをする子じゃないよね?」
「へ、婚約者?」
ヴィクトルの言葉にいち早く反応したのはルイスだった。彼はヴィクトルとコレットを交互に見て、首を捻る。
「あぁ、聞いていませんでしたか? 俺と彼女は将来を誓い合った仲なんです。さ、コレット、行こうか。父がコレットに会いたいって言ってたよ。夕食も一緒にどうだい?」
「あ、あの……」
「すみません。彼女は借りていきますね」
有無を言わせず、ヴィクトルはコレットを立たせた。
彼の手を取りながらコレットはもう諦めの境地に達してしまっている。
ヴィクトルはコレットの腰に手を回しながら、ルイスに向かい、更ににっこりと微笑んだ。
「あぁ、そういえば。そちらの商会、税金を正しく納めていないことがわかりましたので、本日下の者が監査に向かいましたよ。……早く帰った方が良いんじゃないんですか?」
「え?」
「あと、買春はほどほどに。先日貴方が買った女性、どうやら子供が出来たようですよ。おめでとうございます」
「は?」
「では失礼」
一瞬にして青くなったルイスに、ヴィクトルは踵を返す。その隣でコレットはルイスに土下座をしていた。心の中で……。
◆◇◆
「いやー。叩いて埃が出る相手で良かったよ。ティフォンから話を聞いてから調べたから、すごく急ごしらえな感じだったけど、ちゃんと裏も取れたし。上々だね」
「なんでアンタは、迎えに来るだけじゃ飽き足らず、相手を叩き潰そうとするのよ! 前も! その前もっ!」
孤児院に帰る道すがら二人はそんな会話をしながら歩いていた。街ゆく人はコレットのあげる怒声に振り返る。しかし、そんな奇異の視線など、ものともせずにコレットは気炎を上げていた。
そう。彼女が最近男性と接点を持ちたがらない原因はこれだった。
コレットが男性と会っていると、必ずと言って良いほどヴィクトルが現れる。しかもその手土産に相手の不正をたんまりともって来るのだ。
おかげでここ数ヵ月間でコレットと会った男性は、皆身を滅ぼしている。
「それは、ほら、可愛いヤキモチだよ。好きな女の子が他の男と一緒にいたら妬いちゃううだろう?」
「可愛くない! ちっとも可愛くない! おかげで『コレットに近づく男は破滅する』なんて噂が流れ始めてるんだから!」
コレットは地団駄を踏む。ヴィクトルは未だに彼女の腰を掴んで離してはいないのだが、そんなことが全く気にならないほどに、彼女は怒っているようだった。
「そもそも叩いても埃が出なかったらいいわけなんだから、俺じゃなくて相手が悪いと思わない? それに、俺がそういう男だってわかってるんだから、コレットも諦めて他の男なんて探さなかったら良いんじゃないかな?」
「別に、探してるわけじゃ……」
「でも、先週もこんなことあったよね? コレットの気持ちが定まってないのは理解しているつもりだけど、あからさまにこういうことされると、俺も傷つくよ」
ヴィクトルの寂しげな声に勢いをそがれたのか、コレットは言葉を詰まらせ、視線を下げた。
「今回も、前回も、断れなかったのよ。別にヴィクトルのことを傷つけるつもりはなくて……。私から頼むことはなくなったし……」
「俺の気持ちは知ってるよね?」
「い、一応……」
「知っててそういうことしちゃうんだ。コレットって、結構残酷なことをするよね……。はぁ。辛い……」
「だから、ごめんって!」
明らかに傷ついた声を出すヴィクトルに、コレットは焦りながら顔を上げる。しかし、その先で見た光景に彼女はこれまでにない怒りを感じた。
彼は笑っていた。片手で口を覆いながら、コレットからあからさまに顔を背けて、肩を小刻みに揺らしている。
「いや、もう。 ほんと辛い。コレットがいじり甲斐がありすぎて、辛い」
「ヴィークートールー!!」
頂点に達した怒りをぶつけるように、コレットは歩く彼の足を思いっきりふんずけた。
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