第17話俺が朝食を食べるならばっ!

 ほどよい明かりの中、外からチュンチュンという雀のような鳴き声が聞こえてくる。まさかとは思うが…元の世界に戻ってたり…


「ん…あるじ、起きた?」


「だよなぁ…ここで夢落ちだったらクロエにキレてるぜ。」


「…誰?クロエ?」


「クロエというのはだな、火傷したときとかに傷口に塗ると良いと言われている植物のことでな…」


「ん…薬?」


「どっちかっていうと食べ物?」


「そう。」


 アロ…クロエにキレられるかもしれんが…まあいいよな!


「今日は何するかなぁ…正直することもないんだよなぁ…」


 まあギルドで依頼を受けても良いんだけどな。


「ん…ティアはあるじについていく。」


「お前はいつも俺に任せてくれるなぁ…別になにかしたいことあったら言ってくれてもいんだぞ?」


 ティアになにかを我慢してほしくないからな。俺に出来ることがあればなにか言ってほしい。


「…あるじと…話したい…?」


「なんで疑問系なんだ?まあ俺に話せることならなんでも話すさ。」


 つい疑問系の答えに苦笑いが出てしまう。


「ん…あるじはティアをどうして買ったの?ティア、嫌われてるから…不思議。」


「あー…そうだなぁ。ティアを買ったっていう言い方はあまりよろしくないが…まあ可愛かったっていうのが大きいよな!!」


「ティア…可愛い?」


「可愛いぞ?俺としては今まで見てきた何よりも可愛く感じるね。」


「ん…照れる。」


 よしよしと頭を撫でる。良い手触りだよなぁ…この白銀の髪も。わしゃわしゃしたくなっちゃうぜ。


「それにな、俺はティアを嫌う理由がないからな。俺は異世界から来たからさ。」


 もう別に言ってもいいよな。ティアが他の人に俺の情報を伝えるとは考えれん。ティアの不安を取り除く為にならいくらでも話せる。


「異世界…?あるじは…異世界人?」


 首を傾げて確認してくる。


「ああ、この世界の神様が、お前が有名になることで世界が発展するから有名になれって言われて、チートな能力をもらってこの世界に来た。」


「そう…不思議。」


「信じてくれるのか?俺が嘘をついてるかもしれんぞ?」


「ティアは…信じる。嘘なら嘘で構わない。あるじの言ったことを信じる。」


「お前はどんだけ俺のことが好きなんだよ。」


「ん…大好き。」


 嬉しさに顔がにやけるのが止まらねえ。つい頭を撫でてしまう。


「て、いうかそろそろ朝食食べようぜ。女将さんが作ってくれてるはずだ。」


「ん」


 二人でベッドの中で話していてはなにも出来んからな。腹も減ってるし、食べてからこれからの方針を決めよう。




 食堂に行くと、昨日あんなにいた客は少なくなっていて意外と静かだった。どうやらまだ寝てるらしい。もしくは早朝に出ていったのかな。


「おや、起きたんだね駿河ちゃん。それに…ティアちゃんだったね。昨日のイノムダが残ってるから今日はイノムダサンドだよ。」


「おはようタンタさん。今日もせいが出ますね。」


「ん…おはよう…タンタ…?」


「おいおい、目上なんだからさんをつけるんだぞ。ティア。」


「ん…ごめん…なさい。」


「いんだよいんだよ!フランクに接してくれる方がこっちとしてもありがたいからねぇ!」


「そうですか?じゃあまあいいか。」


「駿河ちゃんも敬語じゃなくていつもの話し方でいんだよ!」


「ん、そうか。じゃあそうさせてもらう。じゃあ早速イノムダサンド?食べさせてもらうとするよ。」


「あいよ!すぐ持ってくからそこで座ってな!」


 相変わらず明るい元気な人だ。しゃべり方はおばちゃんっぽいが見た目が若いからまあまあの違和感なんだよな。


 と、いうかあの髪の色は…


「よ!シエル!」


「んぐ…?んむ!ふぃのうのふふひゃひゃんひゃひゃいっふは。」


「うん、口のなかのもの食べてから話そうな。」


 どうやら先に朝食を食べていたようだ。ふがふが言っててよくわからん。


「んぐ……。ぷはぁ!美味しいかったっす!」


 シエルは片手に持っていたサンドイッチを頬張り、手元にあった水で飲み込んでいった。


「おはよう、シエル。昨日は悪かったな。」


「ん?あぁいいんすよ。まあ色々セクハラされたのはちょっと許せないっすけど!」


「悪かったって。そんな怒るなよ。」


「まあ…反省してるならいいんすけど…あれ、その女の子は誰っすか?銀髪でやけに可愛らしいっすけど……は!まさかそんな趣味が……ちょっと近寄んないでほしいっす…!」


「まてまて!確かにティアは俺の奴隷だがそれとこれとは話が全然違うぞ!何かしたわけでもこれからするつもりもない!!」


 そんな軽蔑するような目でみないで欲しい。俺はそんじょそこらにはびこるロリコンどもとは違うんだ。


「ティアっていうんすか?というか駿河さん、奴隷を買ってるんすね。」


「ん…あぁ、まぁな。ほら、ティア、昨日風呂で俺を気絶させた女の子、シエルだ。」


「ん…ティア、よろしく。」


「その紹介の仕方…悪意しか感じないんすけど…」


 そんなこんなで話をしていると…


「はい!またせたね!イノムダサンドだよ!ん?あんたら知り合いなのかい?」


 朝食が出来たようだ。タンタさんが持ってきてくれた。美味しそうだな…カツサンドみたいだ。


「あぁ、タンタさん。そうなんですよ。昨日風呂に入っていたらこいつが男湯に入ってきて……」


「そ、それは違うっすよ!駿河さんが女湯に入ってたんじゃないっすか!なんで女将さんわざわざいうんすか!?」


「あらまぁ!駿河ちゃんもすみにおけないねぇ!シエルちゃんと一緒にお風呂に入って寝るときはティアちゃんと一緒かい?」


「その文章だけとると俺がとんでもなく最低なやつに聞こえるな…」


「ん…あるじ……寝ているとき……すごい……」


「なにを言ってるのティアさん!?」


「最低っすね駿河さん、死ねば良いのに。」


「駿河ちゃん…」


「やめろぉ!そんな目で俺を見るなぁ!なに?!俺寝てるときになんかしたの!?」


 寝てるときは意識ないんだから不可抗力だって!!ノーカン!ノーカン!ノーカン!


「じゃあおばちゃんはまだ朝食を作るから、戻るよ。三人とも、はっちゃけすぎないのよ?」


「タンタさん!俺はロリコンじゃないからね!」


「ティアさん、なにかあったら自分にいうんすよ!すぐに飛んでいくっすから!」


「ん…わかった。」


 なにを吹き込んでるんだそこの緑髪?おい?


「じゃあまあ、いただきます。」


「ん…いただきます。」


「なんすかそれ?」


 あぁそうか、この世界にはない習慣なんだったか。


「これか?これは料理をしてくれた人やその食材に感謝をする挨拶なんだ。俺のいた町の風習みたいなもんだ。」


「ふーん…律儀なもんっすね。」


「まあ気にするな。癖になってるだけだから。」


「そっすね。じゃあ自分はそろそろいくっす。」


「そうか、ちなみにどこに行くんだ?」


「そうっすねぇ~、今日はギルドに行って依頼でも受けようかと思うっす。」


「なんだ、シエルは冒険者なのか?」


「そうっすよ?もしかして駿河さんもっすか?だったら今度一緒に依頼を受けるっすか?」


「そうだな。それもいいな。」


「期待して待ってるっす。じゃあ行ってくるっす!またっす!駿河さん!ティアさん!」


「おう、じゃあな。」


「…はむはむ……」


 ティア…食べるのに夢中か……美味しいもんな。


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