第14話俺が風呂に入ったならばっ!

 俺はいま…今世紀最大の危機にひんしている。そう、風呂だ。


 そもそもお風呂というものは起源は古く、安土桃山時代の6世紀頃から広がっていったと言われ、身体を綺麗にするだけではなく、沐浴をすることで福があると言われたり、健康になるとされていた。ちなみにその頃はどうやら混浴が当たり前だったそうです。うぇっへっへ。


 と、なんだか語りだしてしまったが…とにかく俺はいま、お風呂に入りたいのだ。もしこのままお風呂に入らない状態が続いて、ティアに、ありえないが、仮に、あったとして、万にひとつもないが、『あるじ、くさい』なんて言われた日にはたぶん俺は死ぬ。俺の言われたくないことばランキング堂々の1位だぞ?そんなことティアに言われたらおれぁ生きていけねぇよ……

 と、いうことで…なんとかお風呂に入りたいのだ。さてそれでどうするか…ここはとりあえずさっきの女将さんに聞いてみるか。忙しそうにしてたから聞けるといいんだが。


 部屋から出て、食堂の方に向かうと…


「あ、駿河さん!来てくださってたんですね!」


「ん、おお。ノノさんか。ギルドの仕事の方は終わったのか。」


 さっきのギルドで受付をしてくれたノノさんが帰って来たようだ。それにしても、ノノさん、なんだか顔が赤くて髪も濡れていて。ちょっと色っぽい…


「はい!なのでさっきまでお風呂に入っていました!」


「なるほど、だから髪が濡れてたんだな」


「あ!すいません!水とか飛び散りました?」


「いや、髪がいい感じに濡れていて、なんだか色っぽいぞ。」


「色っぽ……そ、そんなこと初めて言われました……」


 そういえば、受付のときはしっかり見てなかったが、やっぱり可愛いな。紫の髪をふんわりとボブにしていて、顔立ちもまだ幼げだが、綺麗に成長しそうな感じがする。それに胸もあるし…有望株だな。いやまて!今お風呂に入ったって言ったよな!


「そうだ!聞きたいことがあるんだった!」


「は、はい!聞きたいことですか!?」


「あぁ、実はとっても大事なことなんだ…俺には今伝えなきゃどうしても気がすまないことなんだ……聞いてくれるか…?」


 俺としては風呂は死活問題なんだ!教えてくれ!ノノさん!


「ふぇっ!?そ……それはちょっと早いような…も、もちろん!私が駿河さんを嫌いなわけではないですよ?!で…でもですね…そういうものには段階というものがあってですね……」


「今すぐじゃなきゃいけないんだ!俺のこの燃えたぎる熱い気持ちを!お前に伝えなきゃいけないんだ!!」


「ひゃい!あの…えと……は……はい。どうぞ……」




「お風呂はどこにあるんだ?」








「はい?」


 ん?さっきまでくるくると髪の毛をいじっていた手が止まっている。なにかあったか?


「いや、だから。お前が入ったお風呂はどこにあるんだ?もちろん俺も入れるよな?大切なことなんだ、教えてくれ。」


「…………向こうの廊下を進んで右に行ったらあります…別料金なんで、お母さんに言ってから入浴してください。」


「おぉそうか!ありがとう!ノノさん!あとなんでそんなプルプルと震えてるんだ?」


 小さいからだを震わせて……大丈夫か?風邪かな?


「い…いえ……その!私は部屋に帰りますね!!」


「お?おう。わかった。おやすみ。」


 バタバタと顔を両手で隠しながら走っていった。ほんとにどうしたんだ?


「とりあえず、風呂だな。確かノノさんのお母さんに言えって話だったな。ていうかノノさんのお母さんって誰だ?」


「あら、それは私のことだよ。」


 不意に後ろから声をかけられた


「うわっ!びっくりした!あれ?女将さん?」


「あいよ、女将さんだよ。ノノの母親もしているけど、どうかしたかい?」


「え!めっちゃ若いですけど!」


「そうかい?そんなこと言われると照れるねぇ…まあ老人になったつもりはないがね。」


「めっちゃ若いですよ、姉妹と言われても信じてしまいそうです。」


 髪の色もどうやら同じで、ノノさんよりすこし伸ばしているようだが、正直若すぎて母親には見えない。


「やだねーあんた!おばちゃん口説いてどうすんの!」


「いやいや!そういうことじゃないですから!そういえば女将さんは、名前は何て言うんですか?」


「ん、私かい?私はタンタって名前だよ、あんまりかわいくない名前だろう?まあ夫はいい名前だって言ってくれるんだけどねぇ!」


「タンタ……さんですね!よろしくお願いします。俺もいい名前だと思いますよ。ちなみに俺の名前は高梨駿河です。」


「そうかい?ありがとよ、駿河ちゃんだね?しばらくよろしく頼むよ!」


「はい、あ、お風呂について聞きたいんだった。お風呂ってなんえ……なんスールですか?」


「お風呂は60分20スールだよ。タオルは無料で貸し出せるよ。」


 危ない危ない、日本の単価で聞いちゃうとこだったぜ…


「じゃあ、お風呂お願いします。はい、20スールです。」


「あいよ!しっかりと貰ったよ!タオルは風呂場の前にあるタオルを使ってね!ちゃんと使ったあとのやつと洗ったあとのやつは区別してるから洗ったあとの方を使うんだよ。」


「はいはい、ありがとうございます。」


「うんうん!じゃあ、おばちゃんは仕事に戻るよ、ごゆっくり!」


「はい、お姉さんこそ、おまり無理なさらず。」


「お姉さんなんて、そんな年じゃないけどね!」


 あははっと豪快に笑いながら走っていった。まじで冗談抜きで若々しいから反応に困るぜ…。




 言われた通りに道を進んでいくと、風呂場があった。洗濯済みと書いてある箱からタオルをとり、風呂場に入る。もちろん、男湯と女湯に分けてあるようだ。いや?別に期待してないよ?


 脱衣場で服を脱いで、風呂場に入る。普通の風呂というかどっちかっていうと銭湯って感じだな。この時間帯はどうやらおれいがい誰もいない感じかな?


「ふぃ~…やっと一息つけたなぁ…。」


 今日いきなり異世界に飛ばされて、いろいろやって来たが…まあ嵐のような1日だったね。


「盗賊倒したり王宮にいったり、王子さまと戦ったり…ティアを買ったりな。」


 日本では考えられないことの連続だったな…あとは寝るだけだ!しばらくしたら上がろう。




 ヒタヒタ…


 あれ。俺…寝てたか?いつの間にかうとうとしてたみたいだ。あぶねえあぶねぇ…


 ガラガラ…


 誰か入ってきたみたいだな…じゃあ俺もでるか。


 ザバァと、水が体から離れる音とともに先ほど入ってきた人と目があった。

 まつげは長く、髪は緑でショートに揃えている。これまた16歳くらいの体で、胸が…胸が……?ある。え?


「え?」


「え?」


「うわぁ!誰っすか!あんた!ここ女湯っすよ!なんで男がいるんすか!」


「まて!俺は男湯に入ったぞ!おおお、お前が男湯に間違って入ったんじゃないのか!?」


「ありえないっす!ていうかこっち向いて喋りやがらないでくださいっす!!変態っす!!」


「うわぁ!悪い!」


 やばいやばいぞ、この状況はなんだ?何が起こったんだ?俺は普通に風呂に入ってただけのはずだぞ?なのにこんな可愛い子と鉢合わせ☆って笑えねえよ!?


「そのままこっちを向かないでほしいっす!」


「いや!俺ももう風呂を出るから!すぐ出るから!」


「だめっす!こっちを向いたら殺すっすよ!」


「じゃあどうすればいいんだ!」


「こっちも分からないっすよ!!って…うわぁ!」


「おい?どうした!?」


 むにゅぅ…


 ん?俺の後頭部になんだか柔らかくてすごい気持ちいい感触がする…でも俺の全身が危険アラームをかけてる。

逃げたいけど、この感触からは逃げたくない…ジレンマや…これがジレンマってやつや…ていうか、意識が朦朧としてきて…あ、やば。


「え?!うわあ!申し訳ないっす!あれ?!なんで沈んでいってるんすか!?もしかして今ので気絶したんすか!?どうした…いいの…………女将………呼ば……………」


 もうだめ……終わったぜ……俺の人生……

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