月給よりフリー麻雀の方が稼げるから、新卒入社した上場企業退職してもいいですか⁈
神楽坂 詩季
第1話 日常➀
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ
全自動卓の牌を混ぜる音が、ずっと頭の中でなっている。
鳴きの発声と打牌音。店員の掛け声が飛び交う。
タバコの煙で白く淀みきった空間は、様々な人達の思いが交錯していた。
ピピピッピピピッピピピッ
いつもなんの狂いもなく同じ時間になる機械音に、一日で一番幸せな瞬間から俺は引き起こされた。
「ッーあったま痛、昨日呑みすぎたな」
起きてまず最初に目に入るのは、タバコのヤニで変色している天井。
だんだん黒ずんでいくこの天井は、まるで荒んでいく自分の心を現しているようで嫌いだ。
痛みが治まらない頭を抑えつつ、台所にいき水道水を一杯いっきに飲み干した。
湯を沸かしてコーヒーを淹れテレビをつけると、朝のニュースで今日の占いがちょうど始まったところだった。
朝の顔である美人なアナウンサーが、満面な笑みを浮かべて話している。
ちなみに俺は射手座なのだが、さて今日の運勢はどうなのだろうか。
「今日の運勢残念ながら最下位になってしまったのは、射手座のあなた!人間関係でトラブルが起こるかも⁉︎あまり熱くならず落ち着いて1日を過ごしましょう!ラッキーカラーは青です!」
普段あまり見ないのに、ふと見た時に限って良くないのは占いに限らずよくある話だ。
「まぁそんなもんか。もう絶対見ないからな。」
と一人で謎の宣言をした。
朝食を済ませシャワーを浴び、いつも着ている少しくたびれてきたスーツに袖を通す。
スーツを着ると1日が始まってしまうというブルーな気持ちになるが、気を落としても仕方がないので、気合いを入れ玄関のドアを開けた。
勤めている会社は家から電車で1時間弱くらいの場所にある。
結構名の知れた教育出版会社で、社員も800人を超える世間一帯で言われる大企業ってやつだ。
特に学生時代何もしてこなかった俺が、こんな会社に就職できたことは今でも奇跡だなと思っている。
朝の通勤ラッシュで満員の電車を乗り継ぎ、やっとのことで会社にたどり着いた。
新卒で入社し最初に配属されたのは、営業部だった。
会社の中でも特に忙しい営業部は、いつも電話の応対や社員の声で賑わっている。
俺はまだ下っ端なのでかなり早めに出社するわけだが、隣の企画部はそれより早く来ている社員がたくさんいる。
この人達は昨日ちゃんと帰宅したのかと思うほどやつれている人ばかりだった。
心の中でこんな風にはなりたくないなと密かに思い、自分のデスクにカバンを置いてまずは喫煙所に向かった。
タバコを吸いながらスマホをいじっていると、後ろから声をかけられた。
「おおー秋月おはようさん。今日も相変わらず怠そうな顔してんなー」
「おはようございます田嶋さん。誰のせいだと思ってるんですか笑。昨日遅くまで飲みに付き合わせたあなたのせいでしょう!」
「おいおい、朝一から上司に反論か〜。上等だかかってこい」
「やめてください笑。そんなんじゃないですよ!」
朝から妙にテンションが高いこの人は田嶋成彦さん。俺の直属の上司で入社以来一番お世話になっている人だ。
「ノリわりーな〜。そんなかんじじゃ今日一日乗り切られねーぞ」
「それは大丈夫です。今の会話でちょっとは元気でたんで笑。」
「それはようござんした〜」
そんな会話をしつつタバコも吸い終わったので椅子から立ち上がる。
「おい秋月。戻ったらコーヒー淹れて俺のデスクの上に置いといてくれ。」
「また砂糖とガムシロ多目ですか⁇もう若くないんだし糖尿病なりますよ〜」
「ほっとけ!」
喫煙所を出て言われた通りに、砂糖10個とガムシロ3個をぶち込んだ激甘コーヒーを淹れて部屋に戻った。
田嶋さんのデスクにコーヒーを置き自分のデスクに戻ると、隣の席で何やらごそごそしている女がいた。
「おはよう小野寺。朝から何バタバタしてんだよ。」
「あ〜おはよう秋月くん。いやちょっと探し物してて…。」
「何探してんだよ?」
「えっと…大事なもの…かな?」
「大事なものって?」
「来週会議に使う資料が入ったUSB〜」
「おいおいちょー大事なものじゃねーか!」
「だから必死に探してるのよ!!」
この騒がしいやつは同期の小野寺瑞歩。
頭脳明晰で容姿もよいので、男子のあこがれの的であり我が営業部のアイドル的存在なのだが、結構おっちょこちょいで焦るとうるさいやつだ。
周りの連中はそこもポイントが高いじゃないか!と話しているが俺にはようわからん。
ちなみに小野寺調査隊の話によれば、現在彼氏はいないとのことだ。
「普通にカバンの中に入ってんじゃねーの?」
「そんな場所にあったらこんなに慌てて探してないわよ」
「んじゃノートパソコンに刺さりっぱなしとかは?お前昨日最後まで資料作成してたじゃん。」
「そんな見落とし私がするわけないでしょ⁈さすがにそんなに馬鹿じゃないわ。」
「いいから一応見てみろよ笑」
「仕方ないわね一応よ一応。そんなとこにあるわけ…」
「どうだあったか?おーいなんで黙ってる」
「あった」
「馬鹿じゃん笑」
「うるさい!!」
とそんなアホな会話をしてたら部長が部屋に入ってきた。
「おーしんじゃ朝一の会議始めるぞー。まずはチームごとに報告くれー」
「先週商談に入った浅川書店の案件ですが、先方のほうからもう少し入荷期限を早められないかという連絡が入ってます。」
「あーあの店かー。あそこに置くのは小学校低学年向けの計算ドリルだろ?あれはまだ発行手筈が整ってないから、提示した日程でお願いしますと伝えておいてくれ」
「わかりました!」
「おーい田嶋のとこはどうなってる?」
「先日話した商談はまとまりました。後は学習塾の方から新教材の作製要望があったので、今日また行って話つけようかなと思ってます。」
「りょーかい。まとまったら報告書後でみせてくれ」
「わかりました」
「はいそれじゃ朝の会議終わりー皆んな仕事に移ってくれ」
「おっしゃーんじゃさっそく秋月、小野寺でるぞ」
「ういーす」「はい」
こうして今日も営業周りが始まったのだった。
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