華ことば
華宗
煙草
先輩の煙草を、勝手に持ち帰った。
先輩が、机の上に忘れて帰った煙草だ。
蓋を開けると、吸い口の茶色い煙草が四本と、使い捨てのライターが入っていた。
乾いた唇の隙間に差し込み、慣れない手付きで火を着ける。
初めて吸った煙草はひたすら苦く、虚しい味がした。
草臥れたスーツ。
徹夜明けの横顔。
煙草、煙草……あの人の匂い。
「先輩、ごめんなさい……ごめんなさい」
抱いてはいけない感情。
気付いてはいけない感情。
煙草は徒らに燃え尽きた。
後に残された白い塊が、机の上で音もなく砕けていた。
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