檻の中のジョニー
琴乃佗 博(ことのほかひろし)
第1話檻の中のジョニー
昼間のショーの後、ジョニーは檻の床に伏せて、エマが来るのを待っていました。ジョニーは幼い頃からエマの事を母親の様に思っていました。ジョニーと言う名前は、エマが付けてくれました。夕方になりジョニーが待ちくたびれて寝始めた頃、エマの足音が聞こえてきました。「ジョニーお待たせ〜って言うかジョニーもう寝ちゃったの?」と言うと、エマは檻の中に入り、ジョニーのたてがみを撫でながら耳をグシャグシャッとすると、いきなりジョニーの上唇をガバッと持ち上げて、「虫歯はありませんね〜よしよし起きたらちゃんと食べるのよ〜」と言うとエマは餌を置いて檻を後にしました。ジョニーは、エマが居なくなったのを見計らって起き上がると、エマが置いていった餌を食べ始めました
。エマが来ていた時、ジョニーは目が覚めていましたが、エマにかまって欲しくて寝たフリをしていました。幼い頃は素直に甘える事ができたジョニーでしたが、何時の頃からか、甘える事が恥ずかしくなっていました。ジョニーが餌を食べ始めると、その日は何故か尻尾に違和感を感じましたが、檻の中には他には誰も居ない筈と思い、また食べ始めると、何者かが尻尾にガリッと噛みつきました。ジョニーは割りと気が小さい方なので、恐る恐る振り返ると、尻尾の陰に隠れている、小さなネズミと目が合いました。ジョニーにとって、自分が他の動物に食べられるなんて事は、初めての経験でしたから、果たしてどうしたものかと、迷いましたが、とりあえず尻尾で跳ね飛ばしてみました。すると小さなネズミは軽々と、跳ね飛ばされて、檻の鉄格子に、ぶつかりました。思いの外大きな音がしたので、ジョニーは少し心配になってネズミの様子を見に行くと、ネズミは仰向けに横たわっていましたが、やがて手足が動き始めました。良く見ると、ネズミは何時怪我をしたのか、左の脇腹が酷く傷ついていて、後ろ足にも血が滲んでいました。ジョニーは怪我をしているネズミを、そのまま放っておく訳にもいかず、ジョニーはネズミを顎の下で一晩中暖めながら寝ました。すると次の朝ジョニーは何者かに起こされました。何者かがジョニーのヒゲをツンツン引張っていました。ジョニーは、それが昨日のネズミだという事が直ぐに判りました。少し元気を取り戻したネズミは、ジョニーを見つめながら、ヒゲを掴んでいました。ジョニーはネズミがずっとヒゲを掴んでいても困るので、果たしてどうしたものかと考えました。そこでジョニーは、ネズミをヒゲにぶら下げたまま餌の所に連れて行きました。小さなネズミはひとしきり餌を見つめると、ジョニーの方を、じっと見つめたまま食べようとしないので、ジョニーが先に食べて見せると、ネズミも一緒に食べ始めました。ジョニーはネズミと一緒に食べる事で、誰かと一緒に食べる事の楽しさを感じていました。そして今迄、自分が食べ物の味も何も感じないまま、ただ黙々と食べていた事に気が付きました。小さなネズミは本当に良く食べました。残っていた餌をキレイに食べると、ジョニーの顎の下に潜り込んできました。何時も昼寝の時にはゴロンゴロン転がっているジョニーでしたが、小さなネズミが眠れる様に、この日ジョニーは、微動だにしないまま、何時の間にか眠っていました。
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