ふくよ来い来い
カゲトモ
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開店して間もない時間、かろんとベルが鳴って扉が開いた時には、まだ店内には俺と斉藤君しかいなかった。
「「いらっしゃいませ」」
ジャズのメロディだけの静かな空間に躊躇いがちな足音を響かせて、白い妖精は来店した。
「こんばんは」
肩で切り揃えられた艶やかな黒髪を揺らして、ふわりと微笑んだ白い肌にはじわりと紅く染まっていて外の寒さを物語っている。
「外、凄く寒かったんじゃないですか?」
「はい、凄く寒かったです。まだ雪は降っていない様ですけど、ちらついてもおかしくない位に」
「明日は雪の予報ですものね。降らないと良いのですが」
天気予報でもまたひどく雪が降ると言っていたし。
「わたしは雨女ですから、もしかすると降ってきてしまうかもしれません」
「ふふ、でも先日お会いした時は、大丈夫でしたね」
初めて来店した時も、その次の時も、彼女が店に来る日は雨が降っていたけど、この間店の前で出会った時は雨も雪も降っていなかったから。
「今日のお洋服も星見さんの手作りですか?」
ファーのマフラーとコートを脱いだ彼女に訊いてみる。相変わらず可愛らしい
「はい、今日はお仕事だったので、シンプルに」
そう言ってわざわざ目の前でターンしてくれる。チュール生地を重ねたスカートがふわふわと膨らんだ。ボルドーのニットは袖がフリルになっていて、シンプルでいても彼女らしい。
「わたしのクローゼットには、作ったモノの方が多いので」
「星見さんは今日もとても可愛らしいですね」
「えっ、あ、や、そんなこと」
驚いてから困った顔になって、ふふと微笑む。自然に笑ってくれるようになったのが何だが嬉しくて、ついこっちまで頬が緩む。
「えっ、この服、お客様が作られたんですか?」
ひとり驚いた顔の斉藤君にカクカクシカジカ。ロリータ服の良く似合う星見ロロさんはファッションデザイナーで、着ている洋服は手作りだ。そして今度、マリオ君が在籍する劇団トライトットの舞台衣装に協力をしているそう。若いのに凄い子だ。
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