僕は君の柔らかな右手に恋をする。
佐多こみち
序章
午前七時十五分、部活動が余り盛んではないこの高校では、まだ生徒の声は聞こえてこない。開かれた昇降口も、ただ風が通るのみだ。
静かな校庭に脇目もふらず、女子生徒が一人、校舎へと向かう。正しく着こなした制服に化粧気のない顔、艶のある黒髪は、まさに品行方正な高校生そのものである。ただ一点、左手に握りしめられた空のビニール袋を除いては。
女子生徒は昇降口をくぐり、自身の靴箱の前に立つ。何気ない動作で靴箱の扉を開くと、そこにあるのは彼女の上履きではなく、泥、紙屑、木の枝、生ゴミ、あらゆるゴミであった。
彼女は左手のビニール袋を広げ制服の袖を少し捲くると、それらのゴミをビニール袋に放り込んでいく。その間、彼女の表情は動くことなく、ただ淡々とゴミを処理していく。
全てのゴミをビニール袋に詰め終えると、口を結び備え付けのゴミ箱にそっと落とす。そして右肩にかけていた鞄から上履きを取り出し足をいれると、何事も無かったように教室へと向かっていった。
奇妙な光景だが、彼女に取っては日常である。なんの変哲もない、毎日の習慣なのだ。
彼女が虐めなどといった事を受けているわけではない。
ならば何故、彼女の靴箱は毎日ゴミで満たされているのか。
それは、5ヶ月ほど前、彼女が高校に入学してから一ヶ月程経った頃の事だった。
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