3-4
年が明けて。
私は二人の友人をランチに誘った。前から気になっていたオムライス屋さんだ。
「ここ、わたしも気になってたのよね~。さすが夏帆ちゃん!」
モッツァレラトマトオムライスに舌鼓を打っているのはサークルの一つ上の先輩、森本さんだ。「書道部の母」の異名を持つほど母性に溢れ、そして恰幅の良さが安心感を与えてくれる。
「私もオムライス作ることありますけど、どうやったらこんなふわふわになるんですかね」
こちらは一つ下の後輩、祥子。私は勝手に「書道部の嫁」と呼んでいる。ももちゃんと祥子、二人彼女がいるという設定だ。しかし二股のつもりはなく、それぞれを愛している。
全幅の信頼を置いているこの二人に会おうと思ったのは、切っても切ってもめげない変な虫さんについて相談しようと思ったからだった。
「随分身の程知らずの男がいたものね」
森本さんはばっさりと言い放った。
「夏帆ちゃんみたいな絶世の美女に言い寄るなんて。よほど自分に自信があるか、ただのアホよ」
「写真ないんですか?」
ちょうどツーショット写真があったので、スマホを二人に見せた。
「ページェント行ったんですか。夏帆さんめーーっちゃかわいい」
祥子は変な虫を完全に無視していた。
「男の方はフッッツーーーね。顔は下の中ってとこかしら」
森本さんはまたもばっさり。私もそこは同意見だ。下の中男。
「祥子ちゃんはこの男どう思う?」
「そうですね……」
祥子は渋々といった様子で目線を変な虫に移す。
「……小顔ですね」
森本さんがあまりにあけすけにこき下ろすものだから、祥子は少しでも良いとこを見つけようとしたのだろう。しかしやっと見つけたのが「小顔ですね」では齋藤さんが不憫になる。
「まぁ、写真じゃ分からないですし。人間顔じゃないし。齋藤さんでしたっけ、どういう人なんですか」
「悪い人じゃないんだけどね。初対面でプロポーズしてくるような人」
「ただのアホじゃないの」
「でも、私のこと本当に好きだって言うし。いっくら切っても好きだ好きだって言ってくるんです」
言いながら、これじゃあの男をフォローしているみたいだと思った。なんで私が齋藤さんをフォローしないといけないんだ。
「夏帆ちゃんはどうしたいの?」
「わかんないんです。好きな人……いや好きな男の人なんて今いないし。誰かと付き合ったこともないし。齋藤さんは好きだって言ってくれるけど、私は恋愛経験なさ過ぎて好きっている気持ちがもうよくわかんなくて。男は信用ならないし。好きって何度も言われて、きっと本当に好きでいてくれてるだろうなって思っても、心のどこかで本気なのかな、結局顔だけかなとかも思っちゃう」
「男はね、嫌いっていうのは嘘でも言えるけど、好きっていうのはホントに好きじゃないと言わないものよ」
わたしも男だからわかる、と森本さんはにっこりと続けた。
森本さんは口調こそアレだが、男だ。恋愛対象もどちらかというと女性らしいのだが、「どちらかというと」というのがミソだ。
「最初は顔が良かったからみたいなきっかけかもしれないけど、好きっているのは信じていいんじゃないかしら」
「私もそう思います。でなければ新幹線の距離しょっちゅう会いに来たりしませんよ」
二人にそう言われると、そんな気がしてくる。
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