40 報道合戦
iBフロンティアの活動は、メディアの知られるところとなった。NNC(ニュースネットワーク中京)のニュース・エブリシングは、徳富紗枝キャスターとコメンテーターの津田梅雄名古屋経済大学公共経営学部準教授とのかけあいで、次のように報じた。
「除染物の不法投棄に元官僚グループが設立した法人が関わった疑いが持たれています。この法人は中央省庁の元官僚4人が設立した一般社団法人iBフロンティアで、民間企業の自主除染物20万トンの処理を無償で受託した上、中央電力に処分費用として200億円の賠償金を請求、集めた除染物の大半は肥料としてリサイクルされた模様です。農林水産省は肥料取締法違反に該当するか調査中だが、現時点で違法とは断定できないとしています。今回、不法投棄されたのはその一部と見られますが、この法人は関与を否定しています。この法人を陥れるための偽装不法投棄ではないかとの見方も出ており、真相はまだ藪の中です。なお、元官僚4人の出身官庁は、経済産業省、環境省、農林水産省、国土交通省です。省庁の利権構造にお詳しい津田先生は、この事件をいかがご覧になりますか」
「これは氷山の一角ですよ。復興事業をめぐって巨額の利権が動いているのです。公務員倫理が厳しくなり、自ら利権に関われなくなくなった官僚の退官が相次いでいるとも言われます。利権の作り手の官僚、受け手の元官僚がもしも同一人物だったらどうですか。この自作自演の利権は贈賄にも収賄にも談合にもなりませんよね」
「iBフロンティアを設立した元官僚の4人も自作自演の利権ビジネスをしているということですか」
「いや、この4人が退官したのは政権交代のころです。しかし、復興事業や法律の盲点につけ入る手口は当時も今も同じでしょう」
「除染物を肥料としてリサイクルしたというのはどういう意味でしょうか。肥料にすれば放射能がなくなるのでしょうか」
「汚染物質を埋立処分するにしても、廃棄物処理法や土壌汚染対策法では厳しく、肥料取締法では緩いんです。そこで汚染土壌を肥料に作り変えるという手口が可能になります」
「なるほど、それが法の盲点という意味ですか」
「縦割りの盲点と言ってもいいでしょう。官僚OBといっても1人ではなかなか気付けないことでしょうが、4人だから気付けたのでしょう」
「iBフロンティアは、震災以降、数百億円の利益を得ているとも聞かれますが、どうやったらそんなに儲けられるのですか」
「それがわかれば僕もやりますよ」
「現場はどんな危険がありますか」
「除染物は河川敷に置かれていますから、これから出水期になりますと、河川に流出する危険があります。その前に適正な場所に移動し、適正に処分することが必要ですね」
「それは誰がやるのですか」
「原因者負担が原則ですが、原因者がやらなければ税金でやるよりないでしょうね」
「先生、よくわかりました」
地元メディアにとどまらず、全国ネットのテレビキー局、全国新聞各紙が事件の経過を報じ、新ネタがなくなった後も、悪徳元官僚らが起こした巨額震災利権問題として、格好のワイドショーネタや週刊誌ネタを提供し続けた。
滋賀県警の捜査の結果、渋川はiBフロンティアを通さずに自らの裁量で除染物を集めてHANASAKAの仮置場に運び入れ、処分先の当てがないのにiBフロンティアの手口を真似て中央電力に賠償請求したようだった。渋川の架空名義口座に中央電力から10億円が振り込まれていたことも判明したが、すでに全額がネットバンキングで複数の口座に送金されていた。これらの口座もすでに空だった。県から告発状、中央電力から告訴状が提出され、渋川に詐欺容疑(刑法246条)、門倉に不法投棄容疑(廃棄物処理法16条、渋川に共犯容疑)及び流水阻害容疑(河川法29条1項)で逮捕状が出た。
警察の捜査とは別に、ヤクザたちも血眼で渋川を探していた。警察より先に身柄を抑えて10億円を横取りしようとしたのだ。さまざまな潜伏先の噂が流れたが、その中でもタイで渋川を見たという情報が最も確からしかった。スリラー(マイケル・ジャクソン)の絵柄のキモノを着た(刺青をした)日本人が、現地の女と豪遊していたというのだ。渋川が兵庫県警を分限免職されたのは、若気の至りの刺青がばれたせいだった。彼は免職を不服として訴訟を起こした。結果は敗訴だったが、どんな愚かな行為にも支援者はいるし、金儲けのネタにしようとする輩もいることを学んだ。
警察も同じ情報を手に入れたのか、国際手配の結果、渋川は逃亡先のアユタヤのコテージで、売春婦複数人と同棲しているところを拘束され、日本に送還された。現金は500万円しか所持しておらず、10億円の大半の所在は不明だった。逮捕されたおかげで、ヤクザに殺されずに済んだかも知れなかった。
iBフロンティアに責任はないと関与を否定したジョーカーだったが、不法投棄物の撤去協力を県に申し出た。県は当事者による自主撤去ではなく、第三者による撤去協力として撤去業者や撤去先を公表しないと約束した。ところがiBフロンティアによる撤去の詳細について、住民から県に情報公開請求(滋賀県情報公開条例5条1項)が出された。県はこれを自主撤去や撤去協力を妨げるとして拒否(同条例6条3号)し、異議申し立て(同条例18条の3)に対しても、情報公開審査会への諮問の上、却下(同条例19条)したため、公開を求める抗告訴訟(行政事件訴訟法3条6号義務付けの訴え)に発展した。裁判所は判決で文書公開を命じたが、県は該当文書が廃棄処分済により不存在(同条例10条2項)として、なお公開に応じず、記者会見で撤去先は栃木県の産廃業者であるが業者名は公表できないとコメントした。県の公表を不十分とした住民が再度文書公開請求訴訟を提起したが、裁判所は終局判決確定済として却下した。
渋川は裁判の結果、罰金100万円、懲役1年6月、執行猶予3年の判決を得て釈放された。iBフロンティアが現場の撤去を申し出たことも情状として斟酌された。10億円は仮想通貨ビットドルに換金した後、パスコードを盗まれて消失したと言い続けていた。
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