lesson.12 草壁凛
「今日は草壁凛さんだ」
「凛様!推しメンっス!」
「一流大学の大学院生で、言動は品行方正そのもの。同じ神ファイブでクール系アイドル仲間の明日香さんと一緒にユニットを組んでます」
「古参のファンは子役女優のイメージも強いっスよね」
「歌の花咲このは、ダンスの氷室明日香……彼女たちに隠れてるけれど、神ファイブと言われるだけあってアイドルとしてかなりの実力者だよ」
「ショートカットの眼鏡っ子。持ち前の頭の良さから『委員長』ってあだ名もあります」
「良くも悪くも縁の下の力持ちって所かな。二人の邪魔にならず、かつ自己主張も忘れない」
「『最悪現役で花咲このはに勝てなくても、引退までは草壁凛にこの地位を譲らないようにしたい』――お姉ちゃんの口癖よ」
「神ファイブ同士、ユニット仲間でもライバル関係にあるんスね」
「でも不思議よね。そもそもアイドルなんて興味なさそうな人生なのに、今では神ファイブよ?」
「た、たしかに」
────────
「いや、私そんなに『良い子』じゃないわよ?なんなら元ヤンだし」
「嘘だッ! 」
「はい、証拠画像」
「嘘だぁ……」
二日目は
彌生さんとは違って勉強を中断するのではなく、雑談しながら勉強をするスタイル。文法や公式と会話内容を紐付けすることで、あの話をした時に覚えたやつを使えばいいんだなってなるらしい。俄には信じ難いよね
話を戻すけど、さっきの画像は確かに不良が多いことで有名な中学の制服を身にまとって、ビール片手に煙草を吸う姿で、紛うことなく凛さんそのものだった。意外すぎるというかそれ以前にコレ犯罪では?まあいいか
「……あれ、これどうやって解くんだろ」
「それはさっき教えた公式を応用して──」
「あ、そっか!」
経験があるからか、教え方がとても丁寧だ。実にわかりやすい。でも私は凛さんの過去が気になって仕方がない
「グレたきっかけからアイドルになろうって思った理由、聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
────────
非行の道に走ったのは、自分が被害に遭わないためよ。あの中学のカーストは至ってシンプル、強ければ強いほど上に行ける。逆に言えば喧嘩慣れしてない『良い子』ほどターゲットになるし、集られる。それが嫌で不良になった。何度かお巡りさんの世話にもなったわ
そんなある日、とある映画監督にスカウトされたのよ。『君のような不良を演じている真面目な子は滅多にいない、気に入った』なんて言われてね。実際そうだったから監督に興味を持ってそのスカウトに応じたの
芸能界入りするということは、身嗜みやマナーをきちんと守らなきゃいけないでしょう?だからその監督に叩き込まれたわ。ちょうど二年生の夏だったかしら
────────
「それはあくまで更生した理由ですよね?」
「そうよ。親に今までの非行を謝罪して、頑張って勉強して高校、大学へ進出。その頃スカウトされたの」
「誰にですか?」
「不知火コーチの姪っ子さんよ」
「そんな人いましたっけ?」
あの人自分のことは何も教えてくれないんだよね。せいぜい私が知ってることといえば、好きなビールの銘柄くらいなもので。家族構成なんか一言も聞いたことがない
「その人の名は、
「初期の神ファイブじゃないですか」
花咲このはがSTAR☆BLUEに入所したと同時に引退したアイドル、黒潮サクラ。スタブルがデビューしたときのメンバーで、それこそ凛さんの立ち位置とそっくりだったのを覚えてる。性格はどちらかというと彌生さんやエレナさんに似ていたけどね
「でも、何でそんな人がスカウトを?」
「私が初めて主役を演じたドラマで共演したのがきっかけよ。『凛はアイドルの方が絶対向いてる!』って何度もスカウトしてくれたの」
素晴らしい先見の明の持ち主だ。そしてここまで聞いて思ったことがある
「努力家なんですね。彌生さんも、凛さんも」
「……それは違うわ。少なくともSTAR☆BLUEに所属する子はごく一部の例外を除いて皆が努力家だもの。アイドルはだからこそ輝くのだと私は思う」
例外って──ああ、このはさんのことか
「その努力を見せないために心から楽しもう、ですよね」
「それ彌生さんの言葉でしょ」
「はい。昨日そう教えてくれました」
「いい言葉よね。私も好きよ」
私との雑談も神ファイブ間で共有されてるのか、末恐ろしい
でも折角だし、少し相談してみよう
「……私、持病の影響もあってレッスンに着いていくので精一杯なんです。そんな私でも、いつか楽しんでステージに立てるのでしょうか」
昨日、四本使ったって言ったけど、あれは基礎トレ・ダンス・発声の三つのレッスンそれぞれで、っていう意味。つまり二時間で三本使ってる計算になるから、私達6ix waterが半分見切り発車で始めた練習量の単純計算で三倍の密度があるってことだよね
それをこなした上でさらに自主練習を頑張って、心から楽しんでる。トップアイドルとはそういうものだというのに、将来私がそうなってるビジョンが全く見えない
因みにこの神ファイブ専用施設には医療用酸素ボンベが常備されてるけど、アレ動けないし鼻にチューブを差すやつだから苦手なんだよね。動けるやつもあるけど重いし。だからボンちゃんこと携帯用の酸素缶みたいなのを愛用してるんだ
「……私自信が『あ、私ちゃんと更生できた』って思ったのはいつだと思う?」
「え?」
「高校に入ってからよ。更生の仕方なんて誰も教えてくれない、自分で切り開くしかなかったわ」
「……」
「貴女も今まさにその時。原因不明の病気を患いつつもアイドルとして私達と渡り歩こうとしている。いつになるかは分からないけれど――絶対、楽しめるようになるわ」
トップアイドルは、努力を乗り越え全力でステージを楽しんで、皆と一緒に盛り上がる。それを成し遂げた凛さんが言うのなら信憑性は高いかもしれない
ふとタニンノソラニのふわりちゃんこと安城羅メルさんの言葉を思い出した。私のルックスと歌唱力なら神ファイブも夢じゃない。彌生さんに似た者と評され、凛さんに素質を認められた私はその言葉を忘れないようにしなくちゃね
いつか神ファイブを追い越す、その日のために
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