第172話

 小さかった渦は瞬く間に広がり、直径1キロ程の球体がエレノアとス一パ一ダ一クエネルギ一との間に出現し、対峙する……。


 球体は、漆黒、どす黒い、そのどちらの表現でも適している様で、別な言葉でも表現できる複雑な色と景色……。


 自らの危機を感じ、蠢き、唸るス一パ一ダ一クエネルギ一にエレノアは言い放つ……。




「さぁ、消えなさい……」


「モード・ウィッチ……アクティベーション……」


 サブ・イグジスタンス・スティックを掲げ、エレノアは自らにしかできない「業」を遂行する。




 あの時を取り戻す為に……。


 球体の内部がゆっくりと渦を巻く…自らの危機を察知したス一パ一ダ一クエネルギ一は、今までにない「悲鳴」を上げる……。


 徐々に、ひたひたと確実に追い込まれるス一パ一ダ一クエネルギ一に抵抗する「余裕」はない。


 人型や、他のダークエネルギーを生み出す事すら諦めたかの様に、その悲鳴は切なさを帯びてゆく。


 あれだけ圧倒的な猛威を振るっていたス一パ一ダ一クエネルギ一が、素直に、あっけなくエレノアの術中にはまり、その姿を崩し、吸収され始め、崩壊してゆく……。




「さあ……私と一緒に逝きましょう……」


 尚もサブ・イグジスタンス・スティックを高々と掲げ続け、言うエレノアの瞳は、少女にはない女の色香が佇む……それは、ようやく自分との折り合いがついた安堵からなのか、全てを妹に託した姉としての立ち位置がそうさせるのか……女としての「幸せ」がもう叶わない事実に対する哀れみの要素なのか……それとも、るおんの「生き写し」のりおんとの対話で過去の清算を行なった故の魂の軽量化による趣の変化なのか……それらを含み「死」を受け入れた末に辿り着いたある種の達観が導いたものなのか……。


 そんな事を思い、少しはにかむエレノアも、自身が創り出した球体にじりじりと吸い寄せられているが、ス一パ一ダ一クエネルギ一より先に「消失」する事を避け、堪えてもいる……。


 ス一パ一ダ一クエネルギ一より先に消失する……即ち「敗北」である。




 モード・ウィッチ……。


 それは、意図的に「異空間」を創造し、その世界にス一パ一ダ一クエネルギ一を、そして自身をも呑み込ませる「唯一」の解決策……。


 故に「消失」ともいえるその執行は「死」に等しい。


 創造された異空間がどうなっているのかは、誰もわからない……。


 ひとりの「女」を犠牲にした現状、これしか有効な手立てがないス一パ一ダ一クエネルギ一との戦い。




 今のエレノアも、歴代の優れたプラチナスタークラスの魔法少女達も、このモード・ウィッチでス一パ一ダ一クエネルギ一を掃討してきた……それは、るおんとて、同じである……しかし、彼女の執行はイレギュラーなものだったが……。

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