6*何故ですの……。

第148話

 冬休みも残り数日……遥か上空でりおんの「暴挙」を免れた監理局の監視衛星が、ひばりの懸念を具現化する電波と影を感知する……。




「ったく、退屈な冬休みだったなぁ……」


 冬休みが終わったインターナショナルクラス……予定していた里帰りが叶わなかったキャサリンが、溜まった憤慨をりおんとひばりにぶつける。


 大半のクラスメイト達が、それぞれの母国に帰り、家族や友人と再会して、新年を迎える筈だった「ストーリー」が、評議院によって書き換えられ、日本に「幽閉」され、ほぼ退屈な日々を過ごした「恨み」を、互いに会話するという手段で解消し合い、幾ばくかの心の浄化を果たした少女達の気と熱が、教室内に対流する……。


 同じマンションに住み、部屋を行き来して、退屈な中で唯一、日本流の新年行事を「楽しんだ」彼女達であっても、学校という独特の領域で交わされる会話は、普段の「それ」とは質が異なるのかもしれない。


 この現象は、欧州カルテットとて同様である。




「出国禁止なんて、酷な事するわね……」


 ひばりが、キャサリンの、クラスメイト達の念をすくい取り、言う。


「ま、まぁ……そのかわりに日本のお正月を体験できたんだし、プラマイゼロって事で……それと、みんなで初詣も一緒に行ったし……ねっ、キャシー」


 相も変わらぬりおんのいい意味での「適当」さが、ひばりの場を読んだ言葉と仕草を上書きする。


「んーっ……日本の着物を着られたのはいい経験だったかな……ちょっとキツかったけど……んまぁ、誰かさんの妨害でダラスに帰れなかったけど、着物と初詣でチャラにすっか……」


「そう言ってもらえると、嬉しいわ……」


 あっけらかんと恨み節を吹き飛ばすキャサリンの弾んだ声に、同じく初詣に参加したクラスメイト達も溜飲を下げる。


 国に帰れず……悶々と冬休みを過ごすのも……


 クリスマスは、それぞれの国の流儀で過ごした彼女達に、せめて新年は日本を感じてもらおうと、ひばりとりおんが計画し、みんなを初詣に誘った。


 クラスメイト達、りおんの着物は、ひばりの実家のつてで用意した……老舗和菓子屋の交流範囲には、着物問屋も含まれているのだろう……。


 せっかくだからと、エリザベスやシフォンも誘い、ふたり共喜んで参加した……。




「はいみんなぁ、あけおめチョリーンすっ……」


 何処でどう聞きつけたのか、ド派手な配色と独特な着物の着付けでギャルな決めポーズをかますマリカが、鳥居の前で勝ち誇った表情でりおん達を待っていた……。

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