第145話

 私は死ぬ……そして解放される……。




 御母様、リンスロット、オフェリア、共に戦ったみんな……不出来な娘、魔法少女でごめんなさい……。


 瞼を閉じるエレノア……。


 閉じていても死をもたらす白い輝きが漆黒の脳内世界を煌めかせ意識、躰を覆い尽くしてゆく……。




「さようなら……」






「いよっと……」


「ふうぅ……なんとか間に合ったわね……」


 エレノアの目前まで迫っていたレーザーを、片手ではね退け、その人物はもう一方の手で額を拭う。




「えっ……」


 死を拒否されたエレノアの前に立つ魔法少女……いや、後ろ姿から推測するに、予備役か退役組のかつての魔法少女……。


 エレノアの後ろにも数名、同様の人物達が控える。




「こらこらっ、エレノアちゃんっ……死ぬなんて考えてはいけませんよ……」


 少しふざけた口調と表情で、エレノアを諭す人物。


 明らかにエレノアよりも年上の筈なのに、子供の様であり、少女であり、屈託のない身のこなしと佇まい……。




「あ、あなたは……」


「まぁまぁ……私達が来たから、もう大丈夫よ……って言っても確たる自信もないけどね……」


 ウインクし、透明な心から醸し出される「曖昧」な言葉であっても、エレノアの魂は恐怖、呪縛から解放されて、こんな状況でも癒される不思議な感覚。


 かくして、エレノアがその女性と言葉を交わしたのは、たったそれだけだった……。


 一瞬であり……永遠……。




「それじゃ、ちょっと行ってくるわね……」


 エレノアを抱きしめ、彼女に課せられた「全て」を女性は吸い取り、スーパーダークエネルギーへと向かう……。




 その後の事象を、エレノアはあまり覚えていない。


 眩ゆい閃光……締まる空間……鎮まる闇。


 歪む景色……エレノアをかすめ、後方に流れてゆく女性のポーター……。


 スーパーダークエネルギーのいなくなった「日常」の宇宙……。




 たったひとつ、あの女性がいない風景……。


 スーパーダークエネルギー、エレノアの「重圧」と共に「消えた」女……。






 りおんの母……「るおん」である……。


 そして、漂流するポーターを回収した人物が、るおんの親友であった鏡花……。


 るおんが世界を救った。


 当然、この「不名誉」な真実は魔法評議院に隠蔽される。


 島国……日本の、しかも当時退役組のるおんに世界が救われたなど、到底評議院が納得し得るものではない……。


 欧州こそ最強……そこに「適当」なるおん……「後進国」の日本に泥を塗られた。


 承服など、できる筈がない……。

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