第133話

 既に「自由時間」は過ぎ、ホームルームの時間を侵食していた。


 故にエレノアを迎える為、汐らしく着席したクラスメイト達に気づかないリンスロットとキャサリンの言い争いにりおんが忠告を入れたのだが、ふたりはりおんの「気遣い」を聞き入れる事はなかった。


 それが、この結果……。


「エ、エレノア先生……」


「御姉……いえ、エレノア先生……」


「おふたり共、先の文化祭の失態も忘れる程に仲がよろしいのですね……」


『ギクッ……』




『すみません……』


 痛いところを突かれ、謝罪し、そそくさと各自の席に戻るふたり……。


 エレノアも、それ以上何も咎めず教卓へ向かい、いつも通り少女達の名前を呼んでゆく……。


 名前を呼ばれた少女らの返事は、いつもより上ずっていた……。






「ふうぅ……なんか最近多いよな、ひばり……」


 12月中旬、頻発するダークエネルギー襲来に、メキシコ出身のイバネスが愚痴をこぼす。


「そうね……」


 言葉少なのひばり……。


 未だ、りおんのマジカルリンク解除は続き、評議院やエレノアの真意も不明。


 クラスの雰囲気は表向きには変わらない……変わろうとしているのは、少女達の裏に隠れている者達。


 鏡花の産休は致し方ないにしても、代わりの人員を評議院が強引にエレノアを選定、派遣した事に監理局は激しく抗議した……。


 とりわけ、アメリカの尖り具合は他国を驚かせた。


 監理局の本部も日本に持っていかれ、企んでいた鏡花の代わりも評議院に「すり替えられ」て、世界のリーダー足り得たい面目は潰されたに等しい。


 ご多聞に漏れず、監理局も一枚岩ではない。


 アメリカ主導の下、北中米、南米連合が独自に魔法少女やポーターの能力の解析に乗り出し、応用を密かに研究しているというまことしやかな話も流れる……。


 無論、アメリカが素直に「それ」を認める訳もなく、噂話は監理局内を駆け巡る。


 そこに評議院の「圧力」が加わる。


 欧州カルテットのみが重圧を受けているのではない……北中米、南米連合や他の国出身の魔法少女達にも大人の思惑が照射され、その「小さい躰」で受け止め、含み、監理局やエレノアとの距離感を計測する……それは、ひばりとて例外ではないのかもしれない……では、りおんは……。




「どうしたひばり……もう還ろう……」


 イバネスが、遠くを眺めるひばりに言った。




「不気味な宇宙そらの色……何も起こらなければいいけれど……」


 遥か彼方を眺め、ひばりは自らに言い聞かせる様に想いを込め、願った……。

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